一般的に国の富が覇権国のそれに近づくと「もめごと」が起きることが知られています。例えば、第一次世界大戦が起きる経済的背景を見てみると、当時の覇権国は「太陽の沈まない国」と言われたイギリスです。イギリス帝国の1880年の工業生産高シェアは23%。一方、ハプスブルク家の支配するオーストリア・ドイツ帝国は9%でした。それが、1913年になると、イギリスが14%、オーストリア・ドイツ帝国は15%とイギリスを凌駕しました。それから5年後、全世界を巻き込んで第一次世界大戦が勃発したのは皆さんご承知の通りです。
時は移り、2008年にリーマンショックが起きた時、覇権国であるアメリカのGDPは14兆$、中国は5兆$でした。時の胡錦涛国家主席が4兆元(約57兆円)の巨費を投じて西部開発を推進し、世界経済を牽引しました。その結果、世界は恐慌から救われました。その後「世界の工場」の名をほしいままにした中国はGDPで日本を抜いて世界2位となり、2018年にはGDP13兆$とアメリカの20兆$に肉薄しました。成長率でアメリカを凌駕したのです。そこで、トランプ政権による米中貿易関税戦争が起きたのは記憶に新しいところです。
一方、この70年間、大きな戦争や世界的な疫病がなかったため、世界人口は1950年の約25億人から2020年の約75億人へと3倍、50億人増加しました。産業革命によって寿命が延びて人口急増が起きましたが、それでも1850年で約12億人が1950年の約25億人へと100年間で2倍、13億人増加です。それが、たった70年間で3倍、50億人増です。その結果、昆虫食が注目されるような食料危機の到来やCO2の激増で地球温暖化及び異常気象の激増につながっています。
また、この半世紀の間に、私たちは3つの莫大な新市場を創造しました。一つは1986年のNASAチャレンジャー号事故に伴うプロジェクト中止に伴い失業した技術者が創造した「デリバティブ市場」です。今では世界の実質GDP85兆$の50倍にも成長しています。2つめは1989年のベルリンの壁崩壊に端を発した「グローバル市場」です。競争の仕組みが変わり超巨大企業がM&Aと合併で誕生しました。3つ目は1995年のWindowsリリースに伴い、世界中がデジタル化し、スマホ化した「サイバー市場」の誕生です。アメリカのGAFAと中国のBATHの8社で1兆$を売り上げています。
このような社会・経済背景のもとに発生したのが、「新型コロナ・パンデミック」です。スギ花粉の1/300という小さな目に見えない新型コロナウイルスが、社会秩序や価値観や経済システム等あらゆるものを破壊しながら蔓延しています。
そこで問題になるのが、経済活動と命とどちらが大事かという命題です。「両方大事だ」というのが今の世界のリーダーの表向きのスタンスで、本音は「経済が大事だ、経済があって初めて国と国民の命が守れる」、経済を壊すと社会が壊れ、統治体制が維持できない。新型コロナ感染による少々の犠牲は我慢してくださいというところではないでしょうか? 命(感染防止)より経済を優先したような「GO TOトラベルキャンペーン」を人災だと発信した青森県むつ市の宮下市長の気持ちも痛いほどわかります。私も、確信犯的人災だと思っています。
企業でも同様で、社会的影響力の小さい中小企業だと、銀行はいとも簡単に壊しますが、壊すと自らが破綻してしまうほど多額の融資をしている企業は簡単につぶせません。だから、つぶせないほど多額の借入金をすることが一番の安全だという論法も成り立ちます。
現代社会もこれほどまでに高度に発達した巨大経済圏となると、G20クラスのどこかの国が壊れると世界が壊れるので壊せません。有名な投資家であるウォーレン・バフェット氏がデリバティブを「大量破壊兵器」と名付けましたが、まさにその通りで、実体経済の50倍近い仮想市場で少しでも異変が起きると世界経済が壊れます。
リーマンブラザーズショックの時は、1社だけを破綻させることでデリバティブ市場を温存させました。その時のリーマンブラザーズの負債は1000億$。世界で消失した額は10兆$。約100倍です。経済を壊すに壊せないのが実態だと思います。
では、命が大事と考える企業や人々はどうするか。
おそらく、今後、世界中で、縄文時代のような自給自足の経済圏が誕生するのではないかと思います。鎖国でもない、グローバル化でもない、もう一つの経済圏です。
エネルギーも食料も教育も経済も自給自足で賄う。領土と国民と他国が承認する主権があれば国は成立します。
新型コロナの世界的な蔓延によって、ペストで苦しんだ後に生まれた中世のルネッサンスのような考え方が数十年かけて広がるかもしれません。
食料は有機栽培は当然のことで、除草用のヤギや鶏の飼育、養蜂による受粉手段の確保、太陽光・風力・水力・地熱等の無限エネルギーを利用した発電、リモート教育にリモート医療、仮想通貨による決済手段まで時給自足するかもしれません。このような世界中に誕生するコミュニティをリンクすることでそこそこの規模の経済圏がリアルと仮想で誕生するのではないかと空想しています。
当面は、新型コロナに感染しないこと。自らの命を自らの行動で守らねばなりませんが、落ち着きを取り戻した数年後は社会や世界がどうなっているか想像力をたくましくして、今から、準備する必要があります。