No.1208 ≪食糧自給率を高めるビジネス≫-2022.4.20

1952年4月28日はGHQの占領下にあった日本が主権回復して独立した日です。今年で70周年になります。昭和生まれの私は4月29日といえば昭和天皇誕生日(崩御後はみどりの日、今は昭和の日)はよく知っていましたが、4月28日は何のお祝いも行事もありません。不思議ですね。独立記念日をスルーする国は世界でも珍しいと思います。経済面では世界第3位の超大国で、文化面でも世界に冠たる存在にあります。しかし、外交や安全保障面ではアメリカの厚意?に依存した極めて低い認識しかないのが実情です。本来の外交は軍事力の裏付けがあって成り立つものですが、日本には憲法で交戦権を認めていませんのでそれがありません。ある識者が「日本にあるのは外交ではなく社交だ」と喝破しています。この辺りは、今回のウクライナ戦争から大いに学び教訓にすべきだと思います。最近ロシアの有力者が「ロシアは北海道にすべての権利を有している」と発言しているようです。中国は沖縄の領有権を主張しています。2つの超大国の隣国が領有権を主張している中に私たちはいることを認識しなければなりません。

さて前回のエネルギーの自給に続き、今回は食料の自給についてお届けします。
日常生活を送るうえで水と食料は最も重要な資源です。災害や戦争による輸入途絶が起きたときはなおさら重要性は増します。1945年9月27日、昭和天皇はGHQのマッカーサー元帥に面会を求め、こうおっしゃいました。(中公文庫刊「マッカーサー大戦回顧録」P425~426より)
「私は、国民が戦争遂行するにあたって、政治、軍事両面で行ったすべての決定と行動に対する全責任を負うものとして、私自身をあなたの代表する諸国の採決に委ねるためお訪ねした」
命乞いの面会だと思っていたマッカーサーは驚き感動し「個人の資格においても日本の最上の紳士であることを感じ取ったのである」と記述しています。
敗戦直後の1945年10月は1000万人餓死説が流布されるほど食料不足が深刻でした。昭和天皇のマッカーサー訪問後のGHQの動きは早く、日本国内の食料供出を促すとともにそれが必要量の60%前後しかないことがわかると、通常貿易では間に合わないと判断し、GHQの食糧援助という形で1946年6月に小麦粉1万トンを放出し、これを皮切りに4月以降68万トン、7月にはガリオア資金による援助で毎年300万トンが国内に放出され、餓死危機を乗り切りました。

食料戦略がいかに国の盛衰を左右するか。1000万人が餓死する危機がたった77年前の日本にあったのです。そして、今は世界に冠たる飽食の国になり、年間の食料廃棄量は1535万トンに上り世界第2位です。国民一人当たり128kgに相当し、自給率に換算するとカロリーベースでは35%、生産額ベースでは65%に相当します。これには食品衛生法で賞味期限や消費期限の明示が義務付けられていることも大きな要因だろうと思います。
同じ生活を続けていると、ある日突然災害が発生し、すべての店舗から食料が消えたらどうなるでしょうか?
1995年1月17日の阪神淡路大震災であらゆる店舗から食品が消えました。破壊され寸断された道路をトラックが通行できず、ヘリコプターによる空輸かバイクによる輸送しか方法がありませんでした。阪神間以外の地域には有り余るほど食料はあるのに、必要なところには何もなかったのです。明日起きないとも言い切れないすぐそこにある危機です。

