No.1342 ≪おかしなおかしな議論「103万円の壁撤廃=7兆円税収減≫-2024.12.10

最近は政治のキャスティングボードを握った国民民主党の主張「103万円の壁を撤廃して178万円まで引き上げて手取りを増やそう」の話題で持ちきりです。なぜ178万円かというと、103万円を決めた時の最低賃金と今を比べると1.73倍の増加率になっているので、103万円×1.73倍=178万円になるからだという論法です。103万円の壁の撤廃はまさに時代にフィットした政策だと言えます。少子高齢化で人口減少が止まらず、ワークライフバランスの労働観が浸透する中で、働き方改革による長時間労働に罰則がある日本では、自由度の高い学生やフリーター、主婦の存在は貴重です。一方で年間103万円を超えると本人と世帯主の両方の手取りが減るため働きたくても働けない現状があります。ここにメスを入れて103万円の壁を撤廃しようというアイデアはまさに時宜を得たものだと感心しました。ぜひ、103万円の壁だけでなく、106万円も130万円も150万円の壁も撤廃して勢いを盛り返していただきたいものです。消費税減税と合わせて日本人の誇りをもう一度取り戻さねば、いつの間にか極東の小さな島国になりかねません。日本を属国にしたくてたまらない国が何か国もあるのですから。

これに対して様々な意見が飛び交い、誰の思惑かわかりませんが、すぐにネガティブキャンペーンが始まり、県知事や市町村長から「住民税が減る」「地方財政が成り立たない」「財源を示せ」という猛反発です。過半数割れの石破政権としては国民民主党に秋波を送り安定政権にしたい。さりとて地方創生を看板政策に掲げているので地方の声を無視するわけにもいかない。落としどころは「103万円の壁を撤廃する。どの程度引き上げるか議論しよう」という言葉だけの改革となりそうです。日本維新の会が岸田政権と合意した「政策活動費」の扱いと同じようにうやむやにされないかと心配です。骨抜き名人の政府・官僚は国内的にはなかなかしたたかです。このしたたかさをなぜ米中露外交で発揮できないのか不思議でたまりません。
もし現状のままで178万円まで働けば国や地方が徴収できたであろう税金を計算すると減収になるという議論です。キャッシュフローとして税金が減少するわけではありません。働いて消費すれば、消費税(国が7.8%、地方が2.2%)が増えますし、それによって企業が潤えば法人税が増えますのでこちらのキャッシュフローの方が多くなると思います。

実質的に目先の運用や例外処理で成長のチャンスとなる「改革」をなし崩し的に先延ばし、骨抜き、廃案にすることばかりしている日本はとんでもない国になりつつあります。「闇バイト」に応募して平気で強盗殺人をする若者を育ててしまい、宗教に頼らず道徳を身に着けている日本を「武士道」で紹介し世界の尊敬をあつめた新渡戸稲造も天国で怒っているでしょう。また、経済無策は世界中がインフレ基調の中で実質給与は下がりっぱなしでデフレをお家芸にしてしまい、人口減少に歯止めをかけるどころか少子高齢化は自治体の4割を消滅可能自治体にしてしまいました。省益優先の官僚組織は縦割り特権と天下り横行でデジタル後進国に落とし込み、経済は世界2位から4位まで下げてしまい、対外脅威から国と国民を守る自衛隊を災害救助隊だと勘違いするぐらいにあいまいにしてきました。日本のプライドはスポーツ選手の活躍に期待するしかありません。

愚痴が過ぎてすみません。103万円の壁の撤廃論議に戻ります。私が賛成する根拠を示します。
103万円の対象者である学生数は約295万人。壁が引き上げられた分を働いてすべて消費すると178万円-103万円=75万円です。学生数295万人×消費高75万円=2.2兆円になります。学生の親はその約1/3いると仮定し、同様の消費行動をすると考えると75万円×100万人=0.75兆円となります。さらに、23歳以上のフリーターや配偶者控除対象の主婦は150万円の壁ですので178万円になると、フリーターは総務省の推計では約100万人、配偶者控除受けている主婦は約800万人(目加田想定人数:根拠は平成25年実績で1000万人、毎年2%減少する 出所:「立法と調査」NO.358「配偶者控除を考える」伊田賢司氏論文)ですから少なく見積もってもその半分(50万人+400万人)が同様な働きをすると仮定すると、28万円×450万人で約1.3兆円になります。経済への波及効果を約2倍程度と見積もるとGDPは(2.2兆円+0.75兆円+1.3兆円)×2倍=約8.5兆円増加し、GDP成長率は約1.4%アップします。

アベノミクスであれだけ国債発行(2020年時点で約1000兆円)して2023年の成長率は1.7%です。やってみる価値はあると思いませんか? しかも消費税は8.5兆円×10%=0.85兆円増収になります。

数字の遊びだと批判されるかもしれませんが、日本のGDPの構成比の53%は個人消費ですので、個人が物を買おうという意欲を持たない限り、GDPは質素倹約に次ぐ質素倹約で「貧すれば鈍する」デフレスパイラルに突入してしまいます。個人消費を増やす特効薬は昇給と減税です。バラマキは貯蓄になり消費に回りませんので勢いは出てきません。「財源はどうする。具体案を示せ」という前に政治は「やってみなはれ。責任は私がとる」と国民を信じて英断してほしいものです。

黒船来航をきっかけに鎖国を解き幕藩体制が終わりをつげ明治時代になると身分制度が廃止され国民生活向上のために一致団結して富国強兵・殖産興業を掲げ、養蚕と生糸輸出で稼いだ原資で果敢に海外の最先端技術や知識を吸収し導入しました。渋沢栄一はじめ明治のリーダーたちは多くの事業を国策で創業し、安定すると民間に払い下げ民間活力を盛り上げました。イノベーションの連続です。上下官民が一体となっていました。そのプロセスには無数の失敗や破綻がありました。しかし、すさまじい活力でたった40年弱で世界列強に伍するところまで成長したのです。
そして、迎えた日露戦争は世界中の誰もが日本は負けるとみていました。戦費調達は国家予算2.6億円(今の5.2兆円相当)の5.6倍にあたる14.7億円(内外債13億円 金利6% 今の29.4兆円相当)の国債発行で行いました。負ける国の国債を誰が買うか。その時に手を差し伸べてくれたのがイギリス銀行団と米ユダヤ人銀行家ジェイコブ・シフ氏です。国債の完済は1986年までかかりました。そのリスクたるや103万円の壁の比ではありません。

では、中小企業にできることは何か。今のような閉塞感のある中でワクワク・ドキドキ・ウキウキするような楽しいチャレンジでイノベーションを起こすことです。目先の利益にとらわれず社会の役に立つ、いつか誰かがやらないといけないテーマに果敢にチャレンジする。江戸時代の石田梅岩はこれを「先義後利」と言いました。近江商人は天秤棒を担いで「三方よし」を信念しました。現代の中小企業にとってそれは何か? その答えが見つかったら誰の力を借りるか。大善であれば天は見捨てないし地の利に恵まれ人の和が必ず訪れます。