No.1182 ≪新時代の新内閣に期待する≫-2021.10.6

10月4日に第100代目の岸田総理が組閣する岸田内閣が発足しました。1885年に初代内閣総理大臣に就任したのはドイツの政体を研究して帰国した伊藤博文です。伊藤博文の下で帝国憲法が制定され議会が開設され国家の形が徐々に明確になってゆきました。あれから136年。100代目の総理大臣の誕生です。大谷翔平が大リーグで前人未到の5つの100記録を達成してMVP間違いなしと巷間いわれているのも2021年。開催数日前までスキャンダルまみれだったオリンピック・パラリンピック2020が終わってみれば世界の賞賛を浴びたのも2021年。コロナウイルスのワクチン接種や新薬の開発で世界中に明るい見通しが見えたのも2021年です。2021年は100年後の世界から見ればアメイジングな年といわれるかもしれません。

私は基本的には保守政権の支持者です。目も当てられない時期もありましたが、概ねその時々に余人に変えられないリーダーが国政をリードしたと思っています。2012年の安倍政権が発足し、「GDP成長率3%UP、消費者物価2%UP」を目標に、従来の固定観念を破壊する大胆なアベノミクスが提唱され、それを黒田マジックとして実行され、世界中から注目を浴び、1$80円台の超円高から5か月後には100円超の円安になり、輸出企業を中心に空前の好景気を実現しました。日経平均株価は8000円台から1万円超え、2年後には2万円を突破しました。当時は1$1円円安になればトヨタの利益は400億円増益になるといわれるぐらい為替差益は大きな利益を生み出したのです。それでもGDPは成長せず、消費者物価は上昇しませんでした。

結果がすべての政治の世界では明らかな失敗でした。
GDPを成長させるには個人消費を増やさねばならないので、所得分配を増やすことで、経済を成長させるアベノミクスの理論は間違っていなかったのですが、日本企業の本質は内部留保重視型で、史上空前の好決算でも給与分配を押さえ、投資や内部留保を優先する民族性を持っています。高度成長時代が終焉を迎え、低成長時代に入ってから「まさか」に備えるために内部留保を充実させることでわが身を守る事が習い性になっているのです。中間層の厚みはどんどん疲弊し今では目も当てられないほど棄損してしまっています。1970年代の1億総中流時代と言われた黄金の中間層は貯め癖のある後期高齢者となり消費しない世代になってしまいました。これではGDPの個人消費が増えるわけがありません。

朝鮮特需不況の後で誕生した池田内閣が推進した所得倍増計画(1961~1970年)は大成功し、GDP成長率は平均10%で推移しました。全産業が成長し、人手不足、土地不足、工場不足ですべてのものが高騰しました。中でも労働力の確保は至上命題で、定着させるために初任給は毎年上昇し、給与も賞与も増加しました。1960年の年収30万円が1970年には94万円と3倍になりました。物価も10年間で2倍になりましたが、生活は豊かになったので、明日は今日よりも確実に良くなることを疑う人がいませんでした。だから個人消費に勢いがあり、GDPも10%以上成長したのです。今はデフレでバブル崩壊以降30年間成長していません。デジタル化による人材余剰が予想される現状では給与を増やしてまで人材を確保するという意欲が企業側にありません。自動化、ロボット化、グローバル化への投資の方が優先され、将来起こりうるリスクや不安に備えるために内部留保を優先するのは当然の経営行動です。
企業の貯め癖を顕著に表している統計が法人企業統計です。財務総合政策研究所のホームページに掲載されています。
国家財政は平成30年度で583兆円の債務超過ですが、民間企業の内部留保はそれを上回る756兆円近くあります。貯め癖のある民族性をどう成長エンジンとして生かすかが政治の力です。

第100代の岸田総理がリードする内閣は、その「中間層」を充実させると公約しています。中間層の所得を増やす「新しい資本主義」を提唱しておられ、まさにツボのど真ん中を突いた政策と言えます。後は、どのように実行するか。
内閣の顔は変わったけれど中身は変わらないとか、安倍内閣のコピーだとか様々な評価があるようですが、覚悟を決めて戦いを挑み、そして勝ち抜いて総理の座を獲得されたのですから、大いに力を発揮していただきたいものだとエールを送ります。

日本人の底力は「トップの本気度を現場が信ずれば火事場のバカ力を発揮する」ことです。それは、今年の5月にも実例があります。菅総理が渡米の際にファイザー社のトップに会って帰国されてから発信された「1日100万回のワクチン接種の実行」です。マスコミは「1日4万回しか接種できていないのに100万回というのはパフォーマンスだ」とか「アドバルーンに過ぎない」とか否定的でしたが、私はそうは思いませんでした。ワクチン担当大臣の河野大臣(当時)も強気の発言を繰り返していました。その後、打ち手問題を解決するために歯科医師、薬剤師、インターン医学生、救命救急士を認定し、大規模会場を確保し職域接種、自衛隊による集団接種、自治体による集団接種と矢継ぎ早に対策を打ち出し、あっという間に1日180万回を実現したのです。
本気度を知れば現場は動くのです。本気でないリップサービスで2階に上がって梯子を外されて責任を取らされることがあまりにも多かったので面従腹背的な行動になっていたといっても過言ではありません。現場は誰も仕事がしたいのです。世の中を良くしたいし、会社を良くしたいし、誰かの役に立ちたいのです。

中間層、具体的には15歳~64歳の生産年齢人口、今では70歳までの労働者を言いますが、この層の懐を厚くする。低所得者への毎月10万円程度のベーシックインカムでも良いでしょうし、従業員年収の上昇率に応じて法人税軽減する方法もあります。上場企業は毎年3%以上の採用と最低昇給額の義務づけと法人税減税とセットする方法もあるでしょう。岸田内閣が「新しい資本主義」の具体策としてどのような政策を立案し、中間層を富ませるのか、今から楽しみにしたいと思います。