No.1081 ≪経営者の呼吸≫-2019.9.19

深呼吸の時、あなたは、大きく吸ってから吐きますか? 吐いてから吸いますか? ラジオ体操の時は、「おおきくすって、吐いて~」とアナウンスしていますが、あれは吸う前に吐くのが前提です。
ご存知のように「呼吸」の「呼(こ)」は、肺の中にたまった古い空気を吐き出すことです。「吸(きゅう)」は、空っぽになった肺に新鮮な空気を送り込むことです。この順番で「呼吸」と言います。

「『呼ぶ』と書いて、なぜ吐くんだ?」とおっしゃる方もいます。そういうあなた、試しに誰かの名前を呼んでください。息を吐いていますか? 吸っていますか? 吐いているでしょう?
天地自然の摂理で、人は生まれてくるときは、「おぎゃー」と泣いて初めてこの世に生を受けます。泣かなければ死産になります。お母さんのお腹の羊水に満たされて誕生の時をじっと待って、時が来ればこの世にやってきます。そして、肺の中にたまったものを「おぎゃー」と吐くことで、生涯を過ごすことになるこの世界の新鮮な空気を取り入れるのです。
そして、亡くなる時は、息を吸って亡くなります。息を引き取るといいますよね。それは来世に転生する準備なのでしょう。

経営者は自然の摂理、原理原則、本質の真理をつかむことがともて重要だと思います。頭でっかちにならずに、自然の呼吸と調和しラポールする。
例えば、もっともわかりやすいのがお金です。「金は天下の回りもの」と言いますね。お金は預かりものです。一時的に預からせていただいているのがお金の本質です。ですから、自分のところにとどめ置くのではなく、できるだけ早く、できるだけ多く、社会にお返しする。そうすることで、さらに大きなお金が入ってくるのです。
しかし、なかなかこのような心境にはなれないものです。一旦、財布に入ったお金を出す時は、出し惜しみしてしまいます。本当は出したくないけれど、やむを得ず、別れを惜しんで嫌々出す。それもできるだけ小さな金額になるように。もし、あなたがお金なら、そういう人のところに行きたいですか? 朗らかに、喜んで、進んで、大きく出してくれる人のところに行きたくありませんか?お金の支払い方は経営者の本質を知る一番簡単で分かりやすい方法です。経営者は試されているのです。

一方、「入るを量って出を制す」ということわざがあります。これも大自然の摂理で真理です。分を知り、足るを知ることで、健全さを保てます。しかし、まさかの大災害や社会危機に直面したとき、自分の生活を顧みずに有り金全部を出さねばならない場合もあります。その時に、出すことも大事です。これは天にする貯金です。イタリアのアッシジの奥にサン・ダミアーノという村があります。ある貧しい家に住むママローザのところに、修道女がやってきて、貧しい人たちのために寄付をしてほしいとお願いしてきました。ママローザは、家にある有り金と食べ物すべてを修道女に差し出しました。今日食べるものもなくなりましたが、ママローザは心が豊かになりました。その後、ママローザの家族はずっと祝福されて生涯を送ったそうです。入るを量れば、ママローザのような出費はできないかもしれませんね。また、テイク(見返り)を期待していたのであれば、今日食べる物ぐらいは残すでしょう。今はそんな時代ではないと思われるかもしれませんが、経営者の本質をついている説話だと思います。

沖縄に名護というところがあります。そこで長年飲み屋をやっているママさんが、「事業に失敗しても再起できる人と消える人はすぐわかる」と言います。それは、飲み屋のつけの支払い方だそうです。「ママ、事業に失敗してしまった。しばらく来れないけど今までお世話になりありがとう」と言って、溜まった付けを払いに来る人は再起できるそうです。一方、人のうわさに大口の仕入れ先に返済して事業を再開したと聞くけれど、飲み屋の付けを後回しにする人は消えてゆくそうです。

二宮金次郎が説いたといわれる「たらいの水」の説話をご存知の方も多いと思います。たらいの水を手前に寄せると水は反対に向こうに逃げてゆく。向こうに水をやると手前に寄ってくるというあの説話です。
水をお金に置き換えればわかりやすいと思います。お金を増やそうと自分の方だけに引き寄せようとすると、逆に逃げてゆく。相手のために送ると、団体で自分の方にやってくる。ギブアンドテイクと同様に、呼吸のように最初にギブありきで、出すことが大事です。例えば、持てる人が、お金を貯め込んで、使わなければ、世の中はあっという間に崩壊します。

経営者は呼吸の本質を再認識する必要があるように思います。理屈家で金儲けが上手な人たちばかりだと一体どのような世の中になるでしょうか?
欧米には、ノブレス・オブリージュとかドネーションの文化が浸透しているのは、このような人間の本質における負の部分を熟知しているが故の知恵かもしれません。大富豪のビル・ゲイツも財産の大半は寄付や社会貢献に使い、日ごろは質素な生活をしていると聞きます。東洋では足るを知る、他を慈しむという文化でしょうか。 呼吸の本質、吐いて吸う、出すから入るという自然の摂理を経営に生かしましょう。