ミレニアムとセンチュリーが重なった21世紀から世界は調和の世紀に入りました。と思っていました、2019年12月までは。
世界の勢力図が目まぐるしく変化する中で、私たち中小企業はどのように生き残らねばならないのか、30年間先送りしてきた課題に直面しています。会社には「のぼり坂」「くだり坂」「まさか」があり、その都度深刻な問題や苦境があったと思いますが、知恵を絞って、社員一丸となって乗り越えてこられたことでしょう。
ベルリンの壁崩壊後以降の30年間は100年に一度のCOVID-19パンデミックやロシア・ウクライナ戦争もなく比較的平和な時期でした。これからの30年は今までにない時期になります。
今までは、会社の業績は1次方程式で単純化できました。①売上高=顧客数(口座数)×客単価。客単価=品目数×数量です。そして、②利益=(売上高×付加価値率)-固定費。付加価値率=(売上高-原価)÷売上高です。
利益を上げるには、売上高を増やすか、付加価値率を向上するか、コストダウンするか、固定費削減するかのどれかになります。そのそれぞれのアプローチに様々な具体的方法があります。例えば、売上高を上げるために、既存先のインストアシェアを高める、品目数を増やす、新商品を売り込む。いずれも一次方程式の解析モデルで解決できます。これを実現するために人材育成は不可欠なのは言うまでもありません。
しかし、これからの30年間は変数インパクトが多層重層に複雑に絡み合い論理矛盾を起こしています。
一つ目のインパクトは、サプライチェーン。地球規模で分業が進み、どこかの地域で何らかのトラブルが発生すると製品が完成しないリスクがあります。つまり、従来の仕入れが継続できる保証がなくなりました。災害起因によるトラブルは復興の目途は立ちますが、安全保障起因によるトラブルはめどが立ちません。
二つ目のインパクトは、為替です。日本で言えば、急激な円安です。それに伴い企業物価が高騰しています。海外でみれば日本への割安感となって現れます。1$=110円の時、300万円の車は27,272$でしたが、1$=140円になると21,428$で買えます。外資は「カントリーリスクがなく、給与水準は世界一安く、勤労意欲は世界最高水準で、勤勉・誠実・まじめな労働力を豊富に採用でき、しかも給与は自国の半分以下で採用できる」日本進出を目指すでしょう。
三つ目のインパクトは、労務環境です。30年間給与が上がっていない日本で、2019年に施行された「働き方改革関連法案」は労働観の激変をもたらしました。法律通り実施すると会社はますます時間と給与の交換場所になり下がりかねません。「いきがい」「やりがい」をどう持たせるか。また、政府はGDP成長率3%達成のために賃上げを人質に取って会社に丸投げしています。賃上げをしないと公共工事にも参加できない状態になっています。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると平均時給は男性で1631円、女性で1290円です。一方、アメリカ労働統計局の調査によると平均時給は4110円です。
さらにコロナ・パンデミックによる様々な領域でDX環境が急速に整備されリモートでも仕事ができるようになり、目の前にいない社員のモチベーションまでマネジメントする時代になりました。
これらのインパクトは結果的に企業物価の高騰という形で表面化していますし、ますます価格高騰が予想されます。価格改定又は付加価値商品の開発にチャレンジできない企業は淘汰されてゆきます。
1次方程式が多次方程式に変化しているのです。放置すれば最も大事な社員の離職が進みます。だからと言って明快な解はありません。しかし、私の体験上、明確な解が一つあります。「中小企業が際限なく規模拡大を追求すると衰退する。際限なく追及すべきは一人一人の社員の幸福、よりよい社会づくり。その結果として拡大するかもしれない」という解です。
大事なことは創業の原点に戻る事。「何のために経営するのか」
原点にあるのは、創業の精神、開店日の感激、人のありがたさです。そこには、我欲ではなくお客様に喜んでもらいたい、社会を良くしたいという大欲、大義がありました。これを今風の言葉で言えば「パーパス」と呼ぶのでしょうか? そこに戻ることが急がば回れです。
経営者が持つべき矜持は日本人としての誇り、連綿と継承されてきた日本文化、日本文明です。別の言葉で言えば、不易流行、衣食足りて礼節を知る。おかげさまで。もったいない。
外国人から「日本はどんな国ですか?」「誰が建国したのですか?」「日本の神話を聞かせてください」と聞かれて答えられる経営者でなければ混迷の時代を生き残れません。
日本の建国はBC660年、今年で2682年、世界最長です。神代の神話時代を含めればもっと長い歴史があります。経営者はこの文化を次代に継承する役割があります。連綿と継承された日本文化をベースに、企業経営では常に時代の最先端の技術を導入し革新につぐ革新を続けねば、いくら一時は栄えても必ず滅びます。これは伊勢の神宮に代表される「遷宮」による継承がお手本になります。
世界中の人々が日本に親愛の情と敬意をもって接してくれるのは、その歴史の中で継承されてきた文化によるところが大きいのです。
私は、ご縁があって裏千家の茶道に入門し、作法の奥にある精神を教えていただき、大宗匠の生きざまに触れ、千利休が追い求めた「和敬清寂」を知るにつけ、日本人のあるべき姿を今も学んでいます。
茶道には冠婚葬祭、作法、マナー、華道、香道、武士道、茶事等の全て要素が含まれており総合化されています。
「和敬清寂」はそのまま日本人の素養だと実感しています。「和」はだれとでもなごやかに、「敬」は相手を敬う心をもって、「清」は清らかに清潔に、「寂」は何事にも動じない気持ちで過ごすことです。
時を守り、場を浄め、礼を正すといいますが、同じ精神です。
先の家元である千玄室大宗匠は1923年4月19日生まれの99歳です。1月15日生まれの元台湾総統の故李登輝氏とは同年です。大宗匠は太平洋戦争では海軍に入隊し航空隊に配属されました。後の特攻隊です。「出撃の直前に部隊移動命令を受け生き残ってしまった」そうです。ドラマ「水戸黄門」で有名な俳優の故西村晃氏も同期で、同期では2名だけ生き残られたそうです。戦後の大宗匠はGHQ占領下のころから精力的に世界を回り、各国のリーダーにお茶を点ててこられました。リーダーに点てたお茶を渡す時「お茶碗は丸いでしょう? これは地球です。その中に緑のお茶がありますね。これは失われてゆく自然です。皆で平和な緑あふれる地球を大事にしましょう」とコメントされるそうです。
今日の提案。「会社の中で日本文化を育むことこそが地球平和を大事にすることにつながる。中小企業の経営者だからできる役割があります」