No.1298 ≪経営は「待つ」事が多い≫-2024.2.7

今週は久しぶりに俗世を離れて過ごしています。飽食になれた身体に医療的ファスティング(断食)が必要なように、真偽混淆の情報洪水から脳を護るためにデジタル・デトックスが必要なように、本来の明朗な心を取り戻すためには波動の高い神社参拝や座禅瞑想も必要です。来週は生まれ変わってお目にかかりたいと思っています。
さて、今日は経営における「待つ」意義を考えたいと思います。
質問です。「あなたの会社の存在理由は何ですか?」「あなたは何のために会社を経営していますか?」「あなたにとって社員とはどのような存在ですか?」「愛されキャラで計り知れない可能性を秘めた人材ととっつきは悪いが高度の専門能力のあるプロ人材とどちらを選びますか?」

巷間「飛ぶ鳥落とす勢いの急成長企業」と評判をとると世間の脚光を浴びます。マスコミでも取り上げられ社員も悪い気はしません。時流にのると倍々成長で5年もしないうちに十倍以上の成長を遂げる企業も沢山あります。倍々成長を10年続けると500倍、20年だと52万倍になります。車の運転同様に成長スピードは視野の2乗と反比例しますので経営者の相当な器量が求められますが、理論的には可能です。例えば、マクドナルドやスターバックスのようなフランチャイズ方式による展開、ニデックのような戦略的M&Aの推進、ユニクロのようなユニバーサル・ヒット製品の開発、GAFAMのようなプラットフォームビジネスなど。これらの超優良企業でさえ倍々成長できる期間はせいぜい5年で、その後はマーケットの成長度合いにもよりますが市場規模の約70%(いわゆる寡占状態)まで毎年30%〜50%成長することは可能でしょう。上限に達すると現状維持するだけでは多大なコストの割に利益率が低下し減益になってしまうものです。シナジーの伴った事業ドメインを再構築しないと再成長できません。

当社が経営コンサルティングを提供する対象企業は日本の99.7%を占める中小企業です。年商では100億円未満。社員数では300人未満です。中小企業でも倍々成長できる時がありますが長くて3年です。年商1億円が3年後4億円、年商10億円が3年後20億円と言ったところです。それ以上続けるとヒトかカネで行き詰まり、最悪は負債を抱えて消滅します。意識的にスピードを落として、踊り場を設けて、慎み深く経営することが永続には必要です。トップが株主に徹してプロ経営者、プロ幹部、プロ人材をビジネスライクに雇って株主利益最優先の経営するなら良いですが、それでは経営者ではなくなります。「あなたは何のために会社を経営しているのですか?」という質問に答えられなくなります。

日本的経営者は「社会を良くする」「大義があれば利益は後からついてくる」「三方よしの誠の経営」「人中心の祈りの経営」「100年以上続く息の長い会社」という価値観を持っており、金儲けのためには会社も売買の対象とする欧米とは一線を画し、成長よりも存続を尊重しています。少なくとも私はそう思っています。だからM&Aも頼まれて買うことは人助けですから損得抜きでGOですが、嫌がる相手を無理やり買収するようなやり方は少なくとも日本的中小企業にはなじみません。瞬間的にうまくいったとしても長続きしません。会社の成長には時機があります。時機とは「天の時、地の利、人の和」が一致する時です。
不動産売買の先達から教えていただいた言葉があります。「買ってくれと頼まれた人助けの不動産は絶対買うが、自分が欲しいと思う不動産は失敗する。その時が来るのをじっと待つ」そうです。

人づくりも同様です。人は変わります。必ず変わります。「いつ変わるか?」と問われれば「いつの日か変わる」と答えましょう。禅語に「人は三日会わざれば刮目して見るべし」とあります。人はそうありたいと願い自らを磨き、トップはそうあってほしいと「待つ」ことが重要です。トップが人を思い通りに変えたいと思うのは我儘にすぎません。相手を変えるよりトップが変わればよいのですから。「水辺の馬」(イギリスの諺)の教訓を忘れてはいけませんね。ライフサイクルの変化はトップも社員も同じです。環境が変われば気持ちも変わり価値観も変わります。人が変わる時機はいつ来るかわかりません。社員の成長を信じて経営者は機を見て能動的にかかわりながら「待つ」ことが出来なければ務まりません。特に日本的中小企業の経営者は。放置するのではなく積極的にかかわりながら「待つ」のです。

故安倍総理と習近平主席がそっぽ向いて握手していたころの2015年5月に日中関係が最悪の時に「日中大学学生芸術交流展」を上海大学図書館で開催しました。実現に向けて強力にサポートしていただいた中国人の教授は学生たちが悪戦苦闘しているのを見てこうおっしゃいました。
「親という字はね、木の傍に立って子供の様子をそっと見守ると書くんですよ。もしも子供の身に危険が及ぶとさっと助けるんです。」と言われて「なるほど!」と感動しました。やはり「待つ」んですね。

日進月歩から秒進分歩にスピードアップして久しい今、経営における「待つ」意義を見直してみませんか?
いかなる質問にも数十秒で見事な論文で回答する超優れもののAIには「待つ」ことは絶対にできない芸当です。