No.1266 ≪「人を動かす原理」をマスターする≫-2023.6.22

トップやリーダーであるあなたは人を動機づけして行動させて成果をあげさせるのが仕事です。ではどのようにアプローチすれば人は動くのでしょうか。業務命令で強制的に行動させる、あなたの人柄でその気にさせて動かす、馬に人参を与える如くメリットをちらつかせて動かす、脅して動かす、同調圧力を利用して動かす。他にもいろいろありますね。
実は、人が動くのは次の3つのアプローチによることがわかっています。
1.権力に物を言わせるアプローチ
2.見返りを与えるアプローチ
3.共鳴によるアプローチ
一つ目の「権力に物を言わせるアプローチ」ですが、国家は法的強制力で人を動かすことはできますが、中小企業のトップには法的な「権力」と呼べる強制力はありません。社員は嫌ならいつでも「辞める」という選択の自由があるからです。何らかの理由で会社を辞めたくない場合はトップの「権力」は物を言いますが、そうでない場合は無意味です。
二つ目の「見返りを与えるアプローチ」は、褒美を与えることで人を動かすアプローチです。欲得に訴えかけるやり方です。人はやるべき内容と褒美の大きさで判断して行動します。財布に余裕がある場合は効果的手法だと言えます。いわゆる「コスパ」が良ければ動きますが悪ければ動きません。また褒美という刺激はすぐに馴化しますので過激化しますし、褒美がなければ動かないという弊害も出てきます。
戦国時代に豊臣秀吉は命を懸けて戦う「戦(いくさ)」の論功行賞に最初は領土を与えていましたが、与える領土がなくなると朝鮮半島や中国の領土まで与えたそうです。それでも足りないとお茶の道具や身に着けているものを与えたといわれています。限界があります。
三つ目の「共鳴によるアプローチ」は心の理解と頭の理解による理由付けすることで納得づくで人を動かすアプローチです。最も近代的で人間的で合理的な方法です。経営者はこのアプローチを学ばねばなりません。

この手法は大きく二つのアプローチから成り立っています。一つは心の理解、すなわち動機付けです。これには5つのスキルがあります。まず「傾聴スキル」です。アイコンタクトしながら相手の話をココロから真剣に聞くことです。反論しない。否定しない。相槌を打ちながら聞く。聞き上手は話し上手と言われる所以はここからきています。次に「ペーシングスキル」です。うれしい時はうれしいなりに、悲しい時は悲しいなりに相手のペースに合わせて親和性を高めるのです。呼吸や頬杖などの動作をまねるとさらに効果的です。次に「復唱スキル」です。相手の話した言葉で復唱することで相手の承認と相互理解を深めるのです。時々、相手の話を要約したり、別の表現をしたりする方を見かけますが、もったいないです。例えば「この前久しぶりに家族でファミリーレストランに行きました」と相手が話した時に、「良かったですね。久しぶりにご家族でファミリーレストランに行かれたのですね」というのです。これを「良かったですね。久しぶりにご家族で外食されたんですね」と別表現してしまったのではまずいのです。次に「質問スキル」です。自分で考えてもらって相手の意見を引き出すのに有効です。この時の質問は2種類あり「オープン・クエッション」と「クローズ・クエッション」があります。例えば、「オープン・クエッション」は「最近調子はどうですか」という風に漠然とした投げかけです。相手は自分の理解した内容で応えてくれます。「クローズ・クエッション」は「全員参加の社員旅行は賛成ですか反対ですか」といったようなイエス・ノーのどちらか選択する質問です。オープンとクローズを使い分けながら核心に迫ってゆくのです。次に「柔らかな主張スキル」です。相手を攻撃せずに自分の考えを伝えるスキルです。 例えば「ほとんどあなたと同じ意見です。ただ1つ違うとすれば・・」とか「おっしゃるとおりです。加えて・・だとさらに良いですね」とか「私達は何をどうすれば良いでしょうか」とか 「間違っているかもしれませんが・・」という感じです。これが心の理解、すなわち動機付けするスキルです。

次に頭の理解による理由付けのアプローチです。これはロジカルシンキングとも言います。大きくは2つの技術があります。思考技術と構造化技術です。思考技術は「ゼロベース思考」「仮説思考」「演繹法と帰納法」の3つが主な手法です。「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺は典型的な演繹法の手法です。仮説思考は検証→実行→再検証の手順がワンセットです。構造化技術は視覚に訴える「グラフィック」と漏れなくかぶりなくすべてを包括できる「MECE(Mutually・Exclusive・Collectively・Exhaustive)」の2つが主な手法です。「MECE」の中にはさらに「ツリー」「マトリックス」「フロー」「サークル」「フレーム」の5つの方法があります。例えば人口構成を年代で表現するやり方はMECE手法の応用です。損益計算書もMECE手法の応用です。

トップやリーダーは「心の理解(動機付け)」技術と「頭の理解(理由付け)」技術をマスターして、激動の時代を生き残らねばなりません。技術はスポーツと同様にいくら本を読んでも上達しません。トレーニングする以外方法はありません。一生ものの技術を身に着けて、ブルーオーシャンを切り開きましょう。「人を動かす」原理をマスターした人から次の世界に進めるのです。頑張ってください。