No.1290 ≪複利を経営に生かす≫-2023.12.6

20世紀の物理学の巨人でノーベル賞を受賞したアインシュタイン博士が「複利は人類最大の発明だ。知っている人は複利で稼ぎ、知らない人は利息を払う」と経済の本質を見事に突いた名言を残したといいます。その真偽のほどは不明ですが、「複利」は確かに重要なキーワードと言えます。

日本政府は国を挙げて国民に貯蓄から資産形成にシフトさせようとしています。2023年9月20日の日銀の発表によりますと日本の金融資産残高は2115兆円となり、その内訳は貯蓄が52.8%(1117兆円)、保険・年金が25.4%(537兆円)、株式等が12.7%(269兆円)です。ゼロ金利で預金金利は高くて0.3%(オリックス銀行の定期預金金利)、通常の銀行だと0.02%前後です。預金金利が0.02%ということは100万円預金して200円の利息です。資産が増えない貯蓄から増える期待がもてる投資に向かわせて個人消費を増やそうという判断です。新NISAやiDeCo等を税制改正してまで積極的に拡大しようとしているのはそのためです。

日本では永年「貯蓄は美徳」の文化があり、投資は相場師がやることで怖い世界だから素人が手を出すべきではないと信じられてきました。あの松下幸之助師も議員で富農だった父親が米相場で失敗してある日突然すべてを失い極貧生活を余儀なくされ、小学校4年生で大阪に丁稚奉公に出なければなりませんでした。そのおかげで偉大な経営者になったのですから人生はわからないものです。先物取引で失敗した人、バブルで失敗した人、財テクで会社を破綻寸前まで追い込んだ人。最初から失敗して損ばかりしていれば「それみたことか! 素人が手を出すからだ」と言われ撤退するでしょうが、少し儲けると気が大きくなって大きな投資をします。それがうまくゆくと身の丈を超えた投資に向かいます。すると、なぜか大失敗をするのがほとんどです。うまくいっている間は「投資の神様、仏様」とおだてられ、人々が群がってきますが、失敗すると蜘蛛の子を散らしたように一瞬でいなくなってしまいます。そういう姿を見聞きして育った団塊の世代は投資に臆病です。いくら金利がゼロになっても貯金をしてきたのです。

しかし、「貧乏」は辞書で知っているだけで経験がない団塊ジュニアや平成生まれのZ世代は、何の抵抗もなく、FX投資、仮想通貨投資を行い、堅実な人でもネット証券やiDeCoやNISAを始めています。それに、年金があてにできないと信じているので老後資金は自分で手当てしなくてはならないと思っています。投資はお金を増やす一つの手段だと割り切っています。
新NISAに象徴されるように政府の資産形成促進政策は投資市場を巨大化させるでしょう。「お金」についてしっかり勉強しなければ失敗する人が出てくるでしょうから、経営者としても社員教育の一環で「お金」の教育を充実する必要があります。

「お金」を増やすには様々な方法がありますが中でも金利と利回りはとても重要です。ご存じのように金利には単利と複利があります。単利は元金に対して利息を受け取り、複利は利息も元金に組み込んでゆきます。例えば、1億円を0.5%の金利で10年間定期預金したとします。単利の場合は、毎年50万円、10年で500万円の利息を手にできます。複利の場合は、1年目は50万円、2年目は50.25万円、3年目は50.75万円となり、10年後には511.4万円と11.4万円多く利息を受け取ります。
これが30年になりますと、単利だと50万円×360か月=1500万円ですが、複利だと3478万円と倍以上の差が出てきます。
利回りは投資したお金がいくらの利益を生み出すかを見ます。1億円の不動産を購入して家賃収入が年間1000万円あれば利回りは10%となります。利回りにも表面利回りと実質利回りがあります。

複利のうまみを最大に活かした保険があります。変額保険です。保険機能の定額保証と投資による資産形成の両面を持つ保険です。投資利回りは運用する銘柄によって異なりますが海外株式で運用している商品が多いようです。パンフレットには運用利回りが△3%もありうると書いてありますが、現状はコロナ後の世界景気の拡大や為替、アメリカの高金利政策等も相俟って10%〜20%の銘柄も多数あります。これがずっと続けば最高ですが、暴落もありうるので元本保証の定額保険と異なり元本割れリスクがあります。ちなみに、月々1万円の積立をすると30年間で積立額は360万円ですが、6%複利で増えるとするとなんと980万円になります。10%複利だと2080万円になります。

変額保険の保険料は全損計上が可能ですので社員の福利厚生の一環で将来不安を払拭する方法として利用しても良いでしょう。5年以内に社員が退社すれば解約返戻金はほぼゼロですので会社は払い損になります。しかし、10年間在職約束で奨学金の肩代わり返済に応募した社員に、会社負担で変額保険にも加入すると、肩代わり奨学金のほとんどを回収できます。例えば400万円の奨学金の肩代わり返済を行い、毎月5万円、金利10%、10年満期の変額保険に加入すると、10年間の会社の支払金額は肩代り奨学金400万円、10年分の変額保険料600万円、合計1000万円ですが、解約返戻金は1008万円となりますので、社員も採用できて、10年間雇用できて、節税ができて、会社の持ち出しはゼロです。但し、変額保険は大損リスクもありますのでバラ色ではありませんが。
「複利」発想を経営に生かしてみてはいかがでしょうか。

おまけ:アインシュタインとボーア
20世紀最大の偉大な科学者アインシュタイン(1879-1955)は250年間堅く信じられてきた従来のニュートン力学の概念をさらに発展させて、光速は一定であると仮定し、時間の進み方は観測者によって異なる「特殊相対性理論」を提唱しました。これをさらに発展させて、光さえ脱出できない強大な重力によって空間がゆがむことを「一般相対性理論」で提唱し、ブラックホールの存在を予言しました。今では多くの天文台がブラックホールの撮影に成功するまでになっています。一方、ボーア(1885-1962)を中心とした量子力学の著しい発展が相対性理論と矛盾相克しており、まだ解決を見ていませんが、その研究成果が今の驚異的な科学の時代を創造しました。商用段階に入った量子コンピュータは量子力学の成果です。21世紀はこの2つの理論がますます社会を発展させると思います。アインシュタインは初期の研究過程で発見した「光電効果理論」で1921年にノーベル物理学賞を受賞しました。ボーアは「原子構造の解明」で1922年にノーベル物理学賞を受賞しました。