No.1136 ≪パワーバランスが崩壊した世界に住む私たち≫-2020.11.4

今日はアメリカ大統領選挙の投票日です。日本時間の11 月3 日(火)20 時より東部地区から順に投票が始まり、4 日午前中から開票が始まります。今まさに開票作業中だと思います。
1989 年11 月9 日にベルリンの壁が崩壊し、1991年12 月25 日にソ連が解体され、冷戦は終了し、世界はアメリカ一強になりました。「パックスアメリカーナ」と呼ばれる時代です。翌年1992 年のアメリカ大統領選挙ではクリントンがパパ・ブッシュを破って当選します。その時の決めぜりふが「It’s the economy、stupid! (経済こそが一番だ。それがわからないのかバカモノ)」でした。

このころから、アメリカは緊張感を欠いて、現職大統領と実習生との不倫も報じられ、それがパロディとして放映までされました。緊張感欠如のせいか大統領が決まりにくくなり、2000 年のブッシュとゴア騒動は有名です。もつれにもつれて裁判闘争になり最終的にブッシュ大統領が誕生しました。今回はそれに匹敵するかそれ以上の騒動になるともっぱらの噂です。最悪の場合は200 年ぶりに下院が大統領を選ぶ事態になるかもしれないとか。このようなことが起きる背景には、世界が平和になり、冷戦のような脅威がないからだと思われます。
場合によっては大国の露骨な示威行動によって、コロナ禍の世界に緊張が走りパワーバランスの不安定化が起きるかもしれません。そうなると、危機の時の「ドル安円高」状態になり、コロナ禍で体力を弱めている日本企業の業績悪化につながります。

アメリカが「世界の警察官」から引退して久しいですが、日本が位置する東アジアは中国の影響力がますます顕著になっています。大変なことがたくさん起きています。
皆さんは自衛隊機による「スクランブル」をご存じだと思いますが、一体どの程度の頻度で起きていると思われますか? スクランブル発進とは自国の領空侵犯に対する警戒行動です。航空自衛隊のホームページにはスクランブル発進回数が対象国機別に公開されています。過去最高は2016 年の1168 回。月平均97 回。一日平均3 回です。侵犯機の対象国は中国が73%、ロシアが26%です。中国がGDP で日本を追い越して2010 年に世界2 位の大国になりましたが、その時と比べると実に7倍になります。

ちなみに、沖縄那覇基地からのスクランブル発進は日本全体の7 割に達します。日本の領空は沖縄の那覇基地が守っているのです。2017 年904 回、2018 年999 回、2019 年947 回とピーク時よりは少なくなっていますが、高い水準で推移しており、中国軍機へのスクランブル発進は全体の7 割を占めています。
ちなみに台湾ではもっと深刻で、中国軍機の領空侵犯によるスクランブル発進は、2020 年9 月までの9 か月で2972 回に達し、毎日2 時間おきに領空侵犯の脅威を受けている計算になります。あまりにも露骨で、「香港の次は台湾だぞ」と言わんばかりの行動です。1 回あたりの発進コストは約3000 万円なので、相当な負担になっているとおもわれます。

一方、領海侵犯はどうかといいますと、干潮時の陸地(基線といいます)から12 海里(約22km)を領海といい、領海から12 海里を接続水域といいます。基線から200 海里を排他的経済水域と呼び、その向こうが公海です。尖閣諸島の接続水域に侵入する中国漁船、その漁船を護衛するという名目で中国公船や軍艦は、海上保安庁のホームページによると、2016 年752 隻、2017 年696 隻、2018年543 隻、2019 年1097 隻、2020 年9 月で898 隻と増加傾向にあり、東京都が2012 年9 月11 日に尖閣諸島を購入して国有化して以降顕著な現象です。特に国力をつけた中国は2012 年9 月25 日に空母「遼寧」を就役させたこともあり、ほぼ毎日領海侵犯の脅威にさらされていることになりますが、マスコミで報道されることはほとんどありません。
空母「遼寧」は2016年以降いくどとなく日本の接続水域である宮古海峡を通過して、太平洋に出ている事が確認されています。2020年4月には「遼寧」を含む6隻の艦隊編成で沖縄本島と宮古島の間を南下し、遠征の帰路北上したことが確認されました。

これら周辺国の脅威に対抗して、2016年に与那国島に陸上自衛隊と沿岸警備隊が配置されました。2017年には南西航空混成団が方面隊に格上げされました。石垣島、宮古島にも陸上自衛隊の駐屯地が整備され、国境警備に力を入れています。沖縄には嘉手納基地という東アジア最大の米軍基地がありますが、アメリカの東アジアへの影響力が少しでも弱まると、それを確認するかのように周辺国の示威行動が活発化し、緊張が高まります。その緊張感は、日本全体で共有されていないのが実態です。

冷戦時代の軍事力は、歴史的に陸軍から海軍、そして空軍へとシフトしました。このころは「見える軍事力」といえます。しかし、1995年以降ネット社会になって以降はサイバー軍、宇宙軍と「見えない軍事力」に変化しました。ミサイルもICBNのように宇宙空間を超えて飛んできます。これらに対応した防御をすることで初めて、自国の安全と平和を守る事ができ、豊かさを享受できるのです。残念ながら、今は世界のパワーバランスが崩れた世界になっています。緊張感をもって世界に関心を持ち、インテリジェンスを磨かねばなりません。