2024年も残すところあと4週間となりました。大谷翔平選手は野球の聖地アメリカのメジャーで誰もがなしえなかった偉業を次から次へと記録し大活躍で世界中の人々から賞賛され、日本人の誇りを高めてくれました。特に、グランドに落ちているごみをさりげなく拾ってポケットにしまうところなどほれぼれします。日本人が古より伝えてきた人としての道を自然体で実践できているところがすばらしいです。
国内では石破自民党が総選挙で惨敗し2009年以来15年ぶりに過半数割れとなり、自公連立でも過半数割れという30年ぶりの少数政権となりました。今までとは180度違うやり方をしなければならなくなったのです。ひとたび不信任案が発議されれば自動的に可決され内閣総辞職するしかない状況となりました。衆参両院で過半数を占めていた時代にはどのような法律も最後は思い通りに可決することができましたが、今後はそうは行きません。易経にある「窮すれば通ず、通ずれば変ず」となるようなまともな政治が始まることを期待したいと思います。
アメリカではトランプ大統領が4年間政権を担います。MAGAを全面に出して、政治を理念ではなく取引としてとらえ国益にかなう取引ならどんな相手とも組むことが予想されます。従来は民主主義と権威主義という理念による対立が中心でしたが、今後は国益優先、中でも経済的国益優先の取引なら、従来ならありえない決断も出てくるのではないでしょうか。
賢明な読者の皆様はすでにご存じだと思いますが、世界のパワーバランスは大きく変化して久しいです。IMFの2023年の調査では購買力平価GDPではG7(7か国)54兆$に対してBRICS(9か国)66兆$とBRICSの勢いが著しいですが、この現象は2017年以来の傾向です。GDPには名目、実質、購買力と3種類ありますが、名目GDP、実質GDPではまだG7の方が勝っているのですが、実際の勢いを示すと言われている購買力では衰退がはじまっているのです。
ちなみに日本の購買力GDPは5位で、2021年にロシアに抜かれてしまいました。経済制裁中のロシアより日本の方が勢いがないということです。世にいう「失われた30年」という停滞のつけは今後様々なところに出てくると思います。明治維新と敗戦という二度の創造的破壊によって形成された法体系、国土インフラ、社会保障制度、税制体系、教育体系等は人口増加を前提に構築されていますが、今起きている人口減少はすべての制度・システムに歪みが生じており抜本的な見直しと再構築を余儀なくされています。当面は右顧左眄しながらだましだましの先送りでやり過ごそうとするでしょうが、いつまでその手法が通用するのでしょうか。
世の中が変化することは良いことです。社会の構造が安定し定着するとちょっとやそっとではびくともしません。ところが、地面の底が抜けるような変化の時にはそれらの安定は瓦解してしまいます。変化しチャレンジするしか生き残る道がなくなります。安定した既得権益を謳歌してきた方は従来の手法が通じなくなるので極めて困りますが、閉塞感を打破するチャンスを待っていた経営者には絶好の機会です。私たちは知らず知らずのうちに30年間かけて「不合理で不条理でおかしいけれど仕方がない」とあきらめるように洗脳されてきたのかも。
私の経験則に「借金まみれの悲惨なぼろ会社ほど伸びる」というのがあります。いくら失敗してもこれ以上失うものがない環境は最高の環境です。良くなるしかないからです。ゼロになってもよいと覚悟すると失うものがないので思い切ったことができ、思いがけない成果を手にすることができるのです。
ある顧問先企業がとても手間のかかる採算の悪い仕事を有名大企業から受注しました。仕事がなくて困っていた時で採算が悪くてもありがたかったのです。皆が協力して顧客の要求にこたえてゆきました。次第に仕事量も増えてゆきました。すると顧客の品質要求が高くなりクレームが増えました。「他社では問題なくできているのになぜ御社ではできないのか」と言われ設備投資も行い人も増やしました。しかし、どう工夫しても採算は悪化する一方です。そこで意を決して条件変更を依頼しましたが、「他社に振り替えてもいいんですよ」とけんもほろろの門前払いです。逆にコストダウンを要求されてしまいました。それでもついてゆくしかありません。
「それはおかしいです。うちの技術者を信じましょう。この仕事はやめましょう」
業績悪化はいかんともしがたく、悩みに悩んで先代経営者とも相談し、ついに会社をたたむ覚悟で「事業撤退」を決め、顧客にその報告にゆきました。
するとどうでしょう。顧客は手のひらを返したように低姿勢になり「御社の要望は何でも聞きますから、それだけはやめてください」と懇願されました。「実は」他社では採算が合わずオンリーサプライであること、無理難題を要求しても応えてくれること、顧客社内で最も利幅のある製品であることを打ち明けられました。
最終的に、納期を倍の6か月にすること、発注ロットを3倍にすること、価格を4倍にすること、支払方法を翌日末振込とすることが決まりました。翌月から一気にドル箱になったのは言うまでもありません。
「やってみなはれ」とはサントリー創業者の鳥井信治郎氏の口癖です。一度は大成功したビール事業が挫折して売却しましたが、2代目佐治敬三社長が再挑戦の意思を伝えると「やってみなはれ」と背中を押したのも創業者の言葉です。長らく健全な赤字部門でしたが今は見事に黒字化しています。
変化の時はオーナー経営者の覚悟の裏付けのある心のゆとりがものを言うようです。