No.1100 ≪経営における目標と手段≫-2020.2.14

中国・武漢市発のコロナウイルスの猛威がすさまじく、連日連夜の報道で、世界中がまるでパンデミックのような大騒ぎになっています。皆様の周囲は大丈夫でしょうか?

「わが社の中期経営計画の戦略目標は、3年後の2023年3月に、売上高〇〇億円、経常利益〇〇億円、No.1シェアを握り業界のリーディングカンパニーとなることです。そのために研究開発と市場開発に大規模投資を行い、付加価値の高い製品開発を行うことです」これは経営の目的でしょうか、あるいは手段でしょうか?皆さんはどう思われますか?

私は経営にはバックボーンが必要だと思っています。経営のバックボーンは、①経営目的→②経営目標→③経営方針→④経営組織→⑤経営計画→⑥スケジュール→⑦実行→⑧成果→⑨配分の9つのステップで成り立ちます。
上記の中期計画は②経営目標であり、③経営方針であり、いずれも手段です。ならば経営目的は何なのかをうたわねばなりません。「手段」が「目的化」してしまうと恐ろしいことになります。例えば、経営目標「経常利益1 億円」、実行具体策は「まだ市場にない新商品を5 品開発する」とします。
担当部員は目標を達成すべく、市場調査をし、アンケート調査やインタビュー調査で消費者・生活者のニーズを探ろうとします。試作品を作り、様々な切り口で評価します。
感触が良ければ市場に出します。目標は5品なので後4品です。同じプロセスで次の商品開発を行います。結果的には5 品を市場に出すことに成功しました。しかし、目標の経常利益1 億円には程遠く、昨年並みの5000万円程度の利益しか出ませんでした。
手段が目標になってしまい、いつの間にか行動量が目標になってしまっているのです。

一方「10 ㎏の軽量折り畳み電動車いすを開発して、手ごろな価格で提供し、障害者が社会進出する手助けをする。目安は1000 台販売し、利益は5000 万円としよう」という計画があると、目的、手段の関係が明確です。量的目安も明確です。1000 台の販売で利益を5000万円確保するためには固定費+5000 万円が限界利益となり、市場競争力のある価格×1000 台が売上高です。手段が目的化することはありません。

社員に「あなたの仕事は何ですか?」とたずねたとき、多くは、「営業をしています」「経理をしています」「秘書をしています」などと答えます。
ただ、これらの回答は、職種や職業を示しているのに過ぎません。
また「仕事」とは、職種や職業だという考えは、会社員に限ったことではありません。たとえば「市役所で働いています」「小学校の教師をしています」「国会議員をしています」などの回答も、同様に❝どんな業務に従事しているか❞という視点しかありません。
本来、「自分の仕事は何か?」という問いに対して真剣に向き合っている人であれば、 「〇〇という形で人様の役に立っています」「〇〇に従事することで世の中に貢献しています」などと答えるべき。それが仕事に対する正しい認識です。
たとえば私の場合を考えると、経営コンサルタントを職業としているからといって「経営コンサルタントをしています」と答えるようではダメです。
「経営改善のお手伝いをすることで、社会に貢献しています」とこたえなければならないのです。
その答えには「なぜその仕事をしているのか?」という根源的な問いへの答えがあります。あらゆる仕事は、突き詰めて考えると、最終的には「世のため、人のため、社会のため」になるものです。どんな仕事をしていても、そのことを自覚する必要があるでしょう。
当然ですが、トップ自らが、まず仕事に対する正しい認識を持つことが求められます。経営者が自信をもって、「自分は〇〇によって社会に貢献している。世のため、人のために働いている」といえるようにしなければなりません。(出所:「儲かる会社に変える7つのステップ」秀和システム刊より抜粋)
経営の目的と目的達成の手段が、いつの間にか目的がどこかに行って、手段そのものが目的となり、それを達成するための手段を追いかけることが正しい仕事だと錯覚してくるのです。放置するととても怖い結果になります。本来、経営のバックボーンを踏まえてきちんとPDCA サイクルを回すことでこの錯覚を回避できます。
毎月、小さな振り返りを行い、3 か月に一度は全体を振り返る。この繰り返しが経営には不可欠だと認識しています。