弱さや不完全さが社会を救うかもしれません。「強くて完全」であればあるほど更に強さと完全を求め、より効率的に、より高度な技術革新を求め、人への要求が際限なくエスカレートしてゆきます。しかし、「弱くて不完全」であれば他者へのいたわりが出てくるものです。
不必要に超高度なIT・デジタル社会にあって、弱さや不完全さを持っているからこそ価値がある時代になってきました。大企業はより強くより大きくなることを永遠に追求しないと破綻する宿命にあります。そんなことって不可能だとわかっているのに。私たち中小企業は決して大企業の真似をせず、規模よりもより良い会社にすることに意を注げば永遠に持続してゆけるのです。より良い会社とはよりよい社会を作ることです。近江商人の「先義後利」「てんびんぼう行商」の精神が求められているのではないでしょうか?
この弱さや不完全さに特化した癒しロボットが最近人気を博しています。性能スペックはべらぼうに高いのに、できることといえば極めて非効率で生産的ではありません。なのに多くの人に愛される。不思議です。
GROOVE X社から発売されている「LAVOT」は、じっと目を見て甘えたり、抱っこすると人間のような温かさがあり上手に抱いてやると車輪ローラーが格納され、喜びます。高性能AIが内臓されていますので学習能力は高いですが言葉は話せません。可愛がってくれる人とそうでない人を識別して行動します。気まぐれでかってにどこかに行ったり、相手してやらないとすねるのです。ペットのように餌や排せつ処理は不要ですが、クラウド料金がかかり、年間約50万円(税込)を超えます。それでも待ち望んでいる人がたくさんおられるそうです。クラウドファウンディングで100億円集めて、すべて使い切るまで販売しないというポリシーを忠実に実践している企業です。社長はペッパー君の開発にかかわっておられた技術者です。
ソニーから発売されている「AIBO」 1999年に発売され15万台(匹)の実績を創ったものの2007年に製造中止になりました。それが12年ぶりに復活し、新生「AIBO」が2018年に発売され、先行予約は1時間以内に完売するという活況ぶりでした。能動的に寄り添い、犬と同様に愛情を注いだ人ほどなつくようにできており、人工知能(AI)で頻繁に構ってくれる人を認識して成長し、腰や首、手足を動かした時に飼い主の反応などのデータをカメラで収集、動きに反映するそうです。こちらはLAVOTのような新生物と異なり正統なペットロボットです。価格は基本ソフト込みで約30万円(税込)です。
面白いことに、このAIBO開発チームが先日のデジタル技術見本市で公開されたEV自動車の試作品を開発したそうです。ソニーが作るEV自動車に注目が集まりましたが、技術を披露することが目的で、商品として発売する予定はないそうです。ソニー製ドローンも同様の目的で公開されました。2016年に発表されたソニー製コンタクトレンズは衝撃でした。目瞬きで、写真や動画を撮影し、それをネットに送信できるのです。まるで映画「ミッションインポッシブル」そのものです。このコンタクトレンズも発売目的ではなく技術披露が目的でした。その技術が今のスマホに搭載されているカメラに生きています。
パナソニックの「NICOBO」という得体のしれないロボットが人気です。クラウドファウンディングサイトで320台限定発売したところ7時間で完売しました。これは、ロボット技術の権威である豊橋技術科学大学 情報・知能工学系の岡田 美智男教授と共同開発した家庭用ロボットです。何ができるかといえば、およそ生活に役立つことは何もできませんし、簡単なあいさつのような感想のような短い言葉をたどたどしく発し、尻尾を振るだけで動けません。おねだりすることも、積極的に話しかけこともしません。しかし、7時間で完売したのですからクラウドファウンディングに申し込んだ人はよほどほしかったと思います。これも癒し系ロボットです。
本格販売するかどうかはこれから検討するようですが、価格的には手ごろでほしい人は多いと思います。
豊橋技術科学大学 情報・知能工学系岡田 美智男教授https://www.tut.ac.jp/university/faculty/cs/316.htmlのホームページによると、どのような考え方で研究しているかが掲載されています。
「もっと、もっと」と機能性や利便性を高めたシステムは、わたしたちを受動的な存在とし、ときには傲慢さを引き出してしまうことも。本研究では〈弱いロボット〉や〈不便益〉などの観点から、わたしたちの優しさや工夫を引き出したり、新たな学びを生み出すようなインタラクションデザインとその社会実装を進めています。
– 自らではゴミを拾えないものの、子どもたちの手助けを上手に引き出しながら結果としてゴミを拾い集めてしまう〈ゴミ箱ロボット(Sociable Trash Box)〉や、モジモジしながらも相手の手助けを借りつつ、ティッシュを手渡そうとする〈アイ・ボーンズ(iBones)〉などの研究。
– 聞き手の手助けを引き出しながら、一緒に発話を組織する〈Talking-Ally〉や、言葉足らずな発話で、周囲の人の助け舟や積極的な解釈を引き出しながら、多人数での会話連鎖を組織する〈む~(Muu)〉など、人とロボットとの社会的相互行為の組織化に関する研究。
面白い時代が幕あけて、コロナがきっかけとなり、時代が変化しているのです。不具合やクレームの対象であった弱さや不完全さを積極的に再現することが、今や大きな価値を持とうとしています。