No.1281 ≪複写はがきの効用≫-2023.10.4

おかげさまで沖縄県立博物館美術館「おきみゅう」で開催いたしました絵画展「5人展」は盛況裏に終了いたしました。ご来場いただいた皆様に感謝いたします。

さて、経営者の皆さんは「複写はがき」のことを一度はお聞きになったことがあると思います。「複写はがき」は私の尊敬する坂田道信師(1940/2/20-2023/3/14)が31歳の時に日本教育界の泰斗である森信三師と出会い、「複写はがき」を勧められたことがきっかけで始められました。1971年のことです。無学だった坂田道信師は、ひらがなばかりでは信用されないと思い、辞書を手元に置き、1枚のはがきに最低3つの漢字を書くと決めて、それを毎日30枚〜50枚書かれました。それから人生がみるみる変わりどんどんと良くなっていったとおっしゃいます。ついに「はがき道」にまで高められ、日本で唯一人個人で郵便番号「739-1296」をお持ちになりました。ご一緒した時に、電車の待ち時間、講演会の待ち時間など細切れの時間を使って「はがきを書いてもよいですか?」と聞いてから、いつでもどこでも自分の膝を机代わりに「複写はがき」を書いておられたのを目撃しています。2023年3月14日に84歳でお亡くなりになりました。

私は1993年に沖縄での坂田道信師の講演を聞いて感銘し「複写はがき」を書くことを決意しました。
坂田道信師は、「最初のはがきはご家族、中でもお母さんと奥様に出しなさい」「はがきは自分が勝手に相手様に書かせていただいているのですから、返事や見返りをもとめてはいけません。『複写はがき』を使って仕事を取ろうと思っても取れません」「必ず手書きします。大きな字で、縦書きに、青色のカーボン紙を使って、形式的な時候の挨拶を書くのではなく一所懸命に相手様の事を想い書きなさい」「もし途中で書き損じても、修正液で修正して出しなさい」とおっしゃいました。
なぜ縦書きなのかと聞くと「日本人なのだから、縦書きで右から左に書くものだと森信三先生に教えていただきました」、なぜ青色カーボンかと聞くと「青い色は清らかな色で心が一番安らぐから」とのことでした。

なるほどと思い、せめて1日3枚、1年で1000枚、10年で1万枚を目標に書き始めました。途中、ブランクがあったり、メールを利用する期間が長く、なかなか進みませんでしたが、2023年4月7日にやっと1万枚目を描くことができました。実に30年かかってしまいました。私より遅れて始められた「掃除道」の鍵山秀三郎師は5年で2万枚近く書かれていました。しかも、使いきったボールペンの芯を大切に数十本も持ち歩いておられました。「大きな努力で小さな成果」「凡事徹底」「心の荒みを取り除く」事に人生をかけられた方は違うと頭が下がりました。

事あるごとに坂田道信師から「あなたは必ず継続できる方だ。焦らずに根気よく書き続けなさい」と励まされてきました。9999枚目は坂田道信師に、1万枚目は妻に送ると決めていました。残念ながら「はがき道」の恩師に約束の9999枚目の複写はがきを送れませんでした。私は「複写はがき」を書くことで人生を切り開くことができたと感謝しています。

森信三師(1896/9/23-1992/11/21)のご子息とご一緒した時、感動的なエピソードをお聞きしました。森信三師は手紙を書く時は必ず同じものを2通お書きになり、一通は相手様に、一通は控えに取っておかれたそうです。誰にいつどのような手紙を書いたか記録するためです。今のように便利なコピー機やデジカメがある時代ではありません。ご自分で普段からされていることを「複写はがき」という形で坂田道信師に示されたのです。

「複写はがき」は深く密な人間関係を築く最も効率的で生産性の高いツールだと思っています。残念ながら「複写はがき」で仕事は取れません。手に入るのは相手様との生涯にわたる裏表の無い信頼関係だけです。
「複写はがき」でつながると、肩書や社会的地位を超えて、あるがままのヒトとしてお付き合いしていただけます。そうならないならば、自分磨きが足りないと思ってください。ドライな取引関係をビジネスライクと言いますが、「複写はがき」の信頼関係はヒューマンライクと言えます。
今のSNSやメールの大海はAI&DXの助けがなくてはやってゆけません。真実も詐欺もフェイクも見分けがつかない真偽混淆の情報過多の中でビジネスが展開されています。経営者は本物、真実をいち早く情報収集する責任があります。それは本物の情報を持った方と世代、業種を超えた多面的で持続できる人間関係の構築しかありません。その時、「複写はがき」は最強のツールとなると思います。

もちろん、メール、SNS、名刺ソフトのようなネット系、クラウド系のツールはスピードや情報共有性、協働性、記録性、再加工性、無制限の情報量などは便利すぎる機能は利用しない手はありません。が、それは瞬時に上書きされて流れてゆくフロー情報でもあります。いつでも見ることができるのであなたの頭と心に蓄積されません。
一方、超アナログな「複写はがき」は書いたあなたの頭と心に、そして、受け取った相手様の頭と心にビビッドに確実に強烈に蓄積されます。

私は「複写はがき」を次のように使っています。
名刺交換すれば、1週間以内に「複写はがき」を出す。電話は私の都合で相手の時間を奪うことになりますが、はがきは私の都合で書いて、郵便局が配達してくれて、相手の都合で読んでいただけます。
電話でアポイントが取れた時は「複写はがき」でアポイントのお礼を書き、面談すれば「複写はがき」で面談のお礼と宿題と次回のアポイントを書き、約束の期限が近づいてくるとまた「複写はがき」を書いてアポイントを確認します。2回目の面談時は旧知の親しい関係になっています。
「あなた」が何も売り込まないから、次の仕事は「あなた」にお願いしようと決められるのです。

営業はとてもメンタルな仕事です。自分で勝手にネガティブなことばかり考えて「断られるかもしれない」理由を一所懸命考えて、自分で勝手に敷居を上げてしまう傾向があります。「複写はがき」はその敷居を下げる効果が絶大です。いままで多くの方に「複写はがき」の効用をお伝えしましたが、幸いにも(?)愚直に実行される方が多くないので、効果抜群です。試してみてはいかがですか?