No.1256 ≪100歳の偉人とはがき道の偉人≫-2023.4.13

私の尊敬する師匠の一人、千玄室鵬雲斎大宗匠は4月19日で満100歳を迎えられます。毎年、慰霊の日は必ず沖縄に来られます。特攻して沖縄近海に眠る同期への鎮魂と平和を祈念して船上から献茶をささげるためです。透き通った青い海に緑のお茶が広がってゆく様は、日本を救うために若い命をささげられた方々が喜んで喫茶しておられるように思えてなりません。そして、年に数回、沖縄の行事に参加され、1時間以上の講演を立ったまま原稿なしでなさいますし、話が横道にそれても必ず元の道に戻って締めくくりをされます。
私たちはホストとして、会場でお出迎えとお見送りをするのですが、小走りしないと追いつけないほど矍鑠として速足で歩かれます。海外にも頻繁にお一人で渡航されます。100歳の方とは到底思えません。講演会の質疑応答で必ず出る質問があります。「大宗匠のお元気の秘訣は何ですか?」という質問です。
「それは、一日数回のお茶を頂くことです。お茶をお飲みなさい。濃茶、薄茶どちらでも良いです。私の元気の源はお茶のおかげです。だから私の体を流れている血液は緑色をしています(笑)」
懇親会の時は必ず全テーブルを回り懇談され、記念写真を撮られます。そして、一人一人のお名前を憶えておられます。横に秘書がついて耳元でささやいているわけではありません。まさに100歳の偉人です。

さる4月11日には内閣総理大臣顕彰の授与が決まりました。内閣総理大臣顕彰は1966年2月11日に閣議決定されたもので「国家、社会に貢献し顕著な功績のあったものについてこれを顕彰することを目的とする」となっています。閣議決定後、いままで懸賞授与された方々は個人と団体で34名・団体で、最も新しい顕彰授与者は2021年4月30日に授与されたプロゴルファーの松山英樹さんでした。

人間学の専門月刊誌「致知」4月号にも千玄室師と琉球王国の尚家の末裔で五井平和財団会長の西園寺昌美様の対談が掲載されていますので、ぜひお読みください。平和とは何か、私たちは何をすべきかを対談されています。まだ「致知」を定期御購読されていない方はこの機会にぜひ定期購読を始められることをお勧めします。

一方で、悲しいこともありました。私の尊敬するはがき道の師匠、坂田道信師が3月14日に84歳でお亡くなりになりました。1971年に坂田道信師31歳の時に森信三師と出会い、「複写はがき」を勧められたことがきっかけで複写はがきを書き始められました。無学だった坂田道信師は、ひらがなばかりでは信用されないと思い、辞書を手元に置き、1枚のはがきに最低3つの漢字を書くと決めて、それを毎日30枚〜50枚書かれました。
坂田道信師へのはがきは「739-1296」と郵便番号だけで届きます。日本では坂田道信師だけだそうです。
ご一緒した時に、電車の待ち時間、講演会の待ち時間など細切れの時間を使って「はがきを書いてもよいですか?」と聞いてから、いつでもどこでも自分の膝を机代わりに複写はがきを書いておられたのを目撃しています。
私は1993年に坂田道信師が来沖された時、講演を聞いて感銘を受けて、複写はがきを書くことを決意しました。
坂田道信師は、「はがきは大きな字で、縦書きに、青色のカーボン紙を使って、形式的な時候の挨拶などいらないから、相手の事を何か一つ書きなさい」「もし途中で書き損じても、修正液で修正して出しなさい」とおっしゃいました。坂田道信師になぜ縦書きなのかと聞いた時「日本人なのだから、縦書きで右から左に書くものだと森先生に教えていただきました」、なぜ青色カーボンかというと「青い色は清らかな色で心が一番安らぐから」とのことでした。
なるほどと思い、教えを忠実に学び、せめて1日3枚、1年で1000枚、10年で1万枚を目標に書き始めました。途中、ブランクがあったり、メールで済ましたりした期間が長く、なかなか進みませんでしたが、2023年4月7日にやっと1万枚目を描くことができました。実に30年かかってしまいました。私より遅れて始められた掃除道の鍵山秀三郎師は5年で2万枚近く書かれていました。しかも、使いきったボールペンの芯を大切に数十本も持ち歩いておられました。「大きな努力で小さな成果」「凡事徹底」「心の荒みを取り除く」事に人生をかけられた方は違うなと頭が下がりました。
事あるごとに坂田道信師から「あなたは必ず継続できる方だ。焦らずに根気よく書き続けなさい」と励まされてきました。9999枚目は坂田道信師に、1万枚目は妻に送ると決めていました。残念ながら「はがき道」の恩師に約束の9999枚目の複写はがきを送れませんでした。私は「複写はがき」を書くことで人生を切り開くことができたと感謝しています。

例えば、電話は私の都合で相手の時間を奪うことになりますが、はがきは私の都合で書いて、郵便局が配達してくれて、相手の都合で読んでいただけます。はがきを書く時は相手の事しか考えていませんので思いが伝わります。また、1回の面談で4回も接触できるのでとても強力な営業ツールです。アポイント電話で1回、アポイントのお礼はがきで1回、面談で1回、面談のお礼はがきで1回の計4回です。ポイントは売り込みをしない事と相手の反応を期待しないことです。すると、誰とでも旧知の関係になることができます。皆に勧めるのですが、幸いにも実行する人が少ないので、とても強力な営業ツールになっています。ご冥福をお祈りいたします。