Jiji.comの2021年12月8日の付けニュースをそのまま転記します。
「大企業の賃上げ税制は、「継続雇用している従業員の給与総額」を前年度比で3%以上増やした場合に賃金増加分の15%を法人税額から差し引ける仕組み。(略)中小企業は「非正規を含む全従業員の給与総額」を1.5%以上増やせば、増加額の15%を控除できる。」
岸田内閣の「新しい資本主義」政策の一環で成長と分配の具体策として打ち出されており、大企業は3%以上、中小企業は1.5%以上増額した企業に増加額の15%還付しますよと言っています。
私は「賃上げ」というと基本給の昇給の事だと思っておりました。最低賃金は時給ですがこれには手当も賞与も入っていませんので基本給の事です。ところが、今話題の「賃上げ」は「給与総額」ですので賞与や手当等を含んでいます。給与は生活費であり、賞与はローン支払いやいざという時の貯蓄というイメージを持っています。基本給が上がれば生活水準を上げますが、賞与が増えても生活水準は変えません。従って、消費は増えません。
政府の目的は分配(給与)を増やすことで消費を増やしGDPを成長させることだと思いますが、安倍政権の賃上げ政策と同様に貯蓄に回り経済成長は期待できないと思います。安倍政権では保育士や介護士の給与が政府の命令で賃上げしましたが、助成金で運営されるリスクゼロのビジネスだから成り立っているだけです。
2022年1月11日の日経新聞webニュースをみると「自民党と経団連は11日、都内のホテルで経済政策について協議した。茂木敏充幹事長は岸田文雄政権の看板政策『新しい資本主義』の分配政策の柱となる賃上げを求めた。『適切かつ前向きな賃上げへ協力をお願いしたい』と述べた。経団連の十倉雅和会長は『働き手への還元は経営者の責務だ。収益が好調な企業に積極的な対応を期待する』と語った。春季労使交渉(春闘)に向けて首相が唱える『成長と分配の好循環』を考慮した行動を呼びかけると触れた。」となっています。
まるでキツネとタヌキの騙しあいのような言葉だけのやり取りの印象をぬぐえません。「収益が好調な企業とはどういう基準なのか」わかりませんが、大山鳴動し鼠1匹というところでしょうか。これで本当にGDPがあがるのでしょうか。
主管省は経済産業省になるようでホームページを見てみると「賃上げ促進税制」について(令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始される各事業年度対象)「賃上げに取り組む経営者の皆様へ」というチラシが掲載されていますのでご確認下さい。
また財務省の小山 祥子研究員が2020年6月に「賃上げ税制は労働生産性の向上に結び付くのか」というテーマで論文を発表しています。要約すると「1.賃上げ税制の適用を受けている企業は、賃金や従業員数が増えている企業や収益性が高い企業。企業規模は無関係。2.賃上げ税制の導入による影響は、適用企業は非適用企業よりも労働生産性や従業員数・付加価値額を増加させており、「良い賃上げ」が実現している。企業が賃金を上げる代わりに設備投資などを減らすという「悪い賃上げ」は必ずしも起こっていない」と分析しています。
だから賃上げ税制は実施する価値があるという結論に見えます。
しかし、その目的は経済成長戦略のはずです。経済成長が実感できれば、企業は競って積極的に設備投資もするし、人材投資もします。給与に糸目をつけません。そうでないと存続できないからです。しかし、肝心の経済成長が横ばいで、他国の後塵を拝するようでは投資どころではありません。
また、頭の良い(?)官僚の考えることは違うなと感心します。というのは建設通信新聞の2022年1月7日付けの記事には「総合評価で5%加点/賃上げ企業優遇 4月以降/大企業3%、中小は1.5%で/政府」というタイトルで、「国発注の総合評価方式の工事や業務の入札において『従業員への賃金引き上げ計画の表明書』を提出すれば総合評価の加算点又は技術点に5%加点する。もし、賃上げを達成できなかった場合はすべての工事に4点減点する」ようです。
少し前に、あるコロナ担当大臣がコロナ対策で時短要請に従わない飲食店に対して「金融機関から圧力をかける」とか国税庁酒税課とグルになって「酒販店に取引停止させる」という「お願い」をしたとかしないとか。あまりのトンチンカンにあきれてものが言えませんでした。今回の賃上げのアメとムチのよく似た様相を呈してきそうな感じです。
GDP+3%、物価+2%はアベノミクスの本質です。異次元の黒田バズーカを使ってもマイナス金利にしても10年かかっても実現できていません。それは働き手が減り、働き手の収入が増えていないからです。働き手を増やし、収入を増やす。そのためには1400兆円ある金融資産の所有者である高齢者から現役の働き手への資金シフトが必要ですし、民間企業の内部留保700兆円をいかに分配に回すかと政治が解決しなければならないと思います。
皆で一緒に考えませんか?
企業においては、「ブランド化」です。時間がかかっても適正価格での販売です。売り方を変えて、商品を変えて、流通を変えて、適正価格で販売することです。適正価格とは粗利益率で言えば最低でも25%以上です。粗利益率が25%以下の企業には外形課税し、3年間赤字企業は免許を取り上げるぐらいの政策を作っていただきたいものです。安さと低粗利益率は異なります。国に依存することなく自力本願でブランド化を目指しましょう。