稲盛和夫師がお亡くなりになり、2週間がたちました。20世紀、中でも戦後の偉大な日本人経営者は数多くおられますが、20世紀と21世紀の2世紀にわたって偉大な経営者として輝き続けられた経営者は少ないです。中でも京セラを創業された稲盛和夫師は別格の経営者です。ここに2014年にサンマーク出版より出版された「京セラフィロソフィ」があります。稲盛和夫師82歳の時に書かれた名著です。今回は、その「まえがき」を転載し、経営者稲盛和夫師の本質に迫りたいと思います。
まえがき
1959年、私の技術を高く評価し、支援してくださる方々に、京セラという会社を作っていただきました。資本金300万円、従業員28名、間借りの社屋での創業でした。
しかし、創業するやいなや、さまざまな問題に直面しました。また、従業員が次々に私に決裁を求めてきます。その判断を間違えば、できたばかりの会社を傾け、従業員を路頭に迷わせることにもなりかねません。経営の経験や知識もない私は、「どうしたら、正しい判断をし、会社を発展させることができるのだろう」と、頭を抱かえることになりました。
悩んだ末に私が思いついたのが、「人間として何が正しいのか」と自らに問い、正しいことを正しいままに貫いていくことでした。誰もが子供のころに、学校の先生や両親から教えられ、良く知っている、プリミティブな倫理観があります。例えば、「欲張るな」「騙してはいけない」「うそを言うな」「正直であれ」と言った教えです。そのような普遍的な倫理観に基づいて、すべてのことを判断することにしたのです。
非常に単純な判断基準でしたが、それは物事の本質をとらえ、常に正しい判断を導くものでした。また、日常の仕事の進め方から経営のあり方、さらには人生万般に通じる、まさに原理原則と呼べるものでありました。
そのようにして、常に「人間として何が正しいのか」と、自分自身に問い、真摯に仕事や経営にあたり、人生を生きていく中から生まれた考え方が、本書のタイトルとなっている「京セラフィロソフィ」です。
この明快な判断基準があればこそ、私は、京セラやKDDI、そして日本航空の経営において、半世紀以上にもわたり、判断を誤ることなく、それぞれの会社を成長発展へと導くことができました。また、私は現在、82歳を迎えていますが、本当に幸せで満ち足りた、素晴らしい人生を送らせていただいています。これも、人生の節目節目で正しい決断へと導いてくれた、「京セラフィロソフィ」のおかげだと考えています。
私だけではありません。「京セラフィロソフィ」に基づいて著した「生き方」(サンマーク出版)をはじめ、私の著書を読まれた多くの皆さんから、「人生の苦しみや悩みから逃れることができ、夢と希望を抱けるようになりました」といった、喜びのお便りを数多く頂戴しています。「人間として何が正しいのか」という、普遍的な判断基準に基づく経営哲学が、業態を超えて、企業の成長発展の礎となったばかりか、人生哲学として、多くの人々が幸せな人生を送る糧となっています。(中略)
この「京セラフィロソフィ」には、私の考え方、そして生き方の原点があります。80有余年に及ぶ、私の経営と人生の結晶ともいうべき本書が、ビジネスの世界に身を置く方々はもちろん、広く一般の方々、例えば、先生や学生の皆さん、また主婦の皆さんにとりましても、進むべき道を指し示す「羅針盤」となり、実り多き経営、充実した人生を送る一助となりますことを、心より祈念申し上げます」
主なフィロソフィを見てみましょう。詳しくは「京セラフィロソフィ」(サンマーク出版)をご覧ください。
「宇宙の意思と調和する心」「愛と誠と調和の心をベースとする」「きれいな心で願望を描く」「素直な心を持つ」「常に謙虚であらねばならない」「感謝の気持ちを持つ」「常に明るく」「仲間のために尽くす」「信頼関係を築く」「完全主義を貫く」「まじめに一生懸命仕事に打ち込む」「地味な努力を積み重ねる」「自ら燃える」「仕事を好きになる」「物事の本質を究める」「渦の中心になれ」「率先垂範する」「自らを追い込む」「土俵の真ん中で相撲を取る」「本年でぶつかれ」「私心のない判断を行う」「バランスの取れた人間性を備える」「知識より体得を重視する」「常に創造的な仕事をする」「利他の心を判断基準にする」「大胆さと細心さを併せ持つ」「有意注意で判断力を磨く」「フェアプレイ精神を貫く」「公私のけじめを大切にする」「潜在意識にまで透徹する強い持続した願望を持つ」「人間の無限の可能性を追求する」「チャレンジ精神を持つ」「開拓者であれ」「もうダメだというときが仕事の始まり」「信念を貫く」「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」「真の勇気を持つ」「闘争心を燃やす」「自らの道は自ら切りひらく」「有言実行でことにあたる」「見えてくるまで考え抜く」「成功するまであきらめない」「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」「一日一日をど真剣に生きる」「心に描いたとおりになる」「夢を描く」「動機善なりや、私心なかりしか」「純粋な心で人生を歩む」「小善は大悪に似たり」「反省ある人生をおくる」「心をベースとして経営する」「公明正大に利益を追求する」「原理原則に従う」「お客様第一主義を貫く」「大家族主義で経営絵する」「実力主義に徹する」「パートナーシップを重視する」「全員参加で経営する」「ベクトルを合わせる」「独創性を重んじる」「ガラス張り経営に徹する」「高い目標を持つ」「値決めは経営である」「売上を極大に、経費を最小に(入るを量って出を制する)」「日々採算を作る」「健全資産の原則を貫く」「能力を未来進行形でとらえる」「目標を周知徹底する」「採算意識を高める」「倹約を旨とする」「必要な時に必要なだけ購入する」「現場主義に徹する」「経験則を重視する」「手の切れるような製品を作る」「製品の語りかける声に耳を傾ける」「1対1対応の原則を貫く」「ダブルチェックの原則を貫く」「物事をシンプルにとらえる」
多くの学びを胸に、稲盛和夫師のご冥福をお祈りいたします。