No.1172 ≪冬の来る前に≫-2021.7.30

21世紀経営クラブ≪冬の来る前に≫-2021.7.30  目加田博史

「♪坂の細い道を 夏の雨に打たれ・・・」という歌詞で始まり「冬が来る前に もう一度あの人にめぐり合いたい」で終わる歌は1977年に大ヒットした紙ふうせんの「冬が来る前に」というフォークソングです。
ビートルズの解散で始まった1970年代は私の青春時代にあたり、「冬が来る前に」がヒットしたころは大学卒業する時です。ビートルズの頃は明るい未来が広がっていましたが、フォークがはやる頃は、ドルショック(1972年)に続くオイルショック(1973年、1979年)で日本経済の成長は止まり、戦後最初の就職難で、大手企業が大規模リストラに入り、新卒採用を大幅に削減しました。将来不安ばかりが先行し、1985年のプラザ合意を機に始まるバブル景気到来までは我慢の時でした。
音楽もあの頃は未来への希望を歌い上げるよりも不安を少しでも和らげてリスタートに備える「追憶」の曲が多かったように思います。

さて、今は1年遅れで世界初・人類初のコロナ・パンデミック下でのオリンピック、東京2020が開催中です。
取材に来ていた次回開催国フランスの特派員がインタビューに「コロナ禍の下で開催されたオリンピックで、この異常な空気感を伝えることが大事だと(出場アスリート以上に)主に街の人々に取材しています」と語っていたのが印象的です。誰も浮かれていない冷めた大会です。
世論調査では中止・延期論が国民の7割以上を占める中で、菅総理が5月のイギリスG7で各国首脳に開催支持を要請した時点で開催が決まりました。決断してからも中止・延期論が主流の中で、観客を入れるか入れないかで議論が巻き起こり、何が何だかわからない、何も決まらない「カオス状態」が続き、無観客と決まったのは開会1週間前だったと思います。さらに、開会式前日まで組織委員会の人事のごたごたがありました。
その中で7月23日の4時間以上に及ぶ開会式は印象的で、ドローンで地球を表現した時、現場はよく頑張ったと感動しました。
それから1週間。アスリートの活躍、中でも若い日本のアスリートの活躍に目を見張りました。
若いアスリートはヒーローインタビューで口をそろえて「開会していただきありがとうございます。国民の皆さん、大会開催に尽力いただいた関係者の皆さんに感謝します」といいます。日本の未来は明るいと素直に思います。

祭りは始まったら必ず終わります。どのような結果であれ、東京2020は9月5日には終わります。暑い夏が終わり、秋が過ぎると冬が来ます。今年の冬は経験したことのない激動の冬となるでしょう。経営活動に終止符を打つ企業も激増するでしょう。新たな商機を活かして起業する会社も激増するでしょう。単に内部留保が潤沢なだけではしのげない冬がやってきます。20世紀と21世紀の間にあった「奈落の底」は健在で、その割れ目が広がり、深くなっています。ある意味で本格的な21世紀への移行が進んでいるといえます。そのピークは2022~23年ではないかと想像します。

ズームアウトして今を見てみると、2020年1月に中国武漢で確認された新型コロナウイルスはあっという間に世界中に広がり、日本でもダイヤモンド・プリンセス号事件で一気に注目されパンデミックとなりました。
その後1年半、コロナ報道は全世界で365日24時間休むことなく続けられ、地球人全員がほぼ洗脳状態にあるといえます。そして東京2020が加わり、報道はコロナと東京2020のみで近視眼的になっています。コロナ以前の日本の危機はどこに行ったのか探すのさえ難しくなっています。

コロナ禍前の日本の危機は、バブル崩壊後失われた20年問題の解決、リーマンショック、東日本大震災からの復興が焦眉の問題でした。2008年9月のリーマンショックを機に自民党は国民に見放され敗北。2009年9月民主党が政権につきました。そして2011年3月11日の東日本大震災の対応のまずさから国民に見放され、2012年12月自民党が復活し、第二次安倍政権が誕生し「アベノミクス」が実行されました。あれから10年。そしてコロナ禍が発生しました。

30年にわたる日本の危機は解消されたのか? 私たちはよく認識しておかねばなりません。社会の基本構造は変革できたのか? 経済は復興するのか? 企業経営はどうあらねばならないのか? 広い視野と新しい視点と高い視座で多面的に見てゆかねばなりません。
日本の成長が止まった「失われた30年」はデフレに突入した時期に相応します。デフレの原因は人口問題です。中でも生産年齢人口の減少です。今後20年間出生率が今の倍になっても生産年齢人口の減少は止まりません。
生産年齢人口の所得と個人消費(国の富)は比例します。所得が増えると成長は自然と上向きます。
日本には高齢者に偏在している1400兆円もの金融資産がありますが、これを子や孫の代に定められた期限までに一定比率移動させる義務を法律化するぐらいの覚悟がないとデフレから脱却はできません。
黒田バズーカ砲で異次元の政策をいくら打っても、金利がマイナスになってもなんら変化していません。補助金を湯水のごとく出しても砂漠にドラム缶の水をこぼすようにあっという間に蒸発してしまいます。このまま放置すれば、日本の発展を夢見て寝食忘れて働いた先人が残した遺産を食い尽くし、人口も富も縮小する極東の小さな島国になりかねません。

これがコロナ前の日本の危機です。
では私たち中小企業がやるべきことは何か。中小企業は生き延びて発展し100年以上の企業になることです。 つまり、「お客様に選ばれる」ことです。お客様とは、私たちが求める特定セグメントのお客様の事で、万人のお客様ではありません。私たちが適正価格で提供する製品・商品・サービスの価値を認め、同じ価値観を共有してくださる方が私たちが求める特定の「お客様」です。そのお客様に選ばれる人材、技術、商品、仕組みを磨いて磨いて磨き倒さねばなりません。そしてブランド化する。一手間、二手間かけて多くの人々の手を通したモノづくり、サービスづくりが国を救うのです。魅力的なブランドを求め国内は言うに及ばず世界中から求められるように、磨いて磨いて磨き倒すのです。規模のメリットを追求しなければ消滅する大企業ではなく、規模のメリットを追求しづらい中小企業だからできることです。