No.1302 ≪「日本は世界一やる気のないが多い」って本当?≫-2024.3.7

新聞報道やテレビ報道も頻繁にされていますのでご存じの方も多いかと思いますが、アメリカのギャラップ社が世界中の企業を対象に定期的に「グローバル職場環境調査」を行っています。最新のデータは2023年6月に公表されています。ギャラップ社は「ストレングスファインダー」(今は「クリフトンストレングス」)を開発したアメリカ企業で日本では日経新聞がビジネスしています。
日経新聞の記事 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF131HN0T10C23A6000000/  によりますと「仕事への熱意や職場への愛着を示す社員の割合が日本は2022年で5%にとどまった。サンプル数が少なくデータがない国を除けば、調査した145カ国の中でイタリアと並び最も低かった。4年連続の横ばいで、世界最低水準が続いている。世界平均は23%と21年比2ポイント上昇し、09年に調査を始めて以降最高となった。調査した「従業員エンゲージメント」は働きがいを構成する主要な指標で、数字が高いと社員がより主体的に仕事に打ち込んでいることを示す。企業の業績や生産性、離職率などに影響を与えるとして、投資家からの注目度も高い。主要国で伸びが目立ったのがインドで、33%と7ポイント上昇した」とあります。
ギャラップ社の調査は2009年から始まっていますが、そのころでも6%前後でした。どのような調査の仕方をされたかは定かではありませんが、まともに受け取るわけにはいかない数です。
もし、本当にやる気のある社員が20人に1人しかいないとしたら、日本は既に終わっています。

また、別の東洋経済の記事 https://toyokeizai.net/articles/-/731721 を見ると、「オランダのランスタッド社の調査(2019年公表)によると、日本は『仕事に対して満足』と回答したのは42%で、34の国と地域の中で最下位でした」とあります。
「仕事に対して満足」している社員が42%はまだ容認できますが、「仕事への熱意や職場への愛着をもっている」社員が5%というのは到底納得できません。私の周辺の老若男女の経営者や社員さん、パートさんに聞いても、「愛着やロイヤリティは下がってきているのはわからなくはないけれど、5%はないでしょ!」と一様に首をかしげていました。

世界共通の質問調査でしょうから調査のやり方ではなく、回答の仕方の問題だと思います。日本以外の国ではこのような見ず知らずの調査会社の質問に対して、正直に回答する人はいないと思います。少しでも自分を高く見せる回答をするでしょう。日本人は控えめで正直ですから「あなたは仕事に対して愛着がありますか?」と聞かれて、自分の力量はさておき、本当にやりたい仕事と比較してそうでない仕事についていれば「はい」に〇をする人は多いと思います。また「会社に愛着がありますか?」と聞かれて、上司や同僚との人間関係がうまくいっていない人だと「はい」に〇をつけるでしょう。

昔の笑い話で、日本人が「I can’t speak English」(英語が話せない)とアメリカ人にいうと、アメリカ人が「You can talk」(ちゃんと話せるじゃない)と首を傾げた。中国人が「こんにちは」が言えれば「日本語が話せます」と自信満々にいう。この民族性の違いだと思っています。

この調査の結論は、「だから日本企業は従業員エンゲージメントに力を入れて、働き甲斐、モチベーションを高める工夫が必要です。従来の新卒一括雇用ではなくジョブ型雇用で能力に対してそれなりの報酬を出す必要があります。もっと最新の経営手法を学びなさい」となるのでしょう。「パーパス経営」「デザイン経営」「エンゲージメント」「カスタマーサティスファクション」「コンプライアンス」「ケイパビリティ」・・・横文字&カタカナが大好きな日本企業は、世界に冠たる商人文化、即ち、「理念経営」「先義後利」「三方よし」「利他主義」にもっともっと自信と誇りを持つべきだと思っています。私もカタカナをよく使いますので反省しています。目的や本質は同じでも「見せ方」が変わればまるで別物だと思いがちです。「馬子にも衣装」といいます。誰でもメイク一つで別人になれます。でも本質は変わりません。大事なのは本質を磨くことではないでしょうか。

以前に欧米の労働環境を調査したことがありましたが、アメリカには企業に解雇権(レイオフ)があり、社員も社会も受け入れています。イタリアは従業員が15名以上の企業は日本同様に事実上解雇できない法律がありました。だから外資も解雇権の無いイタリアには進出しませんでした。その影響で15名未満の小企業が大多数を占めて生産性が上がらなかったのですが、2016年に労働法が改正されて解雇できるようになりました。それ以降、経済成長は著しく、貿易収支の世界ランキング200位のイタリアが2020年には7位になりました。

「給与も低いかもしれないけれどいろんな仕事を経験できてあいまいな仕事も多いけれどめったに解雇されない安全」な日本が良いか、「給与は高いけれど約束したジョブで実績が上がらなければすぐにクビになる神経をすり減らす緊張感のある」日本が良いか。今は表面的には従来の価値観がコペルニクス的に転換する過渡期なのかもしれません。
日本人はどのような環境にあろうとも自らを成長させるために刻苦勉励して上を目指すことが自然にできる民族だと思っています。それは大谷翔平選手を見ればよくわかります。要領よく能力の80%出力でできるだけ楽して得しようという民族ではありません。まして、社員の5%しか会社や仕事に愛着が持てていないと答えるのは、これは伝えきれていないトップに責任があります。トップが自信を持てていないからだと大いに反省しなければと思っています。何事も「原因自分論」です。私も大いに反省しなければなりません。