No.1082 ≪無理難題はブルーに続く≫-2019.9.25

一見、無理難題に思えることが実は大飛躍の始まりです。
会社を経営していると、こんなに人一倍努力して、昼夜を徹して頑張っているのに、どうしてこんな目に合うのか、神も仏もないものかと大声で叫びたい時があるものです。

ある本にいわく、「苦しみを喜んで迎え、病気になれば『おめでとう』という時代が来た。それは、苦難は幸福の門であり、万人が必ず幸福になれる絶対倫理が現れたからである。それは宗教でも主義でも学説でもない。実行によって直ちに正しさが証明できる生活の法則(すじみち)である。」
この本は倫理法人会のモーニングセミナーで毎回輪読している創始者丸山敏雄氏の著作「万人幸福の栞」の扉の言葉です。倫理法人会の会員の方はご存じだと思います。

苦難を尊ぶ姿勢は、古来より、どうしようもなくなった時に初めて発揮される力があることを信じていたからです。論語の易経にいう「窮すれば変ず、変ずれば通ず、通ずれば久し」と同じです。

昔、出雲の尼子家の家臣、山中鹿之助が、毛利氏に滅ぼされた尼子家再興のために「願わくば、我に七難八苦を与えたまえ」と月夜に祈ったこともそうです。

中国の古典で、孟子「告子篇」に「天のまさに大任を是の人におろさんとするや、必ず先づその心志を苦しめ、その筋骨を労し、その体膚を餓やし、その身を空乏し、行ひその為すところに払乱せしむ。・・・然る後に憂患に生き、安楽に死するを知るなり。」とあります。
大意は次の通りです。(天が大きな仕事をさせようと思う人に行うことは、まず最初に、心が折れるような困難を与え、志をなくさせるような挫折に遭遇させる。さらに、体を酷使させフラフラにし、とことん貧乏を味わわせ、やることなすこと悪い方向に行くように、行動が空回りするような苦労を与える。それは、その人の心を鍛え、耐える力を身につけさせて、能力を開花させることで、大任が果たせる環境整備をしているのだ。人はつねに過ちを犯した後でしか悔い改めないものだ。心に苦しみをかかえ、弱さを自覚することでその人は成長する。苦しさのあまり、苦悶の表情が顔に表れ、悲痛な叫び声を上げるところまで追い込み、それを乗り越えて初めて使命を与えるのだ。国家も同様で、内政では法に照らして諫言する人がなく、外交では敵国や外患が無ければ国は内部から腐り滅ぶものだ。)

大阪で大きな歯科医院を経営する歯科医師のS氏は、苦学して育ち、経済的にゆとりがなかったため、国立大学の歯学部を卒業し、研究室に在籍していた時、渡米の機会があり、すぐに応募したところ、幸運にも、選抜され、意気揚々とアメリカの臨床歯科の権威であるDr.Pankeyの指導を受け、最新の歯科医療をマスターしました。Pankey 先生の指導は、歯周病と噛み合せの研究を徹底的に行いました。同時に、「歯科医は自己の利益より患者様を優先し、患者様のQOLに貢献しなさい。」「自分ができる100%の事をなし、患者様と良好な関係を持つよう努力せよ。」と2つの哲学を徹底的に叩き込まれました。Pankey 哲学を実践して、日本の歯科医療を変えようと、意気揚々と帰国しました。
時はバブル崩壊で失われた20 年と言われたころ、開業資金を借金して、オール自費の歯科医院を大阪で開業しました。ところが、現実は厳しい。患者様は自費と聞いて誰も来てくれません。
患者様と言えば、母親が声をかけて連れてきてくれた方だけです。売上ゼロが続き、借金した運転資金もアルバイトでため込んだ貯金も底をつき、ついに閉院を覚悟しました。手元には借金だけが残りますが已むを得ません。

母親は、渡米して最先端の治療法を優秀な成績でマスターして帰国した子供が、力みすぎて壊れやしないかとひやひやしていました。ある日、こう言いました。
「もっと肩の力を抜きなさい!」その一言で、悩みに悩んだ末、郷に入りては郷に従えの教え通り、日本には日本なりのやり方がある。最先端のアメリカのやり方を日本流にアレンジして、出直そうと肚を決めました。そして、「今日が最後だ」と決めたその日に来院された患者様に自分の考えるサービスを保険で提供したのです。

経営理念である「As a Guest」(まるで婚約者を家庭に招き両親に紹介する如く、整理・整頓・清掃は言うに及ばず、家の隅々まで磨きぬき、花や香りにも万全の注意を施すこと)を実践しました。一つとして無駄のない効率的な治療サービスとホッとリラックスできる空間を提供したのです。
接客は膝行、院の治療方針や治療の進め方、特に歯周病と噛み合せはいかに重要かを説明し、顕微鏡検査で歯周病菌の有無や量を確認し、それに適した予防プログラムや生活習慣を、患者様、歯科医師、衛生士の3人4脚で進めること、つまり、患者様も治療効果の責任を受け持つことを承諾いただいたのです。その代り、一度治療した歯が二度と悪くならないように定期的に検査し、もし、治療した歯が破損するようなことがあれば80%は院が保証する事を宣言しました。
すると、口コミで評判が評判を呼び、しばらくすると、予約が取れないクリニックになりました。
S氏の考え方は、予約してきていただいているので、待合室には早く来られた患者様以外はおられないのが当たり前で、混雑しているのはおかしいというのです。
閉院して、借金苦に悩む失業医になる寸前で、幸福の門に入ることができたのです。 無理難題と思える、逃げ場のない苦境に至った時、そこを逃げずに腹を決めて突破すると、「ブルーオーシャン」のように競争のない豊かな市場がそこにあったのです。