「大局着眼 小局着手」
進化の速さを「日進月歩」という時代は遠ざかり、「秒進分歩」と表現されるようになって30年。いまはどのように表現すればよいのか、もどかしさを感じます。しかも、VUCAの時代、ファクト&フェイク情報の洪水の中で、「わが社」の進むべき方向を決断しなければなりません。
こういう時先人はどうしたのか? 安岡正篤師は思考三原則を提唱されました。「多面的に見る、長期的に見る、根本的に見る」の三原則です。目先の出来事に一喜一憂するのではなく、どんと構えて正道を歩み、「先義後利」と「三方よし」の信念を曲げないことが大事です。自分のやってきたことに自信を持ち、基本に忠実に変化に柔軟に対応することです。将来への不安は恐怖を呼び起こし、精神を消耗させてしまいます。
ノーベル物理学賞を受賞したアメリカのシェルドン・グラショー博士は宇宙の本質を「ウロボロスの蛇」に例えました。私の勝手な解釈では、「はじめに目に見えないナノサイズのチリが無数に集まり、ある時、宇宙が誕生する。急激に成長した広大無辺の宇宙に星々が次々に誕生し、1兆個の星から銀河が形成される。次々と銀河が生まれ、遂に1000個の銀河が生まれた。それはいまだに成長している。銀河の中に生命を育む太陽系銀河が生まれ、その中に地球が誕生した。地球では気の遠くなるような時間をかけて生命が誕生し、4000万種類以上の生物が生まれ、生態系の頂点にヒトが生まれた。あらゆる生物には染色体があり、それを構成する遺伝子には4つの塩基の組み合わせでタンパク質を生産するレシピがビルトインされている。ヒトの塩基は32億通りもある。物質の原子は原子核と電子から構成され、原子核は陽子と中性子から構成され、それぞれがクォークを持っている。どれも目に見えないナノ物質でこれは宇宙誕生のナノ物質に繋がっている。まるで自分の尾を飲み込むウロボロスの蛇のようだ」
宇宙誕生以来、片時も休むことなく変化し続ける宇宙の本質は「変(易)」です。宇宙の影響を受けて地球環境があり、地球で生活する生物の行動によって時々刻々と環境変化が起きている中で私たち人間は生きています。しかも、環境に適応するための先人の智慧がすべての人に備わっています。いかに引き出し実践するか。
万物の霊長は「ヒト」ですが、「ヒト」の集団である会社のトップが経営者です。
そこで求められるのが「ノブレス・オブリージュ」という考え方です。地位が高ければ高いほど、高貴であればあるほど、富裕であればあるほど、有名であればあるほど、権力があればあるほど、学歴が高ければ高いほど社会の模範となる振る舞いが求められるのです。規模の大小、歴史の長短に関係なく経営者は経営者というだけでノブレス・オブジージュを求められます。
では社会の模範となるべく義務付けられた経営者が取り組むべき課題は何か、また何から手を付ければよいのか? その時のヒントが「大局着眼」であり、行動の仕方は「小局着手」です。
大局を掴む糸口は簡単です。まず、ボトルネックをミエル化することです。会社が善循環することを妨げている部門や部分や機能や要因をボトルネックと言いますが、ボトルネックは3つの制約によって引き起こされます。一つ目は「物理制約」(需要はあるのに設備的に供給できない)、二つ目に「方針制約」(会社の方針で供給できない)、三つ目は「市場制約」(需要そのものが限定されている)です。一体どれか。直感的にわかると思います。
それを次の着眼ポイントとして「ヒト・モノ・カネ・システム」又は「IT4M(Technology・Market・Money・Man・Management)」の切り口で掘り下げてゆくのです。
ボトルネックが「物理制約」で、設備はそろっているのに供給できない要因が「ヒト」にあることが分かったならば、仕事の進め方の問題になってきます。生産性が悪いのです。その原因をさらに分析するには、4M(Man・Machine・Material・Method)でみてゆきます。Manの配置を見直す、リスキリングで力量を高める、治具工具を改良する、Machineの改良をして多能工化する、IOT機器を設備して遠隔操作できるようにする、Materialの見直しをして仕入先を変更する、類似品を探索する、源流で選別強化する、Methodを分析して工程短縮できる方法を考える等無数にやるべきことがあります。これが小局着手です。
トレンドの技術開発に後発で参入しても時間が掛かります。それより、自社の技術を磨きぬいて他社にまねのできないレベルにまで高めてゆけば、自ずと先端技術を持った企業との接点ができてきます。我を磨き、自社を磨く。ここから未来が開けてきます。