No.1301 ≪明治維新に学ぶインテリジェンスの磨き方≫-2024.2.28

明治天皇が14歳で践祚された翌年1868年3月14日に「五箇条のご誓文」を発布されました。内容は皆様もよくご存じの通り以下のようになっています。( )は目加田の解釈です。

1.広ク会議を興シ万機公論ニ決スベシ
(身分制度を廃止し、広く有能な人材を登用し、公開された話し合いで何事も決定しよう)
1.上下心ヲ一ニシテ盛ニ経倫ヲ行フベシ
(全国民が心を一つに近代化にまい進しよう)
1.官武一途庶民ニ至ル迄各々其志ヲ遂ゲ人心ヲシテ倦マザラシメンコトヲ要ス
(立場の違いはあっても、皆がなすべきことを成し遂げられ、正直者が馬鹿を見ない世の中にしよう)
1.旧来ノ陋習ヲ破リ、天地ノ公道ニ基クベシ
(江戸時代から続く鎖国や古い慣習をすて、国際法を遵守した国づくりをしよう)
1.智識ヲ世界ニ求メ、大ニ皇基を振起スベシ
(世界の先進文化や先端技術を謙虚に学び、日本古来のよい伝統や文化を大切にしながら、天皇を中心に国を発展させよう)

原案は福井藩出身の由利公正が作り、それを土佐藩出身の福岡孝弟が修正し、長州藩出身の木戸孝允が加筆し完成させたと言われています。鎖国から国際社会並みの開国に向けての決意表明です。日本侵略を狙っていた米英独仏露の西欧諸国は大いに期待したでしょうが、どこかの国の影響下に置かれることなく、独立自尊の日本の考えを表明したintelligenceは見事だったと言えます。五箇条のご誓文をわかりやすく言えば「富国強兵」「殖産興業」で、具体的な行動は欧米文化をどん欲に吸収する「文明開化」「鹿鳴館外交」だと言えます。新政府が発足して6年後の1873年には西郷隆盛を留守役に残して、他の重鎮は全員が岩倉具視使節団(109名)として欧米に視察に出かけたのですから、スゴイことを平気でやっていました。国際社会に受け入れられるにはそれだけの覚悟と具体的な行動が必要だったのです。

欧米列強に学ぶ中で「国益」に添った考え方も身に付いたのでしょう。軍事力の裏付けのない外交は社交に過ぎないことを痛感し、ドイツ人メッケルの指導による陸軍の近代化を推し進め、海軍は1922年のワシントン海軍軍縮会議では日英米仏伊の5大列強国にまで成長しました。これは世界の生糸市場の約70%を占めていたアメリカがほぼ全量を無関税で買い取ってくれて、その資金で軍艦を購入できたのです。アメリカが購入してくれた金額は年間約4000億$(現在の価値で言えば60兆円)にも上りました。また、明石元二郎や中村三郎(後の中村天風)に象徴される世界をまたにかけた諜報活動にも力を入れて「国益」を追求しました。1974年にフィリピンルバング島で発見された小野田 寛郎氏はスパイ養成学校ともいわれる陸軍中野学校出身で、戦後29年間も活動を継続していました。

戦国時代はそれぞれの勢力が自前の隠密や忍(しのび)を抱え、諜報活動をしていました。戦(いくさ)は兵が肉弾戦を戦うだけでなく、国に影響を与える情報をあらゆる手段を使って積極的に収集し、それを分析・加工・戦略化するintelligenceを自前で持つのは生き残る上で不可欠だったのです。孫氏の兵法の最初に「兵は詭道なり」とあるようにフェイク情報を流布して混乱させるのは当たり前の戦法だったのです。日本では平安時代に孫氏の兵法を進化発展させた「闘戦教」が主流になりましたが。
Intelligenceは伏在している対外的な危機に対する積極的な知性(intelligence)の発揮だったと言えます。鎖国していた江戸時代の250年間にintelligenceは無用の長物になってしまいました。外国勢力が日本近海に近づいても鈍感で事なかれ主義を押し通しました。ペリー来航によって目が覚めた時には既に遅かったのです。
鈍感な中央政府に対して地方政府はそれに気づいて水戸藩、薩摩藩、長州藩、土佐藩、福井藩はintelligenceを磨いて「尊王攘夷」思想という形で時代を動かしていったのです。水戸藩出身の最後の第15代将軍徳川慶喜は水戸光圀公以来の「尊王攘夷」を体現し、開国と藩政奉還を奏上しましたが、王政復古まで踏み込めなかったのはintelligenceの読み方が不足していたようです。知性(intelligence)は情報や知識を分析し加工して実行する能力です。

明治維新から70年は坂の上の雲を追い求め、日本もintelligenceが大いに磨かれましたが、GHQの占領政策、その後の日米安保条約のもと、戦後の70年はアメリカが守ってくれるという根拠のない妄想のもとで、軍事力を否定したありえない主権国家として経済のみ追求する世界でも異質で不自然な発展をして今の日本が出来上がりました。
世界の争いごとから完全隔離された居心地の良い温室社会は国家存亡の危機感をマヒさせた政治及び政治家を大量育成し堕落させ、それでよしとする国民を作ってしまったと言えます。カネと票と利権をもった有力者に忖度しておけば政治家は何をやってもユルイ法律で無罪放免されるようではintelligenceは育ちません。
それを直感で見抜いている日本の未来を担う40代以下の投票率が40%未満が常識という日本をみて、中国やロシアや北朝鮮は何を考えるでしょうか? 私たち戦後生まれの世代の責任は大きいと反省しています。

沖縄南方にある尖閣諸島は、2013年3月12日に日本近海の海底に100年分のメタンハイドレートが埋蔵されていることが公表されて以来、連日中国艦船が接続水域を超えてやってきています。日米安保条約におけるアメリカの姿勢は対象範囲は日本領土が及ぶところだけれども「領土問題には中立」の立場を明確にしていますので、万一、何らかの不測の事態が起きても日本の問題であり、アメリカの行動は期待できないと思います。
経営者の皆様はご存じだと思いますが、国際慣習では、名目上の領土と雖も実効支配していなければ無効ですね? 尖閣諸島は日本が国有化し多少は実効支配していますが、竹島は日本の領土ですが韓国に実効支配されていますし、北方領土はロシアに完全に実効支配されていますから、日本が自国領土とするためには実効支配するしかありません。紛争裁判所は紛争当事者双方の合意がないと開かれないのですから、紛争相手が同意するはずがありません。

主権回復してから一度も一字も憲法改正していない世界で唯一の国として、閣議決定という口約束で現状変更を重ねるという「まやかし」を智慧だと思っているような気がします。日本という国に本社を置いて経営している私たち経営者は今の現状を我がことと認識し、知性(intelligence)を磨いてゆきたいものです。