No.1168 ≪アフター・コロナは高くても売れるブランドづくりの絶好の機会≫-2021.6.30

2010年に出版され大ヒットした藻谷浩介氏の「デフレの正体」~経済は人口の波で動く~(角川書店刊)の再読をお勧めします。著者の藻谷氏は「デフレの正体は15歳から64歳の生産人口の伸び率減少によるものだ」と喝破されています。日本で、なぜ物価が上がらないのか、つまりなぜ給与が上がらないのかを考えたとき、全くその通りだと実感しています。
日本の未婚率は男性が23.4%、女性が14.1%と近年急上昇しており、しかも平均結婚年齢は男女とも約30歳と晩婚化(1995年より3歳遅くなった)が進んでおり、結果的に2020年の出生率は1.34人です。子供が減り高齢者が増える構造に歯止めがかかっていません。国内で増えない以上、移民しか手がないのですが、移民にはとても保守的な国柄ですので、これもむつかしい。となると、稼ぎ人は減る一方、扶養家族は増える一方、賃金は減る一方となると物価は上がらない深刻な現実があります。企業はどのような戦略を立てねばならないのか?

2019年に91歳で亡くなった経済評論家の長谷川慶太郎氏は「20世紀は帝国主義国が連合国と同盟国に分かれ戦った第一次世界大戦、東西陣営に分かれて戦った第二次世界大戦で世界中を破壊しつくし、戦後の復興建設に伴い、需要が供給を上回ったのでインフレになったが、ベルリンの壁崩壊後の世界は対立軸が無くなり、世界中を巻き込んだ戦争は起きない21世紀はデフレの世紀だ」と主張されていたように思います。復興建設には物がないとできませんから何でもかんでも値上がりしますが、平和で安定した時代は価値あるブランド品以外は加速度的に価格が下がる運命にあります。

日本では、1990年のバブル崩壊以降「失われた20年(又は30年)」といわれた日本経済を活性化しようと第二期安倍政権が誕生したのが2012年12月。その時の政策が「アベノミクス(GDP3%成長、物価上昇率2%)」です。超円高だった日本を円安にして輸出企業を中心に業績を改善し、賃金アップにつなげて個人消費拡大と設備投資拡大に結び付けGDP成長を実現するシナリオです。
そのために日銀は黒田総裁を得て異次元の金融緩和「黒田バズーカ」を打ち続け、1$=約80円の超円高を4か月で100円、2年で120円まで円安に誘導し、企業は空前の好業績に沸きました。今も「黒田バズーカ」は健在ですが、1$=110円台と円高基調で推移しています。しかし、アベノミクスのゴールであったGDP成長率は2013年に2.0%と上昇しましたが、2019年0.67%と伸び悩んでいます。もう一つのゴールとなる指標、消費者物価は2012年の△4.7%から2020年の0.11%と若干ながら上昇しましたが、これは消費税の影響が大きいといわれています。つまり、日本の将来不安の元凶であるGDP成長率と物価上昇率はほとんど変化なく、アベノミクスの効果は限定されていることがわかります。

賃金を見てみると、厚生労働省「毎月勤労統計調査」の30人以上規模の企業でみると、2012年の平均月収291,573円に対し2019年296,064円で1.6%の伸びにとどまっています。日本企業の約87%を占める5人~30人未満規模の企業でみると100.9%の伸びになります。
さらに、国連調査による日本国民の平均年齢を見ると、2010年で44.9歳、2018年で47.7歳と約3歳高齢化しています。物価も増えていないけれど、収入も増えていない。しかし、年齢は確実に上がっているので費用はかかるので、生活的には苦しいといえます。コロナ以前の深刻な状況は何も変わらず、コロナで悪化しています。
生産年齢人口の比率を見ると2010年の64.1%に対して2019年には59.4%まで減少しています。10年で約5%の生産年齢人口(働いて納税する人)が減少しているのです。その間日本の総人口は0.6%減少しただけですので、稼ぎ手が最低でも人口の4%(約500万人)減少したことになります。この深刻な状況はコロナ以前からあったものです。そこにコロナ禍で、失業者が増えているのです。

これらのことを考えると、今はコロナ禍に目を奪われて、日本の深刻な現実を直視せずに済んでいますが、東京五輪が終わり、コロナが落ち着くとこの深刻な現実がさらに悪化して再び顕在化することを意味しています。
もちろん、「コロナ後に一番行きたい国」ランキングで日本がトップになっていますから、インバウンド需要はコロナ前ほどではないにせよ確実に戻ると思われますし、富裕層は日本を目指すでしょう。そのためのホテルや施設が目白押しに計画され実行に移されているのも事実です。その効果をどのように果実に結びつけるかが中小企業の知恵の出しどころです。人口が減少し、働き手が減少し、所得が伸びない近未来の日本で、戦後の高度成長期と同じやり方で経営しようとしても行き詰まるのは目に見えています。

そこで、5年~10年かけて価格に対する考え方を見直してみませんか?
あなたの会社が取り扱う商品にもよりますが、今の商品やサービスは価値に見合っているか見直しませんか?
売る相手を間違っていませんか? 「多」(多量、多数、多人数)や「大」(大量、大人数、大規模)にこだわっていませんか? お金に余裕のある人が高くても手に入れたい商品をどれだけ持っていますか? より安い人を探して社員の働きを安売りしていませんか? 伝統的なローテク商品の価値に気づかず最先端技術やハイテク志向をしていませんか? NO.1になる市場セグメントを意識していますか? 高品質・高性能・高付加価値=「日本」というブランドにどれだけの価格をつけていますか?
商品価値を認めてくれるお客様が納得する品質であることは当然ですが、価値に見合った価格に替えてゆきましょう。追求すべきは皆が幸福を実感できる「労働生産性100万円以上」にすることです。薄利多売でそれができるのは大企業だけです。中小企業がやると破滅するだけです。中小企業は利益優先で高付加価値商品を少量販売することです。半年でも1年でも待ってくれる商品を作ることです。そのためには顧客が欲しがる商品開発や用途開発が不可欠です。既存商品をどんどん陳腐化させて廃版にする。そして新製品を上市する。この繰り返しです。さらに、その価値を認めてくれる市場が国内にないなら、地球上で探し回るのです。日本ブランドにあこがれる目の肥えた、生まれながらの富裕層は確実に存在します。

中小企業にとって、アフター・コロナこそ本当の存在価値が問われます。洗練されたデザインと安心の高品質と生涯顧客としてのアフターサービス、それらを継続できる人材と技術に裏打ちされた「ブランド」を作り上げませんか?