人類誕生のなぞを研究してゆくと、約14〜20万年前のアフリカ東海岸の女性にたどり着きます。
1987年にレベッカ女史が発表した主張を2000年に最新のDNA解析技術を使って全ミトコンドリアDNA塩基配列を解明することでほぼ間違いないことが証明されました。分析結果から明らかになったことは、人類は大きくABCDの4グループに分類でき、ABCグループはアフリカにとどまり、Dグループのみがアフリカをでてユーラシア大陸からアメリカ大陸に広がりました。黒人、白人、黄色人種というグループではなく地域的な特性で地域に順応した結果が現代の民族になっているというのです。これは分子人類学という領域になり、分析手法をハプロ分析と言います。
世界中の大学や博物館にはあらゆる年代の人骨が保存されており、この人骨の細胞を使って分析するのですが、人骨の細胞ではDNA解析まで進まなかったのですが、PCR技術を活用することで微量な細胞を培養してDNAコンピュータで解析できるようになり様々なことが科学的に解明できました。「PCR」はコロナ禍の時に脚光を浴びましたので皆さんもご存じだと思います。
このDNA解析技術はミトコンドリアが母性遺伝することを利用して、年代を遡ってゆくとアフリカの女性にたどり着いたのです。この女性をミトコンドリアイブと言います。
今では人類の移動経路はほぼ再現できるところまで来ており、東アジアに人類が進出したのは約7万年前と想定されています。沖縄大学院大学の教授で2022年にノーベル賞を受賞されたペーボ教授はネアンデルタール人等の旧人類と新人類ホモサピエンスが4万年前まで共存し混血していたことを証明されています。現存している地球上の民族の中には旧人類の遺伝子を持った方が一定割合おられることになります。
しかし、ミトコンドリアだけでは女性がどう世界中に広がったのかはわかっても男性の移動経緯はわかりません。そこで着目されたのが父性遺伝するY染色体の研究で、Y染色体を同様な検査法で遡ってゆくと約7万年前まで突き止めることができました。女性の移動経緯と男性の移動経緯を合わせて研究することで、いつごろ、どの染色体をもつ民族が、どこからどのように広がったのかがわかるようになったのです。
更に研究が進めばもっと様々なことがわかるかもしれませんので、この分野の研究から目を離せません。
人類がアフリカを出て世界中に進出したと言えばポジティブに聞こえますが、実際にはABCグループの中から突然変異で誕生した白子が忌避され追い出され、恐らく150人程度の集団で純血・混血を問わず子を産み人口を増やしながら温かいアフリカから新天地を求めて寒い北に移動を始めざるを得なかったと思います。
移動の過程でさらに突然変異で誕生した黄子(黄色人種)が疎外され追い出され、新天地を求めて移動を始めざるを得なかったのです。このような繰り返しが7〜10万年続いたと思われます。
今から7〜1,4万年前、ユーラシア大陸からオーストラリア大陸まで陸地でつながっていました。今は海底に没しているこの陸地をスンダランドと言います。弱い疎外された人々はより条件の悪い地へと追いやられ、新天地を求めて様々なグループ(民族)が移動してゆきました。そして、あるグループが誰も見向きもしなかった日本列島にたどり着きました。日本海は陸続きで往来ができますが太平洋側は海でそれ以上進めません。険しい山岳地帯しかない日本列島はまさに「最果ての地」に見えたのです。だから誰も見向きもしません。ところが「最果ての地」に住んでみると案外過ごしやすく、食べ物も豊富で四季もあり、最果ての地どころか「ユートピア」だったのです。
アフリカを起源に誕生した人類の中で最も弱い疎外された人々が日本にとどまりました。縄文人です。縄文人は様々な集団から追い出された人をすべて受け入れました。きっと疎外された人たちの気持ちを一番よくわかったからでしょう。これはDNA解析技術からも証明されており、日本人が持っていてほかの地域や民族は持ち合わせていない遺伝子が沢山あります。世界には無数の民族が共存していますが、日本人のような民族はDNA遺伝子からみてもほとんどないことが確認されています。
「最果ての地」という「ユートピア」で生きてゆく決断をした縄文人は皆が生活しやすいように様々な工夫を凝らし、流入してきた人が持っている知識や技術を柔軟に受け入れて、必要なものは活かし、そうでないものはスルーして、より良いものに発展させてゆきました。とても変化に柔軟だったのです。
縄文人が渡来系の弥生人に締め出され、アイヌと琉球人になったという説がありますが、科学的には全く根拠がなく緩やかに縄文人と弥生人の混血が進み日本人となっていったのです。決して置き換わったわけではありません。それは分子人類学からも最新の考古学からも明らかになっています。
氷河期を生き延びることができなかった恐竜と生き残った人類の決定的な点は環境適応力です。強いから残るのではなく変化したから残るのです。生き残った人類の中でも強いから生き延びたのではなく柔軟に変化したから生き延びたのです。会社も全く同様ですね。ある意味で、日本人は世界で最も多様性に富んだ一番混血している人種だと言えます。異種と混じることで優れたものになる。体力で勝てなくても知恵で勝つ。人間性で勝つ。
巷間、あらゆる文化は日本で完成すると言われています。インドで誕生した仏教美術が完成したのは日本です。中国で生まれた論語も日本で完成しました。
今こそ、縄文人の心を思い起こし、異なる価値観を排除するのではなく、あらゆる人々と交流して、受け入れて、ハイブリッド化して、進化する時ではないかと思います。スーパーヒーローといえども一人ではろくなアイデアも出ません。一人より二人、二人より三人、男性も女性もAIも外国人も混ざって混ざって混ざりつくすことが、最も効率的で、最も高品質で、最も安全で、最も低コストで最も持続可能な方法だと思います。