経営者は会社を良くしたいと常々考えておられます。良い会社とはどんな会社でしょうか、人それぞれだと思いますが、次のような会社はいかがでしょうか。高収益企業。高付加価値を創造する会社。ブランド力のある会社。知る人ぞ知る優良企業。社会から求められる会社。100年以上の老舗企業。社員の子供が自慢する会社。社員とその家族の笑顔が絶えない会社。親子社員や三代社員が沢山いる会社。有人知人を入社させたい会社。物心両面の幸福を追求する会社。社会を明るくする会社。SDGSが当たり前の会社。自分の成長を実感できる会社。まだまだありますね。
会社を良くしようとしても、自分の力だけで良くするのは相当強い意思力が必要です。また、良くするには「やりたくない事」や「やっていないこと」をやらねばなりませんので社内の抵抗に対して説得力が必要です。社長の我を押し通すという方法もありますが、「今のままでも大きな問題がないのに、なぜ、これをやらないといけないのか。うまくいかなかったらどうするのか、引っ込みがつかないではないか」と言われると、腰砕けになってしまいかねません。
良い会社を作るもっとも簡単で効果的な方法が一つあります。それは社内外のできるだけ多くの方に様々な場面を通じて公言することです。つまり「言いふらす」ことです。自分以外の人の力を借りて目的を達成することを「外圧を利用する」と言います。
外圧には様々な種類がありますが、一番わかりやすいのは「公開企業になる」ことです。財務内容や基盤整備を充実させるのは言うまでもありませんが、形式的に判断基準の整備、つまりルール化が不可欠です。業績も四半期毎に差異分析を公開し、場合によっては記者会見も必要です。しかし、そう難しいことでもありません。
世界基準での標準化を求められるISO認証を受けることもよい方法です。ひところのISOブームは終息して、本当に「顧客満足度の追求」「継続的改善」を社風とする会社以外はISOの看板を下ろしている企業が増えてきました。顧客に対して品質を保証する体制ができているか、リスク回避できるような仕組みを持っているか、良品しか作らない設備の更新や保守が計画的に行われ結果がきちんと記録され、定期的に評価をすることで継続的改善を可能にしているかを問われます。もし何か不具合が生じても発生時点にまで戻った原因究明がシステム的にできるかどうかが問われます。要求されればいつ何時でも材料の供給元の状況がわかるトレーサビリティができるかどうかが重要です。毎年の定期審査と3年毎の更新審査もあり、監査員の任命と育成も不可欠です。適度な外圧にさらされることで、社内のシステムや人材の育成と熟成が進みます。
ブームからトレンドになろうとしているSDGS認証を受けるのもよい方法です。世界レベルで「貧困撲滅」と「地球環境保全」を追求する活動に名乗りを上げて、SDGSコンパスを回すのは、自分たちの会社の立ち位置を明確にし、バリューチェーンを整備することで、社員一人一人の活動と世界をつなぐことができます。SDGSコンパスは最後は社会への公開性を要求しています。自分がやっていることが世界や地球にどうつながっており、それが良い影響を与えているのか悪い影響を与えているのかが見えるようになります。
良い事例があります。松下幸之助師は昭和7年(1932年)3月、38歳の時に天理教本部を訪問しました。その時に、教祖殿の建築や製材所で働く信者たちの喜びに満ちた奉仕の姿に胸を打たれ「宗教は悩んでいる人々を救い、安心を与え、人生に幸福をもたらす聖なる事業である」と感動したのですが、よく考えると自分がやっている「事業経営も、人間生活に必要な物資を生産する聖なる事業ではないか。」と悟ったのです。「昔から“四百四病の病より貧ほどつらいものはない”ということわざがあるが、われわれには、その貧乏をなくすために、刻苦勉励、生産に次ぐ生産でこの世に物資を豊富に生み出す尊い使命、真使命がある」と自覚したのです。今まではただ商売の常道に従っていたにすぎないが、これからはこの真使命に立って事業経営を進めようと決心し、昭和7年(1932年)5月5日38歳の時に、一流ホテルに全社員、関係先を集めて松下電器の真使命を闡明(せんめい)したのです。もう後戻りはできません。真使命に突き進むだけです。この時の挨拶が有名な「水道哲学」となったのです。
会社を良くするのにだれにも遠慮はいりませんが、関係者を同じ方向に向かわせるためには、大義名分と経営者の覚悟が必要です。まずは思うこと。次にその思いを公言すること、しかもできるだけ多くの方に、多くの場面を通じて。さらに外部機関による審査を受けて、定期的な進捗チェックを受けるとなおさら強力な推進力になります。外圧に負けてやらされるのではなく、外圧を利用して目的を達成するのです。