No.1273 ≪経営者の器って何?≫-2023.8.9

史上まれに見るUターンノロノロ台風の影響がいたるところで出ています。特に、沖縄県、九州南部は被害は甚大です。被害にあわれた方は一日も早い復旧をお見舞い申し上げます。
そして今日は78年前の11時2分に長崎に原爆が投下された日です。多くの犠牲者の方々に哀悼の意を表すとともに後遺症に苦しまれている多くの方々の平安を祈ります。

さて、世界中でコロナ対策として巨額の資金が投じられ、だぶついた資金が利益を求めて金融市場に流れ込み、不動産、証券、債券、金、先物市場は活況を呈しています。日本でも日経平均は5年前の2119年1月に21000円台でしたが今は35000円に近づき、70%近く高騰しています。金(ゴールド)1gは2019年の4900円が今は9800円と倍以上になっています。不動産も地域によってばらつきがあるとはいえ全体的に好調で物件が出れば即売れる状態が続いているようです。投資信託の利回りも18%という高い運用益を上げている商品もあり、NISA、IDECO、変額保険等様々な金融商品が出回っています。為替と金利の関係でそのほとんどは海外での運用のようですが、「確実に儲かるのに乗らないのは経営者失格だ。本業以外に金に稼がせる経営者が有能な経営者だ」といった錯覚に陥っているような気がします。デジャブー。この感覚は約35年前のバブルを彷彿とさせます。短期的には経済界のスーパーヒーローが何人も誕生しました。

投資することは資金を固定化することです。しかも、海外での運用となるとまるでバクチです。財務諸表上は資産が潤沢にあっても金に換えられない資産です。一旦儲かる商品を手にすると売るタイミングはとても難しいです。上がっている時はもっと上がるだろうという楽観的射幸心と戦い、値下がりするとこれ以上は下がらないだろうと楽観的希望をもって売り損じます。本業どころではありません。バブル時代にもてはやされた時代の寵児がバブル崩壊時には会社をつぶす直前までいった企業が沢山あります。経営者は修練の時を迎えています。

さて、巷間「経営者の器以上に会社は大きくならない」と言われます。では、「経営者の器」とは何かという疑問がわいてきます。「経営者の器」は「志」と「徳」と「才」の掛け算であり、バランスです。そしてその優先順位は「志」>「徳」>「才」になります。目に見えない「志」が最も重要です。孟子は論語『公孫中』の中で「志は氣の帥なり、氣は体を統べるものなり。志至れば氣はこれに次ぐ」といい、一番重要視しています。目に見えない「志」が、人間の氣の元になっており、この氣が体をコントロールする。氣は宗気(そうき)、営気(えいき)、衛気(えき)、元気(げんき)の4種類から成り立っており、体をコントロールしているという考え方です。士気が高いとか元氣だとかやる気があるとかいうのは氣を通じてミエルカしているからです。

次に、「徳」ですが、徳と一言で言っても実に様々な徳があります。陰徳・陽徳・明徳・悪徳・高徳・上徳・下徳・天徳・人徳・地徳・・・。徳は修己治人が基本ですから実践が必要です。やらないとわかりません。易経の最初に「(陰徳)積善の家に余慶あり、不積善の家に余殃あり」といい「徳」が子孫代々にまで影響することを解いています。いわば、天に貯金することが積善です。目先の欲得に駆られていては徳は積めません。

そして「才」。才は外から見えます。才の中にも、商才、文才、英才、異才、鬼才、奇才、偉才と様々な才があります。今のような混迷の時代は情報や知識やノウハウ、すなわち「才」のある人が強いですが、行き過ぎると「策士策に溺れる」「才子才に倒れる」となりかねません。目先の欲得・損得・生産性・勝ち負け・コスパという目に見えることばかり追いかけていると、最も重要な心が遠ざかってしまいます。

「志」「徳」「才」はバランスが重要ですが、このバランスはとても難しいものです。夏目漱石の「草枕」に「智に働けば角が立つ情に棹させば流される意地を通せば窮屈だとかくに、人の世は住みにくい」という名言があります。智を才として、情を徳として、意地を志とするとその夏目漱石の言わんとするところが良くわかります。
人がうまくやっているのを見て、羨んだり妬んだりするのは考え物です。我を捨て、才を究めつつ、自分を磨き、徳を積み、志にまっすぐにゆきたいものです。