さらに安全保障の観点から見れば、食料自給率の問題になります。
日本の食料自給率を見る場合、カロリーベースと生産高ベースの両方があります。カロリーベースは輸入も含まれますが生産高ベースは国産が基本です。農林水産省のホームページから2021年の日本の食料自給率https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html を見ると、カロリーベースでは37%と年々低下しています。生産額ベースでは67%です。これは国産品の価格が高いので全需要における国産額の比率では67%となりますが、だれもが高額な国産品を購入できるわけではないので必要な栄養(カロリーベース)からみた自給率は37%となります。安全保障的にはこの数字を100%以上にすることが必要です。
種類別カロリーベースの自給率をみると、米98.3%、小麦15%、いも類66%、でんぷん9%、大豆21%、野菜67%、果物31%、畜産物16%、魚介類51%、砂糖類37%、油脂類3%です。
畜産物は国産飼料か輸入飼料かで自給率が変わります。畜産物の自給率16%は国産飼料を使った場合です。輸入飼料を使って飼育している場合だと自給率は63%となり、飼料の多くを輸入に依存していることがわかります。この数字を見てどう思われますか? 

国民食である米は政府が税金で100万トンを備蓄しており、民間備蓄と合わせると約400万トン(半年分相当)あります。今はコメ離れしている時代ですのでそれほど多い数字とは言えませんが、それでも理論上、半年程度は食いつなげますので時間稼ぎができます。
問題は油脂類やでんぷん、小麦、大豆、砂糖類は深刻です。世界のどこかでトラブルが発生すればたちまち跳ね返ってくるからです。油脂類の大半を占めるパーム油脂はインドネシアとマレーシアからの輸入です。大豆はアメリカ73%、ブラジル16%、カナダ10%から輸入されています。小麦はアメリカ50%、オーストラリア33%、カナダ17%から輸入しています。これらの国々との外交や交流はより一層重要です。

中小企業の経営者にとって、国難である「自給率の改善」をどのようにビジネスや社会事業として取り組むかが課題です。小さく生んで大きく育てる。このようなビジネスは論理的合理的な計算より危機感や直感から行動した方が良いと思います。
SDGSとの親和性、若い人たちの自然回帰、家族優先といったトレンドとも合致します。さらに新規事業でも既存事業の周辺事業、多角化事業としてとらえてもよいですし、商品開発の一つに加えてもよいのではないでしょうか。いざという時にきっと役立ちます。

早くから農業ビジネスに参入しているパソナグループ「パソナ農援隊」、業務スーパーを展開している神戸物産はエネルギー自給率と食料自給率の向上を目指し、地熱発電と牧場経営やエビ養殖などの事業も手がけることが話題になっています。
他にも農業ベンチャーとして注目されているのが、収穫ロボットのinaho社、畜産用の健康管理センサーを開発しているファームノート社、ドローンを使った作物の見える化システムを提供するスカイマティクス社、浅井農園とデンソーが合弁で栽培技術を提供するアグリッド社等です。
いまでは老舗といえるオイシックス社、らでゅっしゅぼーや社、京大ベンチャーの坂の途中社なども活躍しています。ミドリムシ栽培のユーグレナ社もエネルギーと食料問題を解決するベンチャー企業です。
沖縄で独自開発した「ちゅら菜」を植物工場で生産されている神谷産業も注目企業です。

余談ですが、私はかって沖縄特産の泡盛を使った調味液の「コーレーグス」を酒造メーカーとともに共同開発したことがあります。泡盛に唐辛子をいれた辛味調味料です。もともと沖縄そばには欠かせない調味料で自家製が多かったのですが、製造・販売するとなると国税事務所の許可がいります。国税事務所に問い合わせると泡盛が主体だと酒税法で許可がいるが、唐辛子が主体だと調味料なので酒税法対象ではない。ならばその割合はどの程度かと聞くと「お答えできません」という。別のメーカーが販売していた「コーレーグス」が酒税法違反で摘発されたので余計に割合が聞きたかったのですが、結局教えてもらえませんでした。市販の他社製品を比べて唐辛子の割合が20個以上入っていると摘発されないようなので、この線で計画しましたが、摘発リスクを懸念して酒造メーカーが辞退され、大量のコーレーグスを廃棄したことがあります。

食料問題は、やってみないとわからないことが多々あります。小さく生んで大きく育てましょう。いずれやってくる日本の危機をチャンスに変えるために。