No.1260 ≪弱みを生かして世界を目指す≫-2023.5.10

他人の「強み」「弱み」は比較的認識しやすいものですが、自分の「強み」「弱み」はなかなか難しいものです。「弱み」は必要以上に過大拡大し、「強み」は逆に過小評価してしまうものです。そもそも何を基準に「強み」と言い、「弱み」という。その時々の利己なることが「強み」、そうでないのが「弱み」と言っていませんか?
でも、環境が変われば逆転することもあるのです。若いころの独身は貴族の「強み」かもしれませんが、老後の独身は孤独死と隣り合わせの「弱み」かもしれません。ロシアのように若さは「強み」でも、戦争が始まれば徴兵される「弱み」に変わります。つまり環境次第で逆転するコインの裏表なのです。

会社も全く同様で、「強み」と「弱み」は表裏一体なのです。視点をどこに置くかで見える景色は全く異なります。会社の経営センスは「1T3M(Technology、Money(Finance)、Market、Management)」で決まり、Technologyの中には「4M(Man、Machine、Material、Method)」があり、Managementの中には「QCDS(Quality、Cost、Delivery、Service)」があります。中小企業の場合、それぞれの「強み」「弱み」を見ていくと、どれも規模の大きい会社や知名度のある会社、財務力のある会社、人材の豊富な会社と比べて「弱み」ばかり見えてしまうものです。しかし、実は全く逆なのです。世にいう有名大規模企業は売上高も大きいし、社員の高学歴の優秀な人が多い。財務が安定しているのでライバルを価格破壊で攻撃することもできます。公的な知名度もあり業界のみならず社会的にも影響力をもっているのは事実です。しかし、であるがゆえに、エッジの効いたユニークな発想や行動はなかなかできないものです。知名度と社会的影響力があるので、利己的な行動や不正や不誠実な対応やクレームは一貫の終わりです。業界力学は穏健な紳士的行動を求められ、過大な負担を求められ、成功より失敗しない選択をせざるをえないものです。

それに引き換え、中小企業は原則として、地方立地で全国知名度無し、家業の延長で突出した技術無し、有名大学卒のエリート人材無し、借入するにも銀行を説得しないといけない余裕のない資金力のナイナイづくしで「弱み」ばかりが目立ち、「強み」は負けん気とやる気と根性だけです。当然、経営陣は連帯債務から逃れられない同族に集中します。将来の事を考えると不安でいっぱいになります。普通に考えればそうです。しかし、これが全く逆なのです。無名だから何をやっても誰からも批判されない「自由」があり、家業を突き詰めれば幅広い総合力はないけれど他社の真似のできない特殊技術になり、突飛な発想ができるワカモノとバカモノ人材が豊富にあり、資金がないので貰い物や余り物や中古を使える実利精神があるのです。

山口県岩国市に「シーパーツ」という会社があります。雑誌ForbsJAPANのSMALL GIANTSで表彰されたり、マスコミでもたびたび登場する会社ですので、ご存じの方も多いと思いますが、一見「弱み」に見える不利な条件を活かして「強み」に変えた企業です。
全国どこにでもある金属解体リサイクルの会社として創業し、2代目の現会長の代になって、古い業界のどんぶり勘定の体質を数値化してミエル化することで近代化しました。そこに、プラザ合意で空前の円高ドル安となり、金属相場が下落し苦境に陥ります。そこで、自動車に特化した金属リサイクルビジネスに転換し事業拡大を目指すことを決意しました。回収した中古車を整備して販売したり、解体した部品を販売するのです。BRICsに代表される新興国の勃興もあり、高品質の優良物件の多い日本の中古車や自動車部品の購入ルートを構築するために世界中からバイヤーが日本にやってきました。しかし、バイヤーは業者が集中する関東地区が中心で、地方にはなかなか来てくれません。しかも、価格はバイヤーの言い値です。そこで、日本にいるバイヤー相手の相対ビジネスではなく、世界中のバイヤーを相手にするにはネット構築しかないと判断し、自社でパーツのデータベース化に着手しました。「TAPRAS」というソフトです。

自動車は世界共通の概念があり、すべて英語と数字で表現できます。メーカー、車種、年式ごとにあらゆる部品の在庫状況をサイト上にデータベースにしてオープンにします。それを見た日本駐在バイヤーのみならず世界中のバイヤーが入札するのです。どこの誰がどの部品をいくらでいくつ応札しているか一目瞭然です。同じ部品でも2倍以上の価格の差があり、シーパーツ社は最も単価の高いバイヤーに販売することができるのです。

そして、転機はコロナ禍に訪れました。バイヤーが来日できなくなり、ビジネスはネットに移行しました。
データベースソフトの「TAPRAS」の本領発揮です。高品質の日本の自動車メーカーの部品は品番だけで判断できるためシーパーツのデータベースにバイヤーが殺到したのです。何もしなくてもバイヤーが訪れていた関東の同業者は苦境に陥ったのです。

地方立地でバイヤーに敬遠された苦境があったおかげでネットでデータベース構築へと進むことができ、コロナ禍で来日できないバイヤーが目を付けたのが「TAPRAS」だったのです。そして一気に世界に通じたのです。
地方立地というネガティブな「弱み」が実はとんでもない「強み」であったという実例です。事業が順調であれば、困らなければ、行動しなかったかもしれませんが、困ったので、苦境に陥ったので、なんとか生き延びる方法はないものかと思案を巡らし、決断した結果が、飛躍をもたらしたのです。
「ピンチはチャンス」「苦難は幸福の門」と言われますが、困った時にどのように発想し、行動するかで、実はとんでもないチャンスが到来し、幸福に至る門が開かれ、ブルーオーシャンに出会うのです。
恐らくそれは世界に通じる一番の早道になると思います。