No.1198 ≪環境適応と設備投資判断≫-2022.2.2

日ごろから「企業は環境適応業だ。いかなる環境であれ企業は永続する使命がある」と偉そうに言っておりますが、経営者は大変です。人間には生物学的な寿命がありますが企業にはそのような寿命がありませんので、やりようによっては持続可能な永続できるシステムが企業です。とはいうものの、その時々の市場環境と自社の置かれている状況と経営資源のバランスとトップの個性を考えて、悩みに悩んで、考えて考えて考え抜いて下した決断が会社を危機に陥れることは少なくありません。その多くは設備投資によることが多いものです。

今、話題になっているラッパのマークの「正露丸」で有名な「大幸薬品」がその典型例でもあります。大幸薬品はテレビCMでご存じの方も多いともいます。
1940年に大阪で創業した大幸薬品は太平洋戦争の戦時企業合同を経て、戦後すぐに正露丸の製造販売権を取得し、着実に業績を上げてこられ2009年に東証2部、翌年に東証1部に上場されました。
折からSARSやMERS等の感染症で日本中が戦々恐々としていた時期に除菌関連製品「クレベリン」を開発・販売されていました。その後、空間除菌能力を高めた製品開発を進められ、2019年9月に現在の「クレベリン」を発売されました。そして翌年コロナ禍がやってきて現在に至ります。

上場後は年々業績を向上させて最近では年商約100億円、経常利益約15億円前後で推移していました。株価も600円前後で安定していました。そこにコロナが日本に上陸したのです。連日コロナ情報が流れるようになると、感染症関連製品で評価の高かった大幸薬品は大いに期待され、株価は2860円まで高騰しました。業績は、2020年3月期が売上高150億円 経常利益25億円。決算月を12月に変更され、9か月決算となった2020年12月期は売上高176億円、経常利益39億円となりました。しかし、2021年12月期予測では売上高125億円 経常損失が20~28億円という減収赤字の予見通しが発表されたのです。
なぜ、そのようなことになったのか?

一つには推定で約200億円程度かけて新規工場を新設されましたので、その減価償却費が大きいと思います。減価償却費が大きくとも生産が安定しておれば何の問題もありませんが、一旦需要が減退し減算したり在庫調整に入ると話は変わります。固定費を賄えなくなって赤字になります。
現場では、顧客の強い要望に対応するために、特に欠品しないように、増産に次ぐ増産をし、在庫を大幅に積み上げられました。(私も昨年の緊急事態宣言のころにドラッグストアに買いに行ったときには在庫切れで入荷未定の札が出ていました。)得意先の強い要望に応えるべく恐らく24時間操業で頑張られたのではないかと想像します。生産を頑張ることが世のため人の為コロナ禍に打ち勝つためという使命感もあったと思います。しかし、一旦需要が満たされると今度は積み上げた在庫は品質劣化しますので棚卸資産の評価減が起きます。当然倉庫料も半端ではなかったと思います。生産調整に伴う操業停止関連費用も計上されたため大きな損失となったようです。

そこに追い打ちをかけるように2022年1月20日に消費者庁より「大幸薬品株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」が発表され、株価は一気に600円となりストップ安となる状況になりました。
需要調整やコスト圧縮による業績改善を押し進め、来期は期待が持てるところまで改善が進んでいただけに今後の状況は厳しいものがありそうです。

市場の読みと設備投資のバランスは、経営者が最も悩み迷われるところです。何しろ、答えがありませんし、何か番狂わせがあっても自己責任で誰も助けてくれません。先を見通すにはあらゆる情報を集めて判断するしかないのですが、それでも確信が持てません。上場企業は市場から資金調達ができるので、戦略的な計画に従って実行することができますが、中小企業は借入に依存せざるを得ませんので、環境や条件が少し狂うととんでもないことになってしまいます。

初年度は多少の番狂わせがあっても金融機関も「応援します。頑張ってください」と言ってくださいます。
それが、計画と乖離しだすと融資金の回収が困難になってくるので、微妙に表現が変化してきます。
「社長、このままでは困ります。経営改善3か年計画を作成して提出してください。それと毎月6か月先行の週単位で資金繰り表を提出してください。応援していますのでよろしくお願いします」
さらに状況に進展がないと、支店長代理や上司が同席されて「社長、毎月計画のチェックをさせていただきますので今後は支店にお越しいただけますか。その時に受注状況と支払状況がわかるものをご準備ください。売却可能な資産リスト、中でも親族の方の資産リストもご準備ください。それと役員報酬は当面大幅カットでお願いします。社員の方には昇給や賞与は出せる状況ではないのでお含みおきください」
或いは「社長、御社だけでは改善が進まないので、確実に計画を達成するために私たちの提携している税理士さんと経営コンサルタントをご紹介します。ぜひ、ご検討ください。これは、今後の資金支援の条件とお考え下さい」とおっしゃいます。

このような段階を踏んで対応してくださる正統派の金融機関も少なくなっていますので、経営者はなおさら投資には慎重にならざるを得ません。企業の将来や成長を考えたときに、それを乗り越えて決断し、判断しなければならないことは痛いほどわかっているのが経営者です。そして、最も重要な経営者の仕事は人材づくりです。顕在化している人材はもちろんですが、埋もれている人材を見抜き、育ててゆく事です。いわゆる計画立案し意見具申できる人材づくりが、設備投資との両輪になってゆくのです。私たちはそのような経営者をいつも応援しています。