最近の話題は「賃上げ」「最高益更新」「AI」「インバウンド再来」「株価3万円時代」・・・果たして景気が良いのか悪いのか、1990年代以降の統計数字と肌感覚はいつも異なります。
巷間、上場企業は掌を返したように中途半端な初任給大幅UP競争をしています。まるで「初任給大幅UP狂騒曲」です。上場企業が賃上げするなら最低でも倍にすればよいのに、25%、5万円UPしても年間60万円。100人採用しても6000万円。既存社員のベースアップを調整したところで数億円です。恐らく痛くもかゆくもないでしょう。株主配当の方が圧倒的に大きいのですから。この程度の上場企業のUPに喜んでいてはたかが知れています。バブル崩壊後、「羹に懲りてなますを吹く」癖が身について、石橋を叩いて渡らない、設備投資・人材投資を極力抑えて皆で我慢するようになって、日本国は債務超過になって久しいです。気が付けば、世界最安の国になり、あらゆる指標で先進国(OECD)下位に甘んじています。増え続けたのは株主配当だけかもしれません。直近の20年だけでも3倍(4兆円→12兆円)になっています。
中小企業は上場企業の「初任給大幅UP狂騒曲」に幻惑されてリクルートの条件を良くしようと真似してはいけません。真似するとあっという間に苦境に陥ります。真似をするなら上場することです。なぜなら、中小企業は上場企業のように株価や株主を意識したドラスチックな政策が打てないからです。業績が悪化すればいつでもリストラやコストダウンや賞与無しを打ち出せる上場企業と比べ、中小企業は株価や株主の意向を理由にはできません。上場企業はエレベーター方式が可能ですが中小企業はエスカレーター方式なのです。方針の継続性が求められるのです。そして、方針の継続性は経営者への信頼、ひいては社員の定着率に直結しています。経済環境が最悪で業績悪化が避けられない時でも中小企業は約5%の賃上げは実施してきたからです。同じ市場に属していても上場企業と中小企業は「カネ」「ヒト」の面で市場のステージが別世界です。
中小企業がブームに乗って無理して初任給を10%UPしても上場企業とはもともとの初任給額が違いますし、昇給率25%と比べると見劣りします。反応がないからと言って一旦掲げてから取り下げるわけにもゆきません。毎年10%UPすると7年で倍になるのです。
ところが、ある条件を満たせば全く問題なく実現できます。それは限界利益率の改善と開拓の推進です。
労働分配率を50%とした時、人件費を10%UPしても、限界利益率をUPすれば損益分岐点は変わりません。UPすべき限界利益率は、例えば35%ならば、(35×1.05)=36.75%に改善すればよいのです。人件費UP率の半分で済みます。逆に見れば、限界利益率を改善することを最大のテーマにすれば、最大の固定費である人件費をUPしても、もちろん初任給の大幅アップしてもNo Problemです。限界利益率を労働生産性に置き換えても構いません。
上場企業は市場から無利子で資金を調達し返済不要です。利息に相当する配当も利益が出れば配当し、出なければなくても誰も文句は言いません。当然、財務力に裏打ちされた購買力も高く、厳しいコストダウンを要求しても断れない仕入先企業は沢山あり、付加価値率の改善はいつでも可能です。昇給をしてもそれ以上のコストダウンも可能です。しかし、中小企業は借入金で資金繰りせざるを得ませんので、返済原資が常に必要です。金融機関もそれなりの見通しがなければ融資してくれません。チャレンジするにもハードルとコストが高いのです。中小企業の強みは何かといえば、大手上場企業が手を出さない規模の市場をセグメントし、そこでガリバーになれることです。お客様が金額の高さにかかわらず自分の価値観に見合った付加価値の高い商品・製品・サービスを喜んで買っていただける会社になることです。
「言うは易し行うは難しだ。そのためにも人材が必要ではないか、待遇面の有利な上場企業に良い人材を取られて、中小企業では採用できないではないか」とお叱りをいただきそうですが、全くご心配には及びません。上場企業の「初任給大幅UP狂騒曲」に踊った新入社員も1〜2年もすれば半数近くは離職します。転職先でも同じような状況になります。3〜5年すれば、中小企業はその人たちの中から自社に合う社員を選べばよいのです。また、Z世代の若者は意外と堅実で本質を見抜いているように思います。最初から地方の中小企業、中でもSDGSに力を入れている企業、倫理経営を実践している企業、ユニークな商品や技術・システムを持っているスモール・ジャイアント企業、DX時代の働き方改革実践企業を目指して行動する人が増えているように思います。いくら待遇が良くてもパワー競争を強いられストレスがたまる企業に就職する人ばかりではありません。
経営者が肚をくくらないとありきたりの無難な道を選んでしまいます。数年は問題なく経過しますが、果たして5年、10年先はいかがでしょうか?
他社にまねのできない開発力、DXを駆使した生産性革新、別の表現を使えば限界利益率を高めざるを得ない針路に舵を切りませんか?