No.1311 ≪「豊かな日本」と「貧乏で安い日本」どちらが本当か≫-2024.5.8

何度も同じことを言っていますが、何処から見るか、何を見るかで物事のとらえ方が変わってきます。特に、目先の現象で一喜一憂するか、3年〜5年の中期的なものの見方をするか、10年以上の長期的なものの見方をするか、100年単位の歴史的なものの見方をするかで同じ現象のとらえ方でも変わってきます。
そこで、私の師匠の一人、歴代総理の指南役と言われた安岡正篤師の「ものの見方考え方の三原則」を常に基本において見ています。「ものの見方考え方の三原則」とは、「多面的に見る」「長期的に見る」「根本的に見る」の3つです。

先週のブログでもお伝えしましたが、為替の問題は、それぞれの国の通貨の価値の表現ですので、ある方々にとっては非常に好ましい現象ですが、ある方々にとっては非常に困った現象となります。どこから見るか、どのような立場にいるかで全く逆の答えになります。例えば、GWで海外旅行に出かけられた方々は、今までより15%以上割高の旅費を払って、しかも現地のインフレをまともに受けて食事するだけで1万円札に羽が生えたように飛んでゆくのですから困った事でしょう。国内旅行に切り替えた方々は渋滞やオーバーツーリズムには辟易したでしょうが、予算的にはとても余裕があったと思います。

こんなに円安になって「安い国」「貧乏な国」に成り下がって大丈夫かとマスコミで騒がれています。それは全くの杞憂です。インバウンド旅行者からすれば、夜中に女性一人で歩いていても安全で、とても清潔で、親切な人々ばかり住んでいる夢のような国、日本に来れば、円安メリット(彼らからすればドル高メリット)とインフレの影響を受けていない安い物価の両方のメリットを享受できるのですから、たまらないと思います。「なんと心豊かな国だろう」とおもうことでしょう。思い起こせば多くの日本人も経験したことです。超円高(超ドル安)だったバブルのころ、多くの日本人が海外に大挙して出かけてルイ・ビトンをはじめとして高級ブランド品を買いあさっていた時期があります。現地の人は高嶺の花と諦めていたブランド品を高校生でも持っていました。

日本は貿易収支では赤字ですが、経常収支は黒字なので、外貨をたっぷりとため込んでいます。
財務省の「外貨準備等の状況」報告によると、2000年12月の外貨残高は3600億$でしたが、その時の為替レートは1$=115円ですので日本円に換算すると41.4兆円の外貨を持っていたことになります。では今はいくらか。2024年3月には1兆2900億$に増えています。3月の為替レートは1$=151円ですので、194.7兆円の外貨を持っている計算になります。
外貨は基本的にはドル建てですので、1$=160円になった場合、206.4兆円の外貨を持っていることになります。
つまり、資産が急増して、あっという間に11.7兆円も増えたことになります。これは約5%の消費税減税原資に相当します。
では日本のGDPはドル建てでみればいくらあるかと言えば、4.232兆$(2022年度)ですので、GDPの30%は外貨準備高というドル資産で持っていることになります。円安になるとインバウンド観光客と同じように懐が温かくなるのです。これをどのように運用するかは政府の匙加減一つですが、何らかの改革を行う原資は潤沢に持っているということです。
ただ、深刻な問題もあります。

貿易収支をみると輸送用機器や機械の輸出で多額の貿易黒字をだしていますが、そのほとんどを帳消しにして大幅赤字になっているのはエネルギー(石油、ガス等の鉱物資源)でその多くは中東に依存していることです。円安は貿易赤字に追い打ちをかけています。日本にとってはエネルギー問題はなんとしても解決しなければならない問題と言えます。また再生可能エネルギーが現状の22%が40%になるまで中東の安全保障は日本の死活問題でもあります。

一方日本国の貸借対照表は約702兆円(2022年3月末 出所:財務省)の債務超過です。全ての民間企業を合計した貸借対照表の自己資本は816兆円(2022年3月末 出所:法人企業統計)で自己資本比率は40.4%と優秀です。日本国全体で見れば114兆円の黒字でしかも年々増加しているので外国の投資家からみれば積極的に投資したい国です。金融機関は金利差を考えると円よりドルを持つでしょうが、事業の投資としては間違いなく日本を選ぶでしょう。

いつの世も「激動の時代」ですが、今は特に従来の社会の仕組みや価値観が変化する「激動の時代」と言えるのではないでしょうか。例えば、資本主義。広辞苑では「産業革命によって確立した生産様式。商品生産が支配的な生産形態となっており、生産手段を所有する資本家階級が、自己の労働力以外に売るものをもたない労働者階級から労働力を商品として買い、それを使用して生産した剰余価値を利潤として手に入れる経済体制」とありますが、経済のソフト化やネット社会の出現によって定義にそぐわない別物に変質しています。政府は「新しい資本主義」を提唱していますが、今一歩明確なイメージができません。
また、政治体制は民主主義が一番良いと信じてきましたが、遅々として改善が進まない現状を見ると果たしてこのままで良いのかと疑問が起こります。中国は「孫氏の兵法」を忠実に実行し、2049年の世界一の覇権国実現に向けて100年マラソンを走っています。
私たちは、インテリジェンスを磨いて、物事の本質を見極める力を持たねばなりませんね。