とても面白くてわかりやすくてためになる本を見つけました。「13歳からの地政学〜カイゾクとの地球儀航海〜」(東洋経済新報社刊)で著者は国際政治記者の田中孝幸氏です。250ページほどのボリュームですが、読みだすと止まらないのでご注意ください。
内容を一部紹介します。
アンティークショップを経営する怪しげな男、近所の子供たちは黒い革の眼帯をしている彼を「カイゾク」とあだ名して遠巻きに見ていました。店頭に出ていた年代物の地球儀(ディプロマット)を高校生のダイキと中学生の妹アンが気に入ってほしくなりました。カイゾクに叱られないかと恐る恐る近寄ってみていると、店の中から「カイゾク」が出てきて、「そんなに欲しかったら私のレッスンを受けて問題を出すから正解したらプレゼントしよう」と提案され、2人はその提案を受け入れることにしました。
「地球儀(ディプロマット)をみると地球の面積は海が7割、陸が3割だ。ではものを運ぶ時、船と飛行機のどちらを使うかと言えば、船が9割以上、飛行機は1割未満だ。船の動きが止まれば、途端に世界は日常生活すらできなくなる。だから、船の安全な航行を守る国が世界最強の国だ。今はその国がアメリカだ。アメリカは自国の国益にかなうように世界中に基地を設けて軍隊を駐留させて海の安全を守っている。最強の国は信用があり、通貨ドルも信用されている。もし、信用されていないならば、いつ何時紙切れになるかわからない通貨であれば、誰も持とうとしない。原価20円の紙幣が1万円の流通価値を持つのは強さに裏打ちされた信用があるからだ。商取引は情報によって成立している。情報と言えばインターネットだが、インターネットの情報量のほとんどは海底ケーブルを経由している。その海底ケーブルはかってはイギリスが独占していたが今はアメリカが世界最長の海底ケーブルを敷設している。このケーブルを利用して皆がインターネットを楽しんでいるのだ。宇宙衛星は天候次第で電波の状況が不安定だし通信量も少ないし、何か起きてもすぐに宇宙に修理に行くわけにはいかない。海底ケーブルを管理することで世界中の情報を自由に見たり入手したりできる。
また、国の強さは抑止力と言われている核ミサイルの保有量によって決まる。では核ミサイルはどこに保管するかと言えば、地上や地中だと衛星で見つかるので3000m以上の深海に隠す。どうやって隠すかと言えば3か月以上の長期間潜っておれる原潜に搭載して隠す。アメリカでは3隻の原潜に900発の核ミサイルを搭載している。ロシアも同様だ。上空から探知されないために領海内に3000m以上の深海が必要だ。一番沢山の深海を保有しているのがアメリカだ。太平洋と大西洋の両方に保有している。ロシアは樺太からアリューシャン列島付近しかない。中国は残念ながら海がないので、必死で海を領海にしたい。それも3000m以上の深海があるのは南シナ海しかないので誰が何と言おうと南シナ海は実効支配したい。
なぜ、船で物を運ぶかといえば、海には国境がないからだ。鉄道や陸路だと国境警備に膨大なコストがかかる。ユーラシア大陸の雄、ロシアの国境線は2万km以上広がっている。2位の中国の国境もやはり2万km以上の長さがある。何もない山岳地帯なら国境警備もそれほどコストもかからないかもしれないが、商品を運ぶとなるとそうはいかないので莫大なコストを要する。その点、海だとEEZがあるとはいえ、国境はないので自由航行ができるし、コストもいらない。だから海を制する国が世界を制する。」
地政学をカイゾクとの問答を通じて兄弟が学んで成長してゆくのです。インテリジェンスや地政学をわかりやすい事例で説明されており、大人が読んでも目からうろこになること間違いなしです。
最近の国際情勢や国内政治情勢を見ていると、今を生きている私たちが経験したことのない出来事が目の前で起きています。ロシアのウクライナ侵攻しかり、イスラエル・パレスチナ戦争しかり、中国の自分勝手な行動しかり、コロナ・パンデミックで自由と人権の権化である欧米民主主義国が自由と人権を平気で奪うロックダウンを実施したり、国内に目を向けると、政権政党の目も当てられない規律劣化、中でもカネとイロに弱い鈍麻した感覚には開いた口が締まりません。あちこちで蔓延している組織温存の事なかれ主義のオンパレードしかり、デジタル庁まで設置して推進しているマイナンバーカードが遅々として進まず未だに紙とハンコが減らない。行政の24時間対応が進まないなど、決めたことがなかなか実行できない政府・行政等枚挙にいとまがありません。
しかし、宇宙は天網恢恢疎にして漏らさず「天行健なり」の歩みを続けています。地上の人間界は確実に進化し、良くなっています。様々な問題がありながらも人口が毎年増え続けている、その一点だけをみても、それはわかります。局面でみると世界のあちこちで喜怒哀楽の栄枯盛衰が起きていますが、大きな流れで見れば人間はそれを乗り越えて進化しています。