No.1285 ≪透明な醬油≫-2023.11.1

フジテレビの毎週日曜日22:00から放送の「Mr.サンデー」をご覧の方も多いと思います。10月29日(日曜日)放送の中でフンドーダイ醤油の「透明醤油」の開発秘話を再現ドラマでやっておりとても興味深かったので共有したいと思います。日本テレビの10月14日(土曜日)の「世界一受けたい授業」でも取り上げられていましたので、既にご存じの方はこのメールを削除してください。

株式会社フンドーダイは1869年(明治2年)熊本で創業した味噌・醤油の基礎調味料を手掛ける会社です。詳しくはホームページをご覧ください。
https://www.fundodai.jp/
異業種の金融業界から就任した社長が就任早々に「いままでにない商品を開発してほしい」と商品開発部に注文を付け、商品開発部は頭を悩ましました。開発部の34歳の女性部員が「透明な醤油」のアイデアを上司に提案しました。彼女は入社2年目のころに会社の設備を使えば透明な醤油を作れることに気づいていましたが、「醤油は黒い物」という常識、それに透明な醤油の使い道もわからなかったのでアイデアを封印していたのです。
それを聞いた上司は「面白い」と賛成。上司もコンビニ業界から転職した業界のド素人でした。定石通りマーケティングリサーチをすることになり、知り合いの幼稚園の父兄に透明な醤油のアンケートを取っていただくことにしました。アンケートがまとまったと聞いて早速出かけるとその中に好意的な意見が沢山あったのです。

「透明な醤油だと晴着を汚さないのでうれしい」「透明な調味料だと素材の色が活かせるのであれば使いたい」それを見た開発部の上司と担当者は意を強くし、会議で社長に「透明な醤油」を提案しました。
同席していた古参の幹部は(ばかばかしい)と冷笑して相手にもしませんでした。
しかし、新社長は「私は面白いと思う」と発言すると、古参幹部から大反発を買ったのです。
「社長、いいですか! 透明な醤油を作れるのは業界ではだれでも知っています。しかし、何処もそれを作らないのは売れないからです。そんなものを当社が出したら業界の笑われ者になりますよ。恥ずかしいからやめてください」と古参幹部。
「そうかもしれません。でも私は面白いと思う。私は業界では門外漢のど素人ですから、皆さんには迷惑をかけません。もし失敗したら『やっぱりな』と笑ってください」と新社長。
これで製品化が決まりました。2017年10月の事です。

提案はしたものの製品化には苦労がありました。「透明醤油」は、醤油を薄めたり脱色したりして造るのではなく、ノンアルコールビール同様に、黒い濃口醤油を造ってから醤油を透明化しなければなりません。いくら透明にしても時間の経過とともに色が濃くなってしまうので、いかに透明のまま維持するかが一番難しかったようです。普通の醤油より手間とコストがかかりますので、価格も割高になります。営業担当もどう売って良いかわかりません。何もかもが初めての試みです。試作を繰り返し、やっと完成したのが1年半後の2019年2月でした。

完成した「透明醤油」は果たして売れたでしょうか?
「1万本売れれば大ヒット」という業界にあって、発売の7か月後には20万本、今では30万本のお化け商品になっているそうです。

醤油と言えば和食、和食と言えば醤油というぐらい切っても切れない関係ですが、こと洋食となると勝手が違います。しかし、透明な調味料であれば、素材の色を活かせるし、お客様の驚きと感動がある。それに万が一こぼしても洋服を汚すことがない。あっという間に、世界中に広がり、フランスの三ツ星レストランも手放せない調味料になっています。

この番組を見て、「世の中を変えるのはヨソモノ、ワカモノ、バカモノだ」と日ごろから発信している信念に意を強くしました。また「ライバルは同業者ではない。異業種からとんでもないやり方でやってくる」ことも再確認しました。
常識を破れなければ、全く想像もしないやり方で参入してくる異業種にとってかわられます。弁護士や公認会計士と言った最高峰の知的産業がAIに侵食されるように、タクシー業界がIT会社に牛耳られるように。
昔々、住宅を作るのは大工や工務店の仕事でしたが、その世界に異業種参入したのはセロテープの会社や電気の会社でした。
業界の常識という最も陥りやすい落とし穴が私たちの頭の中に幾重にも巣くっています。これを否定して、陳腐化して、ここから抜け出さねばなりません。そのためには常識にとらわれない異業種人、ど素人、門外漢、若者、変人、子供と交流して頭を初期化する必要があります。