No.1171 ≪東京オリンピック組織委員会に見る「知・情・意」のバランスの重要性≫-2021.7.21

Google社が分析チーム「アリストテレス」を編成し、社内で活動する数百のプロジェクトの中で生産性の高いプロジェクトチームの共通項(KFS)を探索し、2015年にその成果を公開しています。https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/通常、高度な知識と技術とノウハウを持った有能な人材を多数集めればプロジェクトチームは成功するように考えられますが、実はそうではなかったのです。
野球で言えば、球界トップクラスの選手を集めてチームを組む、組織で言えば全員東大卒のエリートを集めて会社をつくる。そうすれば最強最高のチームが生まれ最高の生産性を獲得できると仮説を立ててデータ分析しましたが、個の知性とチームの生産性には相関関係が見出せませんでした。心理学的アプローチに切り替えて分析したところ、「高い能力を有したメンバーを集める」ことよりも「チームがどのように協力しているか」

が生産性に大きく相関している事がわかり、「心理的安全性」をベースに4つの特性をもったチームが最も生産性が高いことがわかったのです。
1. 心理的安全性:誰もが安心してリスクを冒し、意見を述べ、質問できるような環境。メンバーが危機に陥ってもリーダーが   「上空援護」を担い、安全圏を作り出すことで、リスクを冒してチャレンジできる。それが心理的安全性です。
2. 信頼性:皆が基準品質を超えた仕事を、時間内に終わらせることができる信頼性。
3. 構造と透明性:皆が明確な役割、計画、目標を持っている。
4. 意味:皆が仕事に個人的な意義・ミッションを感じている。
5. 影響:皆が自分たちの仕事には大きな意味があり、社会全体の利益にプラスの影響を与えると信じている。

チームメンバーのオフィスの席位置や合意に基づく意思決定、メンバーの外交的性格、メンバー個人のパフォーマンス、仕事量、先任順位、チームの規模、在職期間は生産性に大きな影響を与えないことが分かりました。個の知性より集団的知性を高めることが一番の早道で、これは集団をオーガナイズする時に必要な「知・情・意のバランス」そのものでGoogleが分析する2400年前にアリストテレスは「全体は部分の総和に勝る」と喝破していたのです。

そういう観点でスキャンダル続きの東京2020の実務チーム「組織委員会」というプロジェクトチームを分析し、企業経営に生かしたいと思います。利害関係者はIOC、IPC、JOC、東京都、組織委員会の5者で、判断に迷う部分は5者協議となるようです。
今回は史上初のコロナパンデミック中での大会なので従来のルールではなく非常時ルールづくりが必要で世界のだれもが体験したことのない最も困難な判断が必要な大会です。

定款によると、出資者は東京都と日本オリンピック委員会で、7名以内の評議員を選任し、評議委員会が理事・監事を選任し理事会を構成し、理事から会長、専務理事(事務総長)、常務理事を選任し、大会運営にあたり、事務局はすべての実務を掌握し、諮問された議案を理事会に諮り決定するとあります。

一般企業で言えば、株主が取締役を選任し、取締役の中から代表取締役を選任し、経営執行にあたる。オーナーは株主で、経営は取締役が行うことになる。大会組織委員会で言えば、評議員は株主の代表で、株主は東京都と日本オリンピック委員会。評議員に選任された理事が役員に相当しその代表が組織委員会のトップ橋本聖子会長となる。

では、今回のような非常時大会における常設機関4者とプロジェクトチーム「組織委員会」の役割権限は明確かというと、報道を見る限りは、話合いでそれぞれの利権を主張するだけで、「後は組織委員会でうまくやれ、失敗したら責任を取らすぞ」といっているように見えます。開会5か月前になってスキャンダルで前任(森喜朗元総理)の辞任を受け、急遽就任したなんら権限のないプロジェクトリーダー橋本聖子さんが責任だけ負わされてスケープゴートのサンドバック役になっているように見えます。しかも国会議員まで辞職しての就任です。

Googleアリストテレスチームが解明した成功するプロジェクトチームの必須条件である「心理的安全性」が欠如した烏合の衆に変質した瞬間です。その後は後手後手になるのは当然の結果です。皆さんが橋本聖子会長と同じ立場に就任要請されたならどうされますか?

私は、「知・情・意のバランス」が不可欠だと考え、条件を付けます。
1.報酬は無報酬とする。
2.コロナ責任者を選任し、全権を委任する。
3.非常事態下での大会なので、組織委員会におけるすべての人事権を会長に一任し、従来法での不具合は超法規的に内閣が調整する。  事務総長は会長の指揮下に入る。
4.国内の利害関係者(JOC、東京都、スポンサー)に対しすべての決裁権を組織委員会会長に移譲し、そこでの決断は政府が責任を持つ。
5.国際機関(IOC、IPC、スポンサー)には、組織委員会の決断を優先するように日本国政府の責任で全面的にバックアップし交渉をする。
上記5条件が受け入れられなければ就任しない。その代わり責任を取って国会議員及びすべての公職を辞任する。

「知・情・意のバランス」について、夏目漱石は「草枕」の中で「知に働けば角が立つ、情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とにかく人の世は住みにくい」といい、松下幸之助氏は「この知情意は、人間が人間としての働きを高めていく上に置いて非常に大事な枢軸であり、知情意の調和を図り、かつ高めていくことが、人間性を向上させることになると思う」といい、プラトンは「国家」の中でロゴス(理知)・テュモス(気概)・エピテュメーテース(欲望)のそれぞれの関係性が重要だといい、カントは「私は何を知りうるか」「私は何をなすべきか」「私は何を望んでよいか」の問いが必要だと説いています。

烏合の衆では、トラブルが起きても現場での解決しかできません。今からでも遅くないので、オリンピック精神の原点に戻り、武士道精神に基づく日本的価値観をもって運営にあたっていただきたいと思います。