No.1106 ≪小説「20XX年 REBORN WORLD(1)≫-2020.3.31

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20XX年12月、ある大国で新種のインフルエンザ・ウイルスが生まれた。場所は1100万人が生活する地方都市の海鮮市場だ。
ウイルスの出自はRNAウイルスの故郷『コロナ』で、SARSの新種だ。ウイルスの名前は「SARS-coV-2」と命名された。「SARS-coV-2」によって引き起こされる病名を「COVID-19」と言い、その感染力の強さで人々から恐れられた。
ウイルスは宿主を変えながら変異を繰り返した。安定的なDNAウイルスと異なり、RNAウイルスだからできることであった。ある時、人に感染する能力を身に着けた。人に感染することで人の細胞に入り込み、細胞内のDNAプリンター機能を利用して自身の複製を始めた。
最初はのどの粘膜細胞に付着するが、細胞に入り込んで複製増殖したウイルスはあらゆる気道を通じて体内に侵入した。そして、気管支から肺に到達すると肺胞を通じて血管内に侵入し、全身をめぐるのはいともたやすい。人の体内では、通常、細胞の異変に気付くと体の国境警備隊である白血球がいち早く現場に急行し、ものすごい勢いでRNAウイルスを侵入者とみなして攻撃し始める。感染した人は39度以上の高熱にうなされ、全身が倦怠感で動くのさえやっとの状態になる。
増殖したウイルスはヒトに感染しやすいように変異を繰り返し、接触する人は誰彼構わず伝染した。滞留時間の長さがウイルスの生命線だが、空気中では3時間、鉱物の銅は4時間、ステンレスでは72時間、自然界に存在しない高度にツルツルに研磨された物質の表面には72時間以上滞留できる能力も身に着けた。

海鮮市場付近から次々とやってくる高熱にうなされた患者を診て、ある医師が、『SARSが発生した』と思い、医師仲間に知らせた。医師仲間も同じような患者を診ていた。検査すると『SARSに似た新種のウイルス』であることがわかり、政府に報告した。
政府は報告を否定し、逆に社会を混乱に貶めるデマを流したとして医師を拘束した。しかし、政府はすでに新種ウイルスが発生したことを知っていた。隠密のうちに重装備の防護服に包まれた一団がやってきて海鮮市場を封鎖し、徹底的に消毒した。しかし、時すでに遅しで、病院に駆け込む患者は増える一方だった。ついに隠し切れずに政府は『新種ウイルスによる感染症が発生した。
感染防止のために都市を封鎖する』と発表し、陸路、空路、海路のあらゆる交通網を遮断し、何の準備をする間もなく人々の外出を禁止した。戒厳令の発令だ。命令違反には厳罰をもって対応した。戒厳令は60日にわたって継続された。その間、人々はどのように生活したのだろうか?

政府は封じこめに成功したかに見えたが、ウイルスはさらに変異を繰り返しており、高熱と倦怠感の初期症状がでるとすぐに隔離されてしまうので、容易に国境警備隊の白血球に発見されないような偽装能力を身に着けた。次第に感染しても発病して症状が出ることはなかった。検査しないとわからない偽装能力は2週間以上だったので、気づかれることなく数万人に感染することが可能だった。無症状の感染者たちによって、あらゆる国に移動し、多くの人々に感染することができた。
地域や環境のよって変異を繰り返し、ある都市で生まれた新種のRNAウイルスは1か月もしない間に世界中の191の国々の津々浦々にまで勢力を拡大することができた。70億人の世界人口のうち少なくとも1/3の人々に感染することができたと思われる。

2週間から3週間後、白血球に攻撃されることなく増殖した偽装ウイルスは、何らかのきっかけで本来の姿に戻ることで症状が現れ、白血球に発見される。圧倒的な勢力のウイルスに白血球は当初は苦戦するが、最終的には白血球の免疫機能が強化され抗体が生成されてウイルスは消滅していった。
だから、ほとんどの人はウイルスに感染するが無症状で発病することなく治癒した。その間、接触を極力抑えて自己隔離を行えば、ほかの人を感染させることもなかった。
しかし、一部の人は持病のあるなしにかかわらず、肺胞にまで入り込んで増殖したウイルスによって人工呼吸器なしでは呼吸ができない深刻な事態に陥った。さらに血管を通じて全身に蔓延した場合は多臓器不全を引き起こして突然死することも起きていた。死後検査した結果、ウイルスに感染していたことが判明する場合が多発した。

高度に文明が発達した先進国でも、高度な先進医療を自負している病院でも、このような狡猾な偽装ウイルスによる感染を想定していないため、ある日突然に発病し、一気に重症化する患者を設備以上には受け入れることができなかった。重大事故や深刻な災害時に行うトリアージになれた医師でも、これら重症者のトリアージには冷静に対応できなかった。
医療崩壊状態となった場合にできることといえば、最悪の院内感染を防止するために受け入れを拒否するか、屋外の仮設病棟で治療の順番を待ってもらうか、高齢の重症者の人工呼吸器を若い重症患者に付け替えることしかできなかった。入院すらできず、自宅で、施設で、路上で亡くなる方が続出した。
世界の国々のリーダーは、感染者が確認されるといち早く自国を封鎖することで感染者の流入を止める措置をとった。国境封鎖だけでなく、国内での蔓延を防ぐために首都や大都市はいうに及ばず、全土に戒厳令を出さざるを得なくなった。多くの国のリーダーは戦時体制を宣言した。最初は、中国が、イタリアが、次にスペインが、アメリカが、インドが・・。

あっという間にほぼ全世界の国が封鎖され、首都や大都市は外出禁止となった。ニューヨークも閉鎖され、ロンドンも、パリも東京も閉鎖された。都市機能はストップし、経済活動は休止せざるを得なかった。それでも必要最小限の経済活動は行われたが、これも禁止されたり統制されたりするのは時間の問題だった。6か月分の備蓄食料が底をつくころが最も危険で深刻な事態なので、それまでにウイルスを封じこめる見通しを立てねばならない。政府の命令で植物工場が増設されフル稼働した。
ドライバーや倉庫従事者が極端に不足し物流機能が停滞した。パイロットの隔離で飛行機の減便は50%を超えた。船員も不足し50%しか運行できなくなった。地域で自給自足努力が求められた。
日常生活物資はインフレとなり、それ以外のモノは売れなくなり著しいデフレが始まった。

以下、次回に続く