No.1117 ≪コロナ・インパクトは歴史を加速する≫-2020.6.10

2020年6月8日付けの日経新聞6ページの「opinion」コーナーで、論説委員長の藤井彰夫氏の主張「コロナ禍は歴史を変えているのではなく、加速している」がとても共感できました。
激烈な米中の対立も、ブレグジットに象徴されるEUの結束の乱れも、世界同時景気後退も、5Gに代表されるデジタル化の推進もすべて新型コロナが始まる前から世界中で大きな課題でした。そこに新型コロナウイルスが発生しました。0.1ミクロンにも満たない微小な「無生物」であるウイルスが人に感染する能力を持ち、人を宿主にして世界中に拡散し、地球人口70億人全員を恐怖に陥れました。超高度に科学技術が進化した21世紀において、「人の動きを止める」原始的な方法以外に拡大防止策がないため、世界中でロックダウンが起きました。

世界中でコロナ感染防止のために「人の行動の自由を制限する」ことが正当化されつつあります。国内でも営業訪問はまだタブーで、通勤でさえ時差通勤や自家用を使って遠慮がちにやっています。レジャーは国内旅行といえども越境自粛要請があります。まして、海外旅行は政治的に禁止されています。夜の歓楽街は夢のまた夢。門限は若い女性や未成年だけでなくすべての人に要請されています。

コロナ発生に伴う強烈なインパクトは「デジタル分野」と「不公平拡大」に影響を与えています。
「デジタル分野」は経済産業省が世界に後れを取るまいと国内のDX(デジタルトランスフォーメーション)に力を入れています。DXはデジタルの力で従来のビジネスモデルを陳腐化・無力化し、新たなビジネスモデルを創造し変革することです。
例えば、製造工場であるならば、従来の価値観では地球規模で最効率のサプライチェーンを構築し、最高の収益を上げることでした。しかし、コロナ禍、自然災害、紛争等でサプライチェーンが分断されると、効率性や生産性以前に生産停止に追い込まれます。かってIoTを活用し、すべてのデータを収集し、AIで最適の分断されないサプライチェーンを構築してきました。しかし、それでは不十分であることがわかり、DXでは、クラウド上に収集したデータをもとに全体最適のプログラムを設計し、サプライチェーンを必要としない3Dプリンターで部品そのものを無人製造します。販売においても製品をメンテナンス込みで提供するSaaSやDaaSを開発するのです。これに携わる人は自宅勤務のテレワーカーです。テレビ会議システムが大活躍。Zoomの売上高は約3倍、利用者は30倍になったそうです。日本でも家電店からヘッドセット、スピーカー、カメラ、マイクが消えました。

一方で、外出自粛の影響で異様な光景を目撃しました。京都・四条大宮の王将本店。自転車を軒先に止めて、ひっきりなしに入ってくる黒のアスリートタイツとウェアを来て黒のリュックを持った人たちの行列です。リュックには「UBEREATS」と書いてあります。デリバリーが大忙しなのです。

もう一つのインパクトは「不公平の拡大」です。政治性の高いテーマなので、賛否両論の激論が世界中で交わされています。アメリカファーストのアメリカと製造2025の実現をもくろむ中国の「米中貿易摩擦」などはその最たるものです。コロナ禍でコミュニケーションすら取れなくなったような印象があります。イギリスが移民と関税の不公平感を訴えてEUを離脱しました。その決着がつく前にやってきたコロナ禍の影響でEU 基金の創設が進みそうです。競争原理の観点から断固反対していたドイツが折れて実現しました。稼ぎの悪い人でも稼ぎの良い人からの分配で裕福に生活できる仕組みです。稼ぎの良い人はたまったものではありません。今後のEUの動向に注目したいと思います。

世界がこんなに危機的状況になっているのに世界中で株価が回復(?)しているのは不気味ですね。しかし、よく考えれば、コロナ禍対策のために世界中で取っている金融政策はマイナス金利も辞さない異常な金融緩和政策です。日本ではマイナス金利の上限を撤廃しました。赤字国債の買い手は日本銀行です。市場にジャブジャブと供給されるお金の行き着くところは証券市場です。買い手が売り手を上回れば株価は上がりますので、株価が回復(?)している理屈は合います。但し、そのツケをいつだれが払うのかは不透明です。

コロナ患者を受け入れた病院は経営破綻寸前です。医療者としての使命感から採算度外視で受け入れました。その結果、一人のドクターが100人の患者さんをみる外来は閑古鳥が鳴いて、1人のコロナ感染者に20人近くのスタッフが重装備対応しなければならなくなりました。防護資材は使い捨てですからあっという間に底をつき、ごみ袋で間に合わせて対応した時期もありました。

売上が激減し、固定費が増大するのですから一気に赤字になります。しかも、それを要請した国からの援助は何もありません。そして、医療従事者の夏の賞与はおそらく今までで最少になる可能性があります。「正直者が馬鹿を見る」国でないことを祈っています。今のままでは全国で数十の大型病院が経営破綻をきたすでしょう。コロナの第二波が来たときはお手上げです。

感染リスクを負いながらも日常生活を支える人々のことを「エッセンシャルワーカー」と敬意をこめて呼んでいますが、その待遇は厳しいものがあります。医療従事者、公共交通従事者、宅配従事者、介護施設従事者、保育所従事者、小売従事者、卸売従事者・・・。あるタクシー・ドライバーは「お客さんがいないので、勤務は半分、水揚げは1/5で、とても生活できません」。コロナ禍で露見した国の脆弱性や縦割りの岩盤規制は、賛否両論、激論噴出ですが、今やらねばいつできるのか。トップのリーダーシップを発揮してほしいものです。私たち中小企業経営者にとって会社を守り、社員や関係者を守るために何をしなければならないのか、必要な手を打ち、行動してゆこうと思います。