No.1374 ≪戦後80年の振り返り≫-2025.7.16

1945年9月2日(日)9:00に戦艦ミズーリ号甲板で連合国代表(米・英・ソ・中)及び交戦国代表(豪・加・仏・蘭・ニュージーランド)と日本国政府代表の重光葵外務大臣と大本営代表の梅津美治郎参謀総長が降伏文書に調印して80年になります。
戦艦ミズーリ号になった理由はwikipediaによると「洋上であれば式典を妨害されないこと、ミズーリが時の大統領であったハリー・S・トルーマンの出身州であり大統領の娘が艦名の命名者であったこと、米国海軍にも花を持たせたいと考えたことがその理由とされている。ミズーリはかつて東京湾でペリーが、日米和親条約調印の際に旗艦ポーハタン号を停泊させていたのと同じ位置に停泊したとされ、これはマッカーサーの演出とされている」とか。

「ローマ人の物語」で著名な塩野七生氏が日本のリーダーに向けて「ユリウス・カエサルは2000年以上も昔に次のように言っている。
『人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は見たいと思う現実しか見ていない』
では、21世紀に突入した今現在の現実は何だろう。1.結局は軍事力で決まるということ 2.アメリカ合衆国への一極集中 3.国連の非力 4.日本の無力 これこそが、『見たいと思わなくても見るしかない現実』であって、それが今、話し合いによる解決、アメリカへの一極集中を排する多極化、世界の諸問題の解決の場としての国連、世界平和に貢献する日本、等々の『見たいと思ってきた現実』を突き崩してしまったのである」(「日本人へ リーダー篇」文芸春秋社2010年刊 P12より)と喝破しておられます。

戦後80年を経済視点で見ると、日本に関して次の5つの真理が導かれるのではないかと思います。
1つ目、経済は「覇権」と「制度設計」に従属する。
覇権とは圧倒的な軍事力に裏打ちされた政治力であり、通貨制度・貿易ルール・安全保障枠組み等の制度設計する力です。世界の「ゲームのルール」を決めるのは拒否権をもった常任理事国(米・英・仏・露・中)のみで、いずれも持っていない日本は従属体制下にあります。
2つ目、テクノロジーは経済構造を根本から変える。
インターネット、AI、半導体、バイオテクノロジー等の技術革新は産業構造の根幹を変え、業界・国家・個人の競争優位を根本から再構築し、GAFAやBATの台頭は、「テクノロジー=新しい覇権力」となり勝者と敗者が誕生した。残念ながら日本は勝者から敗者になってしまいました。世界最先端のWindowsの概念や仮想通貨の設計や量子コンピュータの概念設計は日本人の仕事ですが、それを世界に普及させる力はなぜか持ちえませんでした。iPS細胞による再生医療やペロブスカイトの再生エネルギーに期待したいと思います。
3つ目、「信用」の拡張が経済成長のエンジンである。
信用(クレジット)によるレバレッジこそが現代経済の成長を支える最大の原動力であり、戦後の高度成長期や2000年代の資産インフレは、中央銀行と民間金融機関による信用供与によって実現しています。にもかかわらず、バブル崩壊に懲りてプライマリーバランスを重視した日本の成長力は衰えてしまいました。経済を活性化するための国債発行はたとえ赤字国債であっても善であり信用創造なのに、財源重視の投資抑制は日本を委縮させ衰退させていることに目を背けています。バブル崩壊は健全な調整システムなのに。
4つ目、人材と資本は「自由に動く」ことが競争力を左右する。
国境を越えてヒト・モノ・カネ・システムが動ける環境があるかどうかで、企業や国家の競争力は大きく異なります。1989年11月9日のベルリンの壁崩壊に伴うソ連邦の解体は地理的国境を無くし、1995年8月24日のWindows95のリリースは情報の壁を無くしヒト・モノ・カネ・情報の自由な移動を可能にし、グローバル・サプライチェーンの構築、人材の多様性を推進し、世界を急成長させました。1990年と2023年を比べると人口は53億人から80億人に、GDPは23兆$から106兆$に成長しています。
5つ目、破壊と再構築こそが、唯一普遍の成長原理である
戦後日本の復興は「焼け野原からの創造」が始まりで、ソニー、ホンダ、パナソニック、トヨタ式生産を誕生させました。バブル崩壊後のIT不況は楽天・サイバーエージェント・ユニクロ・任天堂等が牽引しました。
「窮すれば変ず 変ずれば通ず」の格言の如く、日本は独自の技術を磨き継続的改善により高品質の「日本ブランド」を確立してきました。鉄鋼、精密機械、自動車、家電などのモノづくりが日本経済をけん引しました。旧産業秩序の「破壊者」は次の「創造者」となり、「終わるべきものが終われずに温存される社会」はむしろ停滞と従属を招きます。

世界の中で私たちの立ち位置を考えると、戦後80年間ずっと「見えないベール」と「ガラスの天井」に囲まれた自由空間に生活し、軍事力(=主権)を持たないにもかかわらず世界4位の経済大国に登り詰めて先進国メンバーとなりました。敗戦国が世界に例のない成長を実現し「東洋の奇跡」となったのです。
ところが、「見えないベール」の外は中・露・北の赤い壁にブロックされていますが中にいると安全なので見ないふりをしています。「ガラスの天井」の上には自由な空間がありますが、唯一の同盟国で世界最強の覇権国アメリカの庇護のもとで自由に行き来できるだけで、意に添わなくなった時はどうなるかわかりません。その証拠に、首都東京・赤坂には米軍HQがあり、それを囲むように立川、横田、厚木空軍基地、横須賀海軍基地があります。首都制圧は10分もかからないのではないでしょうか? そして沖縄の嘉手納基地には世界最強の海兵隊とその家族が約4.5万人常駐し、日本全体では軍人及び家族約9.5万人が駐留しています(出所:2020年外務省)。
世界最強最速の大型輸送機オスプレイは普天間に20機、横田に5機あり、東京-沖縄間は約2時間で移動できます。また、東京上空には横田ラプコンが、沖縄上空には嘉手納ラプコンがあり全航空機の飛行計画を実質的に米軍がコントロールしています。私たちはどう行動するかがこれからの課題です。