憲政史上初の女性総理が誕生しました。大方の皆様の予想通りとは言え、大いに期待したいと思います。
さて、今回は目加田経営事務所主宰の「社長塾」で重視している経営哲学「原因自分論」「先義後利」「三方よし」「不易流行」の内の「三方よし」を取り上げたいと思います。今風の表現をすればwin-win-winのトリプルwinの精神です。
「三方よし」といえば近江商人、近江商人といえば天秤棒行商というぐらい密接な関係があります。「近江」に会社の根がある企業を列挙すると、伊藤忠商事、丸紅、トーメン、兼松、蝶理、高島屋、大丸、(西武)、日清紡、東洋紡、東レ、外与(とのよ)、塚喜商事、ワコール、西川産業、武田薬品、日本生命、ヤンマー、大阪商船三井等の錚々たる日本企業が挙げられます。京都の老舗企業でも江戸時代に近江や福井から京都に出て成功した企業が多いです。
なぜ近江で「三方よし」精神が生まれたのでしょうか? おそらく、縄文の頃から日本人は自然の森羅万象に八百万の神を見いだし、日々感謝の生活を送っていたと思います。そこに流入した仏教の訓えが権力階層から次第に一般民衆にまで広まることで、神仏に感謝する生活を日常的に送ってきたからではないでしょうか。中でも琵琶湖を中心とした近江国(古事記では淡海国)で広まってきたのは理由があると思っています。
神武天皇が建国され栄えた古都奈良も、桓武天皇が遷都された京都も近江国から見れば等距離の位置関係にあり、常に政治の中心地にアクセスが活発にできたという地政学的な意味合いがあります。
神代の時代から近江国はとても重要な場所で、イザナギの神がお隠れになった多賀神社、日吉大社、猿田彦を祭る白髭神社、最澄の開いた比叡山延暦寺、紫式部で有名な石山寺など神社仏閣も多くとても神聖な場所です。
これは御所を鎮護する上で鬼門封じが必要だったこともあり、御所の鬼門にあたる北東エリアに近江国があり神社仏閣が多いのはそのためだと言われています。
法然(1133-1212)の開いた浄土宗は「南無阿弥陀仏」と唱えるだけですべての人が救われる、そして自分の力ではどうしようもないことでも阿弥陀仏の力による極楽浄土に行けると説き民衆に広がりました。法然の弟子親鸞(1173–1263)はさらに推し進めて「阿弥陀仏の本願に身を委ね、念仏を唱えることで、あらゆる人が救われる」と説きました。仏教の根本にある自利だけでなく利他も求める精神です。浄土真宗に帰依する人々が多く、日ごろから阿弥陀様に見守られているという慎みの中に「ありがたい、おかげさまで、かたじけない、もったいない」が日常の基本動作になってゆきました。
政治の中心地は常に激動が常で、政変、クーデター、戦乱、権力闘争と変化には事欠きません。その中で、商いをするには相当の覚悟が必要でした。信仰が救いだったことは容易に想像できます。
そのころの日本は66の国から成り立っており、それぞれが関所を設けて権勢を誇っており、通行税は重要な財源でした。東海道、東山道という街道は有ったものの決して治安のよい場所ではありません。商いをするにも命がけで、山賊に襲われたり、夜盗に出会ったり、大変な思いをしながら商いをしていたのです。
戦国時代に入り、織田信長(1534–1582)が天下布武を掲げて全国統一を成し遂げる政策の一つとして各地で行われていた楽市令を全国規模に広げ、関所を撤廃し、特定組織(組合や座)に入らなくても商いができる楽市楽座令(1567年)を発布しました。これにより、商人は国を超えて商いができるようになり。天秤棒を担いでなじみのお客様を行商して発展してゆきました。最初に訪問するお客様からの注文の品や都で評判の品物を前と後ろのかごに盛り商いをします。最初の訪問地で仕入れた品物を籠にもり次のお客様に向かいます。販売と仕入れを繰り返すノコギリ商法で商いをし、その記録を矢立で大福帳に記録しました。商人にもお客様にも産地にも喜ばれるビジネスが出来上がりました。
宿では行商人同士が各地の情報交換をして最新の情報を仕入れてそれを次の商いに活かしていました。その中には街道の治安情報や各国の政治状況、住民の生活情報も含まれていたのは言うまでもありません。
日常生活では無事に商いができることに阿弥陀様への感謝「ありがたい、おかげさまで、かたじけない、もったいない」精神がおのずと醸成されていったことでしょう。
近江商人と三方よしを直接的に結びつける文献は存在しませんが、近江の麻布商、二代目中村治兵衛がなくなる3年前に孫に残した家訓の存在は確認されています。近江商人と三方よしを直接的に結びつける文献は存在しませんが、近江の麻布商、二代目中村治兵衛が亡くなる3年前に孫に残した家訓の存在は確認されています。初出は昭和60年代に刊行された小倉栄一郎氏の著書「近江商人の経営」と言われています。
顧客第一の原則のもと自社の利益を確保しつつも、お客様の利益も考えることで、社会全体にヒト・モノ・カネが回ってゆくことを経営の原点としたいものです。