No.1228 ≪経営者と茶心≫-2022.9.14

先週の土曜日(9/10)に当社が主宰している「SS社長塾」を、立派なお茶室をお借りして開催しました。SSとはSustainable Smart の略でカッコよく永続する企業を目指す経営者になろうという意味で名付けています。
なぜ、経営者が、立派なお茶室で、超アナログのゲスト体験をするのか、不思議に思われるかもしれません。
超デジタル社会の現代はタイパ(タイムパフォーマンス)、コスパ(コストパフォーマンス)が最優先され、Youtubeは倍速で見る時代です。2時間の講義を1時間で理解して、余った時間をほかの学習に充てる時代です。
しかし、4000年たってもいまだに戦争している人類の頭脳や心は私たちが思うほど成長していないのかもしれません。時間をかけないとわからない、体験しなければわからない、目に見えないけれどかたじけない本質が存在する世界があります。それを大事にすることで永続的に成長してゆきたいと思っているからです。

さて、お茶室での勉強会、どのような茶席にも必ず亭主(ホスト)の伝えたい思いが道具やしつらいに表現されています。待合に「会記」と蓋書きが置いてあります。それを見て、社長塾の参加者はゲストとしてホストの思いを汲み取る訓練、固定観念を捨て、頭を柔軟にし、想像力を豊かにするのです。掛け軸や短冊の文字は、よほどの教養がなければ、まず読めませんので、「会記」で確認するのです。

亭主(ホスト)の思いは床の間の掛け軸と待合の短冊に現れます。先日の床の間の掛け軸には「水上青々翠」とあり、この禅語には軸に書かれていませんが「本来是浮草」と続きがあります。待合の短冊には「雲」とあります。道具には御簾のかかった大きな車輪のついた御幸棚が使われ、高貴な方が乗られる牛車を思わせます。上の棚には竹の15本の筋の入った平棗(別名河童)が置かれており、棚台には鮮やかな草花の描かれた紫の交址焼きの水差しがあります。釜は遠山という銘がついています。茶碗は小ぶりの天目形で高貴な女性にお出しするものが使われています。

これらの事から想像できる風景は、9月初旬はまだまだ暑い日が続きますので、高貴なお姫様が御簾のついた牛車にのって涼をもとめて湖にやってこられました。湖面一面に広がる青々とした翠の浮草は世間のしがらみから離れ自由に漂っています。遠くに目をやると高い山々が見え、その上には白い雲が悠然と泳いでいます。身も心も涼やかになりました。ちゃぽんと水音がする。みると河童がひょいと顔をだしたようにみえました。
亭主(ホスト)が歓迎の思いを込めたのは、「浮草のように自由に、涼んでください」という意味のようです。ゲストは気づいたことを亭主と語らうことで話がはずみ、話題に広がりが出てきます。まさに一期一会の出会いになってゆくのです。くれぐれも知識のひけらかしにならないように。

社長塾ではお茶を通じて、日本の心、日本の文化を学ぶ時間を大事にしています。また、古事記の読み合わせも毎月行います。古事記は日本創生の神話に縄文人の心を再確認するためです。
経営者に茶心が必要な理由は、経営者である前に日本人としての常識を身に着けるべきだと思っているからで、茶道は日本文化のすべて含まれており最適だからです。茶道、華道、書道、香道、武道、和歌、神道、料理、建築様式、着物の着方、マナー、立ち居振る舞い、神々との交流法などを自然と身に着けることができます。
経営者は成長するにつれて高貴な教養のある方々との出会いも増えますし、外国人との交流も出てきます。その時に、人として、日本人として基礎となる教養を身につけているだけで自信をもって臨機応変に応対できます。
茶道は、単にお菓子をいただいてお茶を飲むだけで終わってはもったいないです。茶心を持つことで、一目置かれる一流の経営者になることができます。お茶席に呼ばれることは、最重要の取引先のトップのご自宅に招待されるのと同じです。その時に茶心があなたを助けてくれます。経営者はホストよりもゲスト、中でも一流のゲストになることが重要です。招かれ上手になることです。

茶道では、招待された時の心構えを次のように説いています。
1.心身ともに清浄にする 2.刻限は早めに  3.降らぬとも雨用意  4.新しい靴下を準備し、履き替える
5.帛紗ばさみを準備する  6.お祝い・お礼を準備する  7.ホスト(亭主)のおもてなしテーマを探る、掛け軸、生け花、しつらい、香がヒント 8.ホスト(亭主)が喜ぶ話題を準備する 9.批判やマイナス言葉は厳禁。
先日お亡くなりになった稲盛和夫師は「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」とおっしゃっていますが、お茶も全く同じで、ホストとどのように有意義な時間を共有するか楽観的に構想し、そのために最悪の場面を想定し悲観的に準備して、何が起きても動じることなく楽観的に過ごせばよいのです。

「帛紗ばさみ」は、とても便利な道具で、中に扇子、懐紙、黒文字、帛紗、小帛紗、茶巾入れをいれます。扇子は刀と同じように結界を設けて、ゲストとしてのへりくだりを無言のうちに表すことができます。懐紙はティッシュペーパーとしても使えますが、お皿としても、布巾としても使えます。黒文字を使ってお菓子をいただくと優雅にふるまえます。何かと便利な「帛紗ばさみ」を持つことで自信につながります。私は、いつでもどこでもゲストになれるように、帛紗ばさみと弔事に使う数珠ケースと塗香(粉線香)は常時携帯しています。

一方、裏千家流では、迎える亭主(ホスト)の心構えを「利休七則」で説いています。

「(1)茶は服のよきように、(2)炭は湯の沸くように、(3)夏は涼しく冬は暖かに、(4)花は野にあるように、(5)刻限は早めに、(6)降らずとも雨の用意、(7)相客に心せよ。」
これにはエピソードがあります。「(利休七則は)千利休がある弟子から『茶の湯とはどのようなものですか』とたずねられた時の答えでした。その時弟子は「それくらいのことなら私もよく知っています」といいますと、利休は『もしこれができたら、私はあなたの弟子になりましょう』といったそうです」
亭主(ホスト)はこのような気持ちであなたをお迎えしていると思えばなんだかうれしいですね。

私が入門しているのは裏千家茶道ですが、お茶を飲む時、お点前えをする時、お客様になった時、お招きする時の心構え・お茶心を「四規:和敬清寂]で説いています。
「和」とは、お互いに心を開いて仲良くする。
「敬」とは、互いに敬いあう、尊敬しあう。
「清」とは、目に見えるだけの清らかさではなく、心の中も清らかにする。
「寂」とは、どんなときにも動じない心。これは経営者の持つべき心構えと全く同じです。

経営者の文化力は日本の底力になります。茶道を習う必要はありませんが、茶心を持つことでタイパ、コスパを凌駕しようではありませんか。