No.1160 ≪脚下照顧しよう≫-2021.5.6

禅寺でよく見かける「脚下照顧」「看却下」という言葉をご存じの方も多いと思います。「足元をよく見よ」という表面的なとらえ方もありますが、広辞苑には「真理(正しい生き方、本当のこと)を外にではなく、自身の内に求めよ。足もとに注意せよ」とあり、難しい道理より履物をそろえるというような日常をまずきちんとせよ、しっかりと地に着いた修業があって始めて成り立つものだという意味があり、他に向かって悟りを追求せず、まず自分の本性をよく見つめよという戒めのことばです。転じて、他に向かって理屈を言う前に、まず自分の足元を見て自分のことをよく反省しようという意味です。

あるテレビ番組で福島県南会津郡只見町の只見中学校の活動が紹介されていました。海洋教育に力を入れている只見中学校の生徒が教育の一環で新潟の海岸を見に行き、プラスチックごみの多さに衝撃を受け、削減しようと考え出したのが新聞紙を使ったエコバッグです。この新聞紙のエコバッグは5kg程度の重さまで耐えられるそうで、生徒が古新聞紙を使って手作りし町内の店舗に無料で提供しています。店舗ではお客様の了解を得て使っておられます。今では「友人に知らせたい」とエコバッグそのものを求める方が増えたそうです。学校では上級生が下級生に作り方を指導し、学校ぐるみの活動になっています。この活動に共感しエコバッグづくりを実践していると学校や地域が増えているというニュースでした。SDGSという大きなテーマを自分たちの出来ることに置き換えて実践するという脚下照顧の典型例と言えます。

また、別の番組で、廃棄米を使ったレジ袋や食器、はしなどが紹介されていました。虫に食われた米や砕米、災害で水につかった米などは廃棄するしかありません。この廃棄する米と再生プラスチックを混ぜてペレットに加工し、これを通常の成型機で商品を生産するのです。このようにして作ったレジ袋には「バイオマス30」とか「バイオマス25」とか表示され、二酸化炭素の削減率が表示されています。一般的にはバイオマスはサトウキビやトウモロコシが使われますが、ほとんどが輸入に頼っている日本では物流に二酸化炭素を使用するため、本末転倒ともいわれます。それが日本国内で唯一の自給率100%以上を誇る米でこれができればもっとエコにつながるのではないかと考えて作られたのが米からできたレジ袋だそうです。

私たちは今、コロナ禍、AIデジタル化、SDGS、台湾有事、新冷戦、宇宙開発競争等人類が経験したことのない激動の時代にいますが、テーマが大きすぎて、中小企業や個人の行動に落とし込むと一体何ができるのかと悩んでしまいます。
そこで「脚下照顧」、足元を見よ、できることはたくさんあるじゃないかということに気づきます。
自分ができることで地球の役に立つこと、社会の役に立つこと。会社でやっていることを応用すればもっと困っている人を助けることができることがあります。お金(売上)にならなくても尊敬になります。それが広がることで社会事業としてお金(売上)につながります。世の中を変える、良くするという、初めに大欲・大義ありです。利益は後からついてきます。江戸時代の哲人石田梅岩はこれを「先義後利(せんぎごり)」と唱えました。

私の尊敬する経営者の方々は、会社の中はもちろんですが、自発的に、地域の掃除を日課とされています。誰も見ていなくても道路を掃除し、交通事故が少しでも減るようにガードレールを磨き、子供が怪我をしないように雑草を引き抜き、災害時に困らないようにドブさらいをし、人の心が荒まないように草刈りをしてポイ捨てされた空き缶を集め、ごみを掃除されています。
掃除をすることで、心がすがすがしくなり、少しの変化にも敏感になり、大きな努力で小さな成果を生むことを常として継続する強い意志力を鍛えられています。結果として、地域の治安が良くなり、安全と安心を実現されています。このような経営者の集団、つまり鍵山秀三郎門下生は日本中の津々浦々におられます。
「役所がやるべきだ」「捨てた人を罰せよ」「法律を厳罰化せよ」と他に責任を振り向けるのではなく、自分は何ができるかを考えて行動します。なぜなら、自分磨きのためにやっておられますので「掃除させていただき感謝します」とおっしゃいます。

翻って、多くの企業、中でも中小企業は地域や業界に不可欠の存在で、縁の下の力持ちです。その固有の技術や人材は大手が参入できないものがたくさんあります。中小企業が全体の99.7%を占める日本は生産性が低く国際競争力がないと批判されますが、中小企業があることで世界にたった一つの安全で便利で平和な社会を作っているのです。経済的にも技術的には人材的にも経営資源が勝っている大手企業は社会貢献できることは中小企業の比ではありません。SDGSの一環でCSRやメセナに取組み、社員貢献、地域貢献、社会貢献している企業は多いですが、数の上で中小企業のそれには及びません。株主優先の現状では難しいのです。

中小企業が元気に活動することで社会が健全に維持されているのです。その技術は機械やデジタルで置き換えられるものもありますが、その多くは人々の知恵と工夫で成り立っていますので、これを機械化、自動化することはコストパフォーマンス上成り立たないことが多いのです。
中小企業や個人の活動を見つめなおし、より社会に貢献できるものに変えてゆくことが大きなテーマの解決に直結するのです。「脚下照顧」 わが社の強みを再発見し、磨きをかけて、社会問題の解決につながることを実行してゆきましょう。