9月24日(土)~25日(日)の2日間、茶道裏千家の前家元である鵬雲斎千玄室大宗匠(ほううんさいせんげんしつだいそうしょう)を迎えて「第24回 沖縄・奄美大島・鹿児島 和合の茶会」が開かれ、参加しました。和合の茶会は淡交会沖縄支部と奄美大島支部と鹿児島支部がそれぞれ毎年持ち回りで開催します。今年は8回目の沖縄の当番でした。
その前日、9月23日(金)は鵬雲斎大宗匠を迎えて沖縄今日会の内輪だけの感謝の集いがありました。淡交会は裏千家茶道の子弟組織、今日会は裏千家のサポーターでフレンドリーな集まりです。
その時に、大宗匠がいつになく、国を憂えて、私たちを𠮟責してくださいました。大宗匠の講演は何度も聞いておりますが、今回の内容は今までにないことです。裏千家の会員は、世界中におられ、もちろん、ウクライナにもロシアにも、中国にも大勢おられますから、生の声をご存じなのでしょう。また、コロナ禍の中で変わりゆく世相も影響していると思います。私の理解した範囲で意訳しますと次のようになります。
「最近はなんでもかんでも簡略にしてしまうが、これは良くない。手間をかけないと良い物はできない。人間関係も同じだ。平和を言っている間は平和ではない。なぜもっとかかわらないのか。日本の軍事予算が多いとか少ないとか言っているが、今の自衛隊は玉も打てないし、装備も旧式で修理しないと使えない。弾薬は北海道に備蓄している。沖縄に何かあった時、北海道から運んでいる間に、沖縄を守れるんですか? 宗谷海峡を守れるんですか? 高度成長のぜい肉をそぎ落とした土光敏夫さんも、大国中国と対峙して一歩も引かなかった李登輝さんも今はいないんです。来年100歳になる私が行動しようとしているんですよ。私より若い皆さんがしっかりしないとどうするんですか? 覚悟を決めなさい。」とても感動しました。
鵬雲斎千玄室大宗匠は私の尊敬する師匠の一人で、今年の4月で満99歳と高齢ですが、背筋がピンとして矍鑠としておられます。1時間でも2時間でも原稿なしで講演され、沢山の人の顔と名前を憶えておられます。歩くのも早く、私達がついてゆくのも小走りになるぐらいです。懇親会の時はどんなに多くの方が参加されていても必ず全テーブルを回り歓談し、記念写真に納まられます。
今から77年前、大宗匠は学徒出陣で海軍に入隊し、志願して特別航空隊、いわゆる特攻隊員として鹿屋基地から出撃すべく激しい特攻訓練を受けました。出撃命令がでた仲間が「千 お茶を点ててくれ」と所望すると、厳かにお点前しました。その鮮やかな緑色のお茶を飲んで、敵艦に体当たりして海の藻屑と消えて行く仲間を一人二人と見送り、次は自分だと覚悟を決めていた時に、愛媛県の基地への異動命令が出たのです。「出撃させてください」と上官に懇願しましたが、「大本営の命令だ」といわれ断念し、待機中に終戦を迎えられました。生き残ってしまったのです。忸怩たる思いは今もあるそうです。同期の生き残りは第二代水戸黄門で有名な西村晃さんと二人だけです。
出撃していった仲間は、国を守るためではなく、家族を守るために死んでいったそうです。自分が特攻で死ぬことで愛する家族を守れるなら本望だと。沖縄近海の海に眠る多くの仲間から戦後を託された大宗匠は、仲間が命がけで守ろうとした家族、国の平安を、世界平和につながる茶道の心を普及させることで実現しようと精進されてきました。国内はもちろん、世界中の国々の大統領、国王、要人と民族、宗教、文化、主義主張を超えて「お茶」を通じて会える方です。「まあ、お茶でものみましょう。まあるいお茶碗は地球です。その中の緑は私たちです。なかよくしましょう」とお茶を点ててこられました。
訪問国は150か国以上に上り、どの国に行っても「お茶」を飲むとだれもが笑顔になり和やかな気持ちになるそうです。お茶の緑の色は人の心を癒し、和やかにしてくれる。だから、自分は「一盌からピースフルネス」の輪を広げてゆこうと。
その背景には次のようなエピソードがありました。淡交タイムス2022年9月号によると「同志社の英学校を出た父は英語が堪能で、戦後まもなく進駐軍の将兵たちに我が家でお茶を教えていました。後から知ったことですが、米軍の司令部から日本人を良く知るために日本の歴史や伝統文化を学ぶように命令が出ていたというのです。初めの内は彼らが出入りするのを見て無性に腹が立ちましたが、あるとき茶室を覗くと、父は「和敬清寂」の精神を英語で説き、正座をした軍人たちが神妙な顔でお茶を飲んでいたのです。その瞬間に私は、日本は「武」で負けたが「文」では少しも負けていないと確信しました。そして、「これから『文』の力で日本の再建と世界の平和のために尽くさなくてはいけない」と心に誓ったのです」とあります。
22歳でなくした命。その後の人生は自分のものではなく世界の貢献に捧げようという覚悟。エリザベス女王が25歳で即位された時に「私の人生が長くても短くても、生涯、公務に我が身をささげることを皆さんの前で誓います」と宣言されたことと通底していると思います。
私たち中小企業経営者は小さいながらも弱いながらも、今、しっかりしないと、来世まで後悔することになりそうです。とても心に刺さった2日間でした。