No.1099 ≪コロナウイルスとBCP の活用≫-2020.2.5

中国・武漢市発のコロナウイルスの猛威がすさまじく、連日連夜の報道で、世界中がまるでパンデミックのような大騒ぎになっています。皆様の周囲は大丈夫でしょうか?

2月3日に横浜港に入港予定だったアメリカの豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号からは3711名の乗客乗員から10名の感染者が確認されました。1月25日に香港で下船した方が感染確認されたのは2月1日。さらに、2月1日には乗客の多くが那覇で下船し観光を楽しんだ後、横浜に向かいました。乗客のうち13人が那覇で下船して観光後国外に移動したようです。他山の石と思っているとどこで足元に火が付くかわかりません。

コロナウイルスの震源地の武漢市といえば孫文が辛亥革命を決意した場所でもあり、誇り高き中国人の故郷のような場所です。湖北省の人口が6100万人で、武漢市の人口は1100万人と東京並みです。中国のほぼ中央に位置し、サプライチェーンの集積地です。高速鉄道や高速道路の整備が進み、中国全土と縦横無尽につながっている湖北省や武漢市から多くの方が待ちに待った春節を楽しもうと国内外に出かけてゆきました。その数は約500万人。そして、グローバル化によるサプライチェーンの分散化で、中国は「世界の生産工場」になって約四半世紀がたちます。人口13億人の中国で春節に移動する人は延べ30億人いるそうです。
今起きていることは、感染者数が日増しに増えていますが、これは検査体制が整っていない中でカウントされている人数なので、検査待ちの人はその数十倍になるでしょう。検査体制が整えば、その数は激増するのは簡単に想像できます。日本の充実した医療体制の下でカウントされるのとはわけが違います。

さらに、昨年の12月8日に原因不明の肺炎患者が発生し、30日には8名の医師が拘束されたそうです。理由は「デマを拡散した」罪だとか。原因がわからない肺炎患者を診察していた医師が、ウイルスを分析したところ、SARS によく似た構造だったので、医者仲間とチャットで、話し合いました。すると、ほかの医師も同様の現象に気づいていました。そこで、放置するとSARS の再来になる恐れがあり対策を打たねばならないと話し合っていたチャットを政府機関が発見し、ネットを遮断して、チャットに加わっていた医師8人を拘束したのです。その後、8人の医師は裁判所の命令で解放されましたが、この時に手を打っていれば、感染はもっと早く封じ込められていたでしょう。

このコロナウイルスの蔓延に伴う処置として春節の延期命令が出ています。工場生産ができないのです。
米中の貿易摩擦はあの手この手で克服することはできますが、目に見えないウイルス感染を防止するために人々の移動を禁じるしかなく、生産が停滞し、世界のサプライチェーンは機能不全に陥ります。
すでに、世界各国のあらゆる業種のあらゆる製品が何らかの影響を受けており、今ある在庫を消費した段階で、次の入荷がいつになるかわからないという現象が起きます。
今のマスク不足も、世界の生産の半分は中国なので、代替ができるまで時間がかかるかもしれません。
すでに多極生産方式や世界同時生産方式をとっているメーカーは対応可能でしょうが、生産能力には限界がありますので、生産拠点を他国に移して稼働させるまでの時間は最低でも1年以上かかると思われます。

恐らく、今回の教訓で、メーカーは雪崩を打って東南アジア諸国をはじめ世界中に生産拠点を開設し、スイッチ生産できるように対策をとるでしょう。分散化以外にサプライチェーンを守ることができないからです。
そして、中国依存の生産には戻らない。中国の拠点は莫大な需要のある中国国内販売向けに機能させることになるでしょう。

今回の報道でよく耳にした言葉が「BCP」です。BCP とはBusiness Continuing Plan の略で、事業継続計画といいます。2011年3月の東日本大震災で脚光を浴び、国を上げて取り組むことになったリスクと不確実性に対する企業存続計画です。取り組み企業は徐々に増えていますが、まだまだ、策定していない企業も多いです。今回のコロナウイルスの蔓延がきっかけとなって多くの企業で取り組みが始まることを期待しています。
米中貿易摩擦、中東危機(イランとアメリカの対立)、異常気象による災害の多発、地球温暖化による環境対策等はすべてBCP の対象です。「雨降って地固まる」ということわざのように、これをチャンスととらえて取り組みませんか?