No.1366 ≪「令和のコメ不足」から企業経営を学ぶ≫-2025.5.28

少し長文です。
日本人にとって「米」は特別な存在です。特に水田栽培法は縄文時代から始まった画期的な生産方法で、狩猟時代から農耕時代へ、村落から国家へと発展する元です。「民を飢えさせてはならない」と歴代天皇は一身にかえて祈りを捧げられました。日本人にとって「米」は文化であり歴史なのです。

2024年春先からスーパーの店頭でなぜかコメが品薄になり同時にじりじりとコメ価格が上がり始めるという小さな「異変」が起きていました。

政治資金パーティ問題(俗にいう裏金問題)で農林水産大臣を辞任した宮下一郎氏の後任として坂本哲志氏が就任したのは2023年12月14日。このころすでに異変の前兆が出ていましたが、翌春表面化した「異変」に対して坂本大臣は「流通の問題であり新米が出回れば解消する」と発言し経過観察(つまり放置)が続きました。早稲の新米が出回りだした8月末も問題が解消されることはなく、コメ価格は5Kg袋で2800円と春先より3割以上高騰していました。坂本大臣は「遅きに失したとは思っていない」とコメントし経過観察を継続。総裁選の真っ盛りでそれどころではなかったかもしれませんね? 当然、価格はますます高騰。

第一次石破内閣が発足し2024年10月1日には小里 泰弘氏が就任しましたが旧統一教会問題や女子大生愛人問題で10月27日の総選挙で落選し、11月11日に発足した第二次石破内閣で江藤 拓氏が就任しました。その江藤大臣も過熱するコメ問題に対して「流通の目詰まりの問題だ。農水省は販売価格にはコミットしない方針は維持する」と従来の農水省の主張を継続しました。米価格の高値更新はとどまるところを知らず、追い詰められて2025年3月10日に初めて第1回目の政府備蓄米放出を実施しました。「価格対策ではない」という理由で入札方式を採用しました。
当然、品薄状態の市場で競争入札すれば価格が高くなるのは火を見るよりも明らかで、店頭価格はさらに上昇し、備蓄米は店頭には届きませんでした。ちなみに備蓄米は1995年の食管法の廃止に伴い制度化されたもので100万トン(約50日分)の米を年間約480億円の費用をかけて備蓄を行っています。農林水産省の規定では1パレット(1100mm×1100mm×144mm)当たり60kg袋を42袋(7袋×6段)積載可能で5段重積(210袋)すると1.2㎡の面積が必要です。フォークリフトの通路を考慮すると100万トンの備蓄には1000坪の冷蔵倉庫が360か所必要です。

3月10日の第一回政府備蓄米放出15万トンに際しJA系が約94%を落札し、3週間後に店頭に並んだ備蓄米はそのうち0.3%でした。3月26日の第二回放出7万トンと合わせて約22万トン放出したにもかかわらずコメ価格はさらに高値更新したのです。

沸騰するコメ問題の最中に所轄大臣が無責任にもウケ狙いで「コメを買ったことがない。(支援者から頂いた米が)食糧庫にいっぱいある」と有名な失言(5月18日)。ご本人は事の重大さを認識できずきょとんとされていたように見えました。3日後の3月21日に小泉進次郎氏が2度目の農水大臣に就任。

就任後の行動は大谷翔平投手並みの速さで矢継ぎ早に対策「備蓄米を随意契約方式で放出する」「1万トン以上の販売実績のある小売業者を募集する」「条件は2000円で店頭に並べられること」「ブレンド自由、価格自由、買い戻し特約なし」を打ち出しました。就任後5日後の3月26日「政府備蓄米の売渡し説明会」を開催し、小売店約20社が応募しました。アイリスオーヤマ、イオン、ファミリーマート(伊藤忠商事)、ドン・キホーテ、楽天、サンドラッグ、オーケー、イトーヨーカ堂、日本郵便等約10万トンは初日で売渡が決まったようです。最終的には70社、20万トン売約済で受付中止となりました。市場がクールダウンしている間に次の手を打ち出すことでしょう。

ところで、農林水産省のホームページには全国のスーパー1000店の店頭POSデータ「コメの流通について」https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/soukatu/r6_kome_ryutu.htmlで5kg袋の価格推移が公表されています。
例年2000円前後で推移していた米が、突如値上がりし始め2024年5月2100円、7月2500円、9月2800円、10月3200円、1月3600円、2月3900円、3月4200円、5月26日4285円と高値更新中です。

では、急に品薄になり価格が高騰する春先の「異変」はなぜおきたのか? 不思議だと思いませんか?
表向きの理由は①2024年は酷暑で米の生産量が少なかった。②上質米の作柄が悪かった。③インバウンドで米の消費が増えた④ロシア・ウクライナ戦争による小麦粉の高騰で米にシフトした⑤南海トラフ地震のリスク公表による米備蓄が進んだ等と言われています。

実際には2024年の生産量は683万トンで昨対約3%増の豊作でした。2023年の1級品の上質米の歩留まりは過去最低の15%程度でしたが2024年には約80%に急回復しています。つまり、生産量の問題でも、銘柄の問題でもないのです。インバウンドも毎月300万人の観光客が7日間滞在して増える米の需要は年間需要700万トンの0.3%程度です。小麦粉の需要も1974年以降大きな変動は起きていません。南海トラフ地震の防災備蓄を全国民が3日分の米を一斉に買い出したとしても年間需要の0.5%にすぎません。これらの要因が2024年の春先に突然一斉に重なって発生したとしてもせいぜい1%以内の変動で価格が急騰するトリガーにはなりません。ではいったいなぜ?

考えられる仮説としては、通常6月末の民間在庫率は28%以上ありますが2023年は13年ぶりに22%になりました。数量にして約41万トン(約22日分)減少したのです。在庫率とは年間需要量に占める割合です。さらに新米の生産量と需要量の差が▲42万トン(約22日分)発生しました。全国で約44日分の米が消えたのです。おそらく精米業者や流通業者の倉庫は空っぽのところがたくさんあったと思われます。単純計算で1000坪相当の倉庫の152か所が空っぽになった状態と同じです。いち早くこの異変に気付いて業者がスーパーや外食チェーンに安定供給するために、早めに米を押さえる行動に一斉に出たと思われます。そして販売先を選別してゆくのは当然の行動です。結果として品薄になり、多少高くても購入する企業がふえても不思議ではありません。同時に、田植え前に田んぼ単位で高値買付して手付け金を渡し保険をかけました。事件は2023年秋に起きていたのです。(以下次号)