No.1330 ≪経営者がもつべき一流の教養≫-2024.9.18

来週号(9/25)発行の頃は自民党総裁選(9/27)の大勢と立憲民主党代表選(9/23)の結果が出ていますので日本の将来に向けた進路が見えそうです。大いに関心をもって見極めてゆきたいものです。

さて、人の上に立ち人をリードすることが宿命づけられている経営者には教養が必要です、それも一流の教養が。
中世ヨーロッパの貴族や王族は「ノブレス・オブリージュ(高貴なものが負うべき義務)」が不文律として課されていました。地位や身分が高くなればなるほど「社会の模範となるふるまい」を求められたのです。富裕者は多額の寄付を自発的に行い、騎士は危険な戦いに従軍し、高貴な女性は孤児院や赤十字に奉仕したのです。
イギリスでは第二次世界大戦にエリザベス2世が従軍したり、故ダイアナ王妃が地雷除去活動に従事したり、その子であるウイリアム王子やヘンリー王子が海外の孤児院でボランティア活動しているのは有名でノブレス・オブリージュの実践です。日本でも日露戦争で閑院宮載仁親王(ことひとしんのう)が陸軍でロシア軍と戦い、伏見宮博恭王(ひろやすおう)は艦長として黄海海戦を戦い、三笠宮崇仁親王(たかひとしんのう)は陸軍で中国戦線に従軍しておられます。このような例は世界中に枚挙にいとまがありません。

翻って、現代では企業も有名になればなるほど、社会的地位が上がれば上がるほど、社会の模範となる正しいふるまいや環境に配慮した行動、弱者へのかかわりが必要で、そしてそのリーダーである経営者は人格者としての振る舞いが求められます。

当社が主宰するSS社長塾では「一流の教養」の講座を開設しています。経営者はノブレス・オブリージュを実践し人と社会の模範となるべきだという考え方からです。「一流の教養とは何か」を説明することはとても難しいです。教養を英語で表現するとculture、educationと訳されることが多く、大学の教養学部はliberal artsと訳されます。「教養」は知識とは異なり、すぐには役立たないけれど蓄積涵養されてやがてそれが有効に働き生きる力になると思っています。従って、幅広く物事の本質やそれぞれの関係性にアプローチしてゆく知識・技術・考え方、すなわち「私たちはどこから、何のためにやってきて、どこに行くのか」を探求することが教養ではないでしょうか。そこで社長塾では「宗教」「宇宙誕生」「人類誕生」「経済学」「歴史」「やまとごころ」「日本創造神話」「日本と日本人の誕生」「マナーと作法」をテーマとして取り上げています。
ボーダレスでグローバルな現代社会ではビジネスマンは国際人になるべく修練しなければなりません。国際人とは自分の国こと、例えば、建国や歴史、文化、経済、宗教、風習、マナーや作法、そして自分自身の事を相手に伝わるように伝えることができる人です。さらに相手の国の建国や歴史、宗教、経済、文化、風習やマナーにも日ごろから関心をもって理解を深めている人です。

例えば、非常にデリケートで感情的な話題として「宗教」があります。宗教は創造神話・文化・風習・マナー・作法と切っても切れない関係にあります。宗教の概要を理解しないと社会のシステムが理解できなことがたくさんあります。その土地固有のことはネイティヴな信者でなければわかりませんが、アウトラインを把握することはできます。知ったかぶりは厳禁ですが。
世界には無数の宗教がありそれぞれに多数の宗派があります。地域を超えて普及している宗教を世界宗教と呼び、土地固有の宗教を民族宗教と呼びます。世界宗教は大きく2つのグループがあり、一つは全体の56%を占める一神教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)、もう一つは21%を占める多神教(仏教、ヒンズー教)です。
神道は八百万の神々を信心する多神教で日本独自の信仰ですので民族宗教に属します。

古代より宗教勢力が拡大すると権力者と結びつきさらに急成長します。教団がさらに成長するには信者を増やせばよいので、増やすには領土を拡張すればよいわけです。最初は同じ宗教をもつヨーロッパやユーラシア大陸内での侵略合戦だったのが、大航海時代に代表される帝国主義の時代になると、冒険家が王族の支援を受けてこぞって未開の大陸(当時はアジアやジパング)探しに躍起になります。コロンブスがアメリカ大陸を発見すると最初に宣教師が派遣され布教が始まります。次に軍隊が派遣され先住民を支配して植民地化してゆきます。植民地の人たちが信者になれば宗教はさらに強大になります。人口が増えればいわば宗教(ほとんどがキリスト教)は領土拡張の戦略システムとして重要な役割を果たすようになります。
同様に商人ムハンマドが創始したイスラム教はビジネスと密接に結びついており取引に近い発想がありますので、入信すれば商売がしやすくなる、入信の敷居も低いことからあっというまに間に広がりました。イスラム教団はイスラム帝国になり権勢を極めましたが、モンゴル帝国の侵略に敗れて滅亡し、モンゴル帝国も自壊して分裂・弱体化したところを帝国主義国に植民地化されました。信仰はそのまま温存されました。

古代インドでは侵略者アーリア人が先住民を身分制度カースト(ヴァルナ)の最下層に位置付け、善行を積めば輪廻転生して今より良い生活ができると説いたバラモン教を統治システムとして創造しました。そんなバラモン教に疑問をもったゴータマ・シッダルタは悟りを開いてカーストを全否定した仏教を創造し誰でも楽土に行けると説きその教えはアジアに広まり世界宗教になりました。一方、バラモン教が土着宗教と融合して民族宗教ヒンズー教が生まれました。

主流宗教の大まかなおさらいをしましたが、さらに宗派別の流れを追うとさらに固有の理解が進みます。それぞれの国や地域で宗教があり、人が移動することで宗教も移動し、それが融合してそれぞれの土地にあった文化風習が生まれています。教養の一つに宗教を選んでいるのは「私たちはどこから、何のためにやってきて、どこに行くのか」を探求するためには不可欠だと考えているからです。
折を見て別の教養テーマもご紹介したいと思っています。