私が住んでいる那覇市首里地区の土地の価格を聞いて驚きました。生活道路に面した角地で100坪ほどの広さですが、坪単価150万円。沖縄はリゾート地として中国の脅威があるとはいえコロナ禍でパワーアップしました。将来価値を割り引いたのが現在の地価と考えれば安いかもしれませんが、庶民感覚としては高い! 県民がおいそれと買える価格ではありません。いつ頃からこんなに高くなったのか調べてみました。
国土交通省調査の公示地価を元に那覇市全体の平均坪単価でみると、2021年で約90万円です。
沖縄が日本に復帰直後の1974年の公示価格は約45万円。その後海洋博不況で景気低迷だった1978年には30万円まで下がりました。しかし、国中がバブルのきっかけになった1985年のプラザ合意の時は約70万円、その後毎年上昇し、1991年には170万円を突破しました。そこで世にいう「バブル崩壊」。つるべ落としに地価が下がり2005年には50万円台に落ち着き、2008年のリーマンショック、2009年の政権交代、2011年の東日本大震災、2012年のアベノミクスもほとんど影響なく10年以上50万円台が続きます。変化が起きたのは格安のLCCブーム、中国人個人観光ビザの緩和で、インバウンドブームが始まり、2019年には観光客が1000万人を突破しました。2017年には59万円、2018年63万円、2019年75万円、2020年91万円となりました。
外国人が大挙して沖縄に押しかけ、5000人乗りのクルーズ船が年間580隻以上寄港し、観光バスが蒸発する状態になりました。大型ホテル、大型ショッピングセンターが続々と開業し、地価が上昇を始めたのです。
コロナ禍の中でも大型リゾートホテルの計画が目白押しで、土地があればホテル建設が進んでいます。ひところに比べれば案件は先延ばし傾向にありますがそれでも需要は旺盛です。
通常2年ほどで完成するホテル工事はコロナ収束のタイミングを計り開業するので、工事期間を引き延ばし、完成登記すると固定資産税が高いため、建設仮勘定のままでタイミングを計っているようです。場合によってはオーナーが途中で変わっているような場合も出ています。
今回の土地バブル?は沖縄の地元企業もかかわっています。バブル崩壊後失われた30年を生き抜いてきた企業ですので地力がついて財務状況も良くなっているからです。しかし、これは要注意。世界中でコロナ対策の金融緩和でお金がダブついており、抜け目なく投資先を選別している巨大資本の餌食にならないことを祈るばかりです。数十兆円規模で運用する企業に数十億円規模の沖縄企業が勝負すること自体無理な話です。投資家の資金で運用するデベロッパーなら可能性はありますが、自己金融で事業する会社では無理があります。
私が初めて沖縄に赴任したのが1989年1月22日。平成がはじまって2週間後です。そのころの日本はバブル真っ最中で地上げの嵐が吹きすさび、土地の値段は時間単位で値上がりしていました。中でも沖縄はリゾート地で激戦区でした。特に沖縄中部の恩納村地区の西海岸沿いのホテル用地をめぐり、東京や大阪の大手不動産会社の代理店が取得合戦を繰り広げている真っ最中で、私の顧問先も関与していたためそのすごさを目の当たりにしました。
朝の地価が坪あたり100万円だったのが、午後には110万円、夕方には120万円に高騰していたのです。電話に出るたびに値段が上がってゆくのです。地主である社長と二人で、「しばらく黙ってみていましょうか」「こんな高値だと税金が大変ですね」「どんなホテルが建つんでしょうね」と二人でコーヒーを飲んでいたことを思い出します。その後完成したホテルは1泊5万円と当時の相場の倍でしたが満室で予約が取れないほど繁盛していました。
バブルが崩壊した時、沖縄経済は全くの無傷でした。案件規模の大きさと経営規模が違いすぎたため、受注の土俵にも上がれなかったからです。県内トップ企業の完工高が約100億円。受注額の限度は月商の3か月分の25億円。案件規模が50億円を超えると、元請けにはなれませんし、せいぜいが下請け、通常は孫請けです。だから安全だったのです。下請けだと出来高請求ですので資金繰りの心配もありません。利益も小さかったけれどもリスクも小さかったのです。そのころ一世を風靡した大手不動産会社やデベロッパーが軒並み経営破綻する中で、幸運にもほぼ無傷だったのです。
那覇市国際通りのランドマークだった物件Mは投資額の5%、1億円でも買い手が付きませんでした。同じく那覇市古島にあった物件Kは約600坪の土地付きで5000万円で売りに出ましたが数年間放置されていました。
全身全霊をかけて会社を良くし、社員が育ち、協力者が増えて経営力がついてくるとチャレンジしたくなるものです。それは素晴らしいことですが、「分を知る」「身の丈に応じた」経営をしないと、ややもすると気分だけ大きくなりかねません。失敗する確率が格段に上がります。周囲の取り巻きや担当者の考えもバブル化している可能性がありますので、原点に戻って「創業の時」を思い起こし、判断することです。
那覇市の土地バブル?を見てそう思います。