No.1164 ≪苦境の乗り越え方「折れない心」≫-2021.6.2

「レジリエンス」という言葉を最近よく耳にします。跳ね返す力とか乗り越える力という意味で、体に何らかの障害を抱えている方が、障害をネガティブにとらえて負けてしまうのではなく、「障害にも意味がある」とポジティブにとらえて、障害をもう一押しした先に広がる無限の可能性や持ち味を生かすことを言い、パラリンピックの選手たちの共通言語のようです。また、SDGsの17ゴールの内、1「貧困をなくす」,11「安全で安価な住まい」,13「気候変動」,14「海の豊かさを守る」にも「レジリエント」「レジリエンス」という言葉が強靭性という意味でつかわれています。

会社経営でも今までに経験したことのない苦境や逆境、とてつもない大きな障害に出会うと、心が折れ、悲観的に物事を考えて、何をやってもうまくゆかないと自信喪失します。慰めてくれる人に対しても「この苦しさはなった人しかわからない」と反発したり、心を閉ざしてしまったりするものです。しかし、そこからが人間の底力だということを、多くの事例が物語っています。強靭(レジリエンス)な精神をもつ事が大事なのです。

ある医師が言いました。「風邪のような少しの体調不良で亡くなる人もいるが、末期ガンでも治ってしまう人がいる。心の持ちよう一つでなんとでもなる。人間は本当に不思議だ。」

ある若き社長が夜に交通事故にあい意識を失いました。あまりの激痛で目覚めると病院のベッドに横たわっており、激痛の足をさすろうとすると足がありませんでした。それも両足。「何がどうなっているかわからす、絶望しかありませんでした」と事故当時を振り返ります。「家族や周囲の人に支えられ、時間はかかりましたが、わが社を信頼してくださっている多くのお客様、素直で研究熱心な社員、協力先。そして残された体や機能にやっと目が向き前向きになれました」と今はバリバリと仕事して業績を上げておられます。

父親が亡くなり会社経営を引き継ぐことになったある食品会社の社長は、あまりにも膨大な借入金に押しつぶされそうになりました。
「いまさら後悔しても始まらない。引き継いだ以上は立て直そう。ここまでボロボロになったのだから、これ以上悪くならないと信じて、いろんなことに取り組んで挑戦しました」先代の残してくれた生産設備と職人の技、それとブランドがいかにありがたかったことか。
今では地元はもちろんのこと、全国に名を知られた企業に成長されています。

生まれながらにして手足がない乙武洋匡さんは「障害は不便です。しかし、不幸ではありません」と400万部超のベストセラーになった著書「五体不満足」で言い切っておられます。著書の表紙に掲載された電動車いす姿の写真に衝撃を受けました。その後何かと物議を醸しイメージダウンしましたが、デビュー当時の社会に与えた障害者に対する肯定的なイメージは評価されて良いと思います。

竹島弁天で有名な愛知県蒲郡の老舗温泉旅館「ホテル明山荘」はコロナワクチン接種会場に場所を提供しています。コロナ禍で経営的に苦境に立たされている宿泊業界にとって、まさに目からうろこの発想に脱帽しました。使われなくなった大広間や大駐車場はワクチンの大規模接種会場としては最高の場所です。
着物姿の女将に迎えられ、眼下に広がる海原を眺めながらリラックス気分で受けるワクチン接種はきっとよい効果を生むことでしょう。

江戸時代の1746年に埼玉に生まれた塙保己一は、病気がもとで7歳にして失明しました。一度聞いた話は一言一句間違えずに暗記していたというぐらい学問好きで、江戸に出て、様々な人の支援で国学・和歌・漢学・神道・医学・法律と学問を修めてゆきました。34歳の時に日本の書物を編纂することを志し、40年かけて666冊の資料を「群書類従」にまとめ、「続群書類従」では1885冊という膨大な資料編集を成し遂げました。
三重苦の天才ヘレン・ケラーが幼いころから「あなたの人生の手本は日本の塙保己一先生だ」と母親に教育され育ったのは有名な話です。

明治後期に生まれた中村久子さんは2歳の時の凍傷が原因で両手両足を切断するという闘病生活を送りました。20歳のころ「恩恵にすがって生きれば甘えから抜け出せない。一人で生きていかなければ」と一人暮らしを始め、見世物小屋で両手のない体で裁縫や編み物をする芸人として生きました。来日したヘレン・ケラーに手縫いの日本人形を送り交流しました。その後の講演活動では「(体の)障害のおかげで強く生きるチャンスをもらった。『無手無足』は仏より賜った身体、生かされている喜びと尊さを感じる。人間は肉体のみで生きるのではなく、心で生きるのだ」と訴えました。なんとポジティブな生き方でしょうか。

NHKでパラリンピックのレポーターを務める後藤佑季さんは難聴障害があります。彼女がレポートするパラリンピックの選手は皆ポジティブです。
ドイツの超人ジャンパー、マルクス・レームは「他人に自分の限界を決められてはいけない。私自身そうしてきましたが、自分の限界は自分で決めるべきです。『できないでしょう』と、人から言われることがあります。そういう人は、私の“ため”にと、限界を選んで設定してくれるわけです。ネガティブな人の言う事を聞いていると、いつかそれを信じ込んで自分自身に限界ができてしまいます。それは間違っていると証明するために自分の限界は自分で決めるべき」だと。

レジリエンスは従来の価値や思考の延長線上に未来を見るのではなく、「それもあり、あれもあり、なんでもあり」の多様性の上に未来を見る力だといえます。苦境や障害をもう一押しした先に広がる無限の幸福の世界に入らねばなりません。私たちもレジリエンス=折れない心を持とうではありませんか。