No.1276 ≪「人が採用できない」 いつか経験したイマ≫-2023.8.31

「人が採用できない、特に技術者が厳しい」「求人してもずーっと応募がない」「募集待遇を上げたが反応が悪い」「応募があったが一目見てお引き取り願った」「社員の離職が出だした」「若い社員が簡単に転職する」「権利は主張するが義務は後回し」など、人にまつわる困った状況を経営者の方からよく聞きます。

困難な時は安岡正篤師の思考の三原則「長期的に見る」「多面的に見る」「根本的に見る」が重要です。「政治は経済に優先する」ことが原則ですから、政治は70年サイクルが参考になります。日本で言えば、明治維新から70年で太平洋戦争に突入し、戦後日本が主権回復し独立を果たして70年が今です。世界を見てもそれぞれの国の70年サイクルが転換点を迎えています。例えば、中国は建国から70年で覇権主義大国になりました。ロシアは共産革命から70年でソ連崩壊し、今は再構築の真っ最中です。

日本の経済は失われた20年と言われ、今では30年が常識になりました。いつ目覚めるかはまだ未知数です。
これはGDPが成長しないことを表現したものです。日本ではGDPの構成要素は2020年で個人消費53%、政府支出21%、設備投資16%、その他10%です。ちなみにアメリカは2014年で個人消費70%、政府支出19%、設備投資15%、その他マイナス4%です。個人消費は人口×可処分所得です。人口減少と賃金停滞の日本ではGDPが伸びないのは自明の理です。

つまり、個人消費で経済成長が決まるわけです。個人消費を活発にするためにアベノミクスは3本の矢を準備しましたし、補助金を出したり、ヘリコプターマネー論議が出るのもここに要因があります。私たちが消費をすると、その需要にこたえようと企業は設備投資をし、善循環が始まるのです。では個人消費はどうすれば活発になるか。それは十人十色の価値観によるところが大きいですが、基本的には将来不安が和らぎ幸福感を味わえる時、つまり給与が将来的にも上がってゆくことが見込める時です。この会社にいると今後も収入が増えると実感した時に離職率は下がります。

これを統計でみると、2022年の残業代を含む名目月給与は38万円(昨対103%)で、残業代は7.6万円(収入の20%)あります。為替(年末値)は1$=134円、GDP成長率は1.4%。物価上昇率を考慮した実質賃金でみると36.8万円(昨対99.4%)で目減りしている状況です。残業代を含まない名目月給与は30.3万円(昨対102.3%)と低調です。失業率はどうかと言いますと2.6%、有効求人倍率は1.28倍で求職者がいない状態です。引きこもり、フリーターは常に一定数おられますのでほぼ完全雇用状態と考えられます。日経平均株価は32,438円(8月29日)で上昇基調。倒産件数はコロナ融資でゾンビ企業が多数推定されますので省きます。

では、過去において同じような状況はいつだったか探してみると、ありました。1987年。バブル景気真っ最中の時です。名目月給与33.6万円(昨対102.7%)、残業代8.5万円(収入の25.3%)、実質月給与33.8万円(昨対101.6%)、失業率2.8%、有効求人倍率0.7倍。その時の為替は1$=138円。しかしGDP成長率は4.8%と好景気です。皆が人生を謳歌していたころです。その後どうなったかと言いますと、名目賃金と実質賃金は逆転します。毎年賃上げ率は4%近くで推移します。人が採用できなくては事業継続ができませんので止むを得ません。GDP成長率も低下したとはいえ3%以上を継続しました。そして、1990年3月27日に実施された行政指導(総量規制)により、1991年にバブル経済は崩壊します。日経平均株価は1年で38,915円から23,848円に暴落します。

三原則「長期的に見る」「多面的に見る」「根本的に見る」から見て、今後どう判断するかは個々の企業の置かれている環境により一概には言えませんが、働き方改革の実効が今後強く求められることを考えると、思い切った待遇改善を志向する方針を打ち出すことで、採用を有利に進める決断が必要かと思います。

落ち着いてきたとはいえ仕入コスト・物流コストが高騰している今は、変動費のコストダウンによる限界利益率の改善は限界があります。
お客様が認めてくださるわが社の強みを最大限発揮し、エッジを効かせ、付加価値を高めるモデルチェンジ、新商品開発にチャレンジし適正価格(値上げ)を行うことで限界利益率を改善する。インフレと円安によるダブル効果が期待できる海外市場は身の丈に応じて積極的にチャレンジする。
仕事はDXの活用で業務手順を半減したり、人を選ばないシステム構築や暗黙知を皆が共有できる環境整備を進め、劇的な生産性改善を行うことで増益を実現する。
人材は募集すれば採用できる環境ではありませんので、離職を防ぎつつ、縁故も含めてあらゆる手を使って入社希望者を増やす。2021年から始まっている奨学金の代理返済制度も有効な手段です。
これらの裏付けなしに価格競争に入ることは死期を早めることになります。大手企業は潤沢な財務がそれをサポートできますが、中小企業はそうは行きません。