No.1170 ≪ものの見方 三原則≫-2021.7.14

安岡正篤師は「ものの見方考え方に3つの原則がある」と住友グループの経営者に講義した内容をまとめた「東洋思想十講」(全国師友協会刊)の中で喝破されています。その中からものの見方考え方に関する部分を引用します。

「人間、先を見通すことができて初めて迷っておる者、目先のきかぬ者に対して教え助けることができる。そこで、ものを考える上に大切な三つの原則を述べておきたいと存じます。
第一は、目先にとらわれず、長い目で見る。
第二は、物事の一面だけを見ないでできるだけ多面的に全面的に観察する。
第三は、枝葉末節にこだわることなく根本的に考察する。
とかく人間というものは手っ取り早く安易にということが先に立ってそのために目先にとらわれたり、一面からしか判断しなかったり、或いは枝葉末節にこだわったり、というようなことで物事の本質を見失いがちであります。これでは本当の結論は出てきません。物事というものは、大きな問題、困難な問題ほど、やはり長い目で、多面的に、根本的に見てゆくことが大事でありまして、事に人の上に立つ人ほど、これは心得なければならぬことであります」

高度成長期に日本の大手上場企業は外資を真似て四半期決算を取り入れ、短期間で業績を上げる仕組みに変えました。3か月で結果を出さねばなりませんので、すぐに成果が出る対策がとられます。時間のかかる優れた対策より拙速でも結果が出ること、目先のことが優先され、それを遂行した人が評価されました。結果的に基礎研究や草の根の市場創造のような手間暇がかかる割には成果が未知数の事業からは撤退してゆきました。
基礎研究を自社でやるより実績のある会社をM&Aした方が早くて安上がりだからです。その結果はどうなったでしょうか? 基礎研究で優れた業績を上げても評価されないロジックに強い優秀な人材は海外に流出し、応用力のある優秀な人材で事業を推進し手っ取り早く利益を上げることに血道をあげました。

人材育成の一番大事なことは「考え方」です。テクニックや技術は後で訓練すれば追いつけますが、「考え方」は熱いうちに打たないとものになりません。世界中が注目する大リーグの大谷翔平選手は中村天風を愛読しているそうです。すぐには儲けにならなくても基本がきちんとできていれば柔軟に適応し随処で能力を発揮できます。

最近の迷走する政界や政治家、経済界や有名企業のスキャンダルは目も当てられません。
会計不正と海外不良債権隠しでグループ解体中のT芝。システムエラーをたびたび起こし、トップ人事が取り消しされ辞任に追い込まれた日本のトップバンクM銀行。長期間の鉄道用空調機の検査不正が発覚し辞任に追い込まれた日本を代表するハイテク企業のM電機。

悲願の東京開催が決定し国中が大喜びした東京オリンピック・パラリンピック2020がコロナ禍で1年延期されコロナ収束の見通しがつかない中で、1か月前になっても中止・延期・開催の各論が飛び交い、ムードは盛り下がる一方でした。6月11日~13日にイギリスのコーンウォールで開催されたG7で菅総理が各国のトップに協力要請することで開催が決定しました。世界的なイベントが1か月前まで決められない政治とは何なのか? もし企業ならとっくに崩壊しているでしょう。
今度は有観客か無観客の議論が、世論の風を読みながら揺れ動き、地方の首長がリーダーシップをとって決断(しているように見えます)。それだけ中央の権威が失墜し、中央では決断する権限を持った人がいなくなったのかと思います。いつの間にか下部組織が勝手に動き出し、上部組織がそれを追認するという異常事態が毎日のように報道されています。

7月12日から東京都は緊急事態宣言が発令され、沖縄は延長されました。コロナ禍を終息させるためにはワクチン接種を早くやることと夜の酒が伴う人流抑制をすることらしいです。そこで、N担当大臣がその実を上げるために、(良かれと思って)禁酒要請を聞かない経営者には罰を与える。酒卸売会社に取引を中止させる。金融機関に圧力をかける。グルメサイトで報告させる。受け入れれば今まで数か月以上遅れても支給されていない協力金を今度は先払いするという。
飲食店や酒が悪いのではなく、コロナ感染症が原因であることは明白です。たまたまコロナ感染症に関連する事業が飲食業、旅行業、宿泊業及びそれに関連する産業であるだけです。これではまるで中世の「魔女狩り」です。

誰が悪いかといえば初動対処や水際対策に特例ばかり作ってみて見ぬふりをした政府であり、行政であり、政治家が問題なのです。ワクチン開発会社と口約束だけで正式契約をしていなかった役所のミスは一向に報道されません。GDP世界第3位の金持ち大国日本の総理が訪米時にファイザー社のトップとトップ交渉しないといけない事態にまで放置した役所の責任はどうなるのか。それを棚に上げて、要請を守らない飲食店に責任転嫁するように見えるのは私だけでしょうか。

混迷の今、ものの見方考え方を磨く良い事例が毎日目の前で繰り広げられています。
多面的に見る、長期的に見る、根本的に見る。ものの見方三原則を今一度、肚に落とし込んで行動してみましょう。