No.1128 ≪なるほど! こんなやり方があったのか≫-2020.9.2

安倍総理の辞任会見の後、自民党総裁選でマスコミはコロナどころではないようです。
それはさておき、最近話題になっている「仕掛学」という学問をご存じでしょうか? コロナ禍で特に脚光を浴びています。なぜなら、だれも何も言わなくても自然に人々の行動変容を促すことができるからです。ご興味のある方は「仕掛学」松村真宏著 東洋経済新報社刊@1650をご覧ください。

2006年にイギリスの航空関係の調査会社SkyTrax社が世界の空港ランキングを発表しました。残念ながら世界1位は韓国のインチョン空港でしたが、世界一きれいなトイレは関西空港でした。(注 その後2016年~3年連続で羽田空港です)日ごろよく利用していた空港ですので、「なぜトイレが世界一なのか」知りたくて改めてトイレを見てみると、ありました。「あっ、これか!」男性小便器の排水口の約10cm上方に◎の的(まと)がついているのです。
不思議なもので、人は的(まと)があるとそこを狙いたくなるものです。立ち位置を考え、的(まと)を狙って放尿するので飛び散ることがありません。以前は足元が汚れていることが多かったので、そこを避けて後ろに下がって用を足すものですから余計に飛び散って汚れてしまいました。それが◎があるだけで、一歩前進、狙いを定めて汚しません。まさに、この◎が仕掛学の真骨頂だそうです。

この学問を研究し社会の問題解決を提唱しておられるのは大阪大学大学院経済学研究科 経営学系専攻の松村真宏教授です。もとはAIの研究者でしたが、AIはデータがそろわなければ役に立たないことに限界を感じていたところ、大阪の天王寺動物園の階段の手すりに筒がついていました。ありそうもないものがあると「何だろう」と興味を持つものです。勇気を出して一人の子がのぞき込んで、「キャー」と喜んでいるのを見て、ほかの子も見たくて仕方がありません。この様子を見て、データがなくても人の行動を変えることができると気づきこの研究に入ったそうです。ちなみに、その筒を覗いてみると「象の糞」のオブジェが展示してあったそうです。
このような仕掛学の事例を挙げてみますので皆さんも考えてみてください。

ある家の壁にごみの不法投棄や散歩中の犬が用足しをして困っていました。注意を促す貼り紙をしましたが効果はありません。防犯カメラを設置して犯人を見つけて注意する方法もありますが、お金もかかりますし、逆切れされても怖いです。あなたならどう解決しますか? 松村先生は家の壁に小さな鳥居を置きました。効果はてきめん。不法投棄もペットの用足しもなくなりました。

保育園で、一面に散らかったおもちゃを片付けさせるのに手を焼いていました。注意してもなかなか聞きません。一緒に片づけたりしますが、続きません。どうしたものかと思案したところ、ごみ箱にバスケットゴールを付けたのです。するとどうでしょう。我先に子供が喜んでバスケットゴールにおもちゃを入れてゆくのです。あっという間に、問題は解決してしまいました。

コロナ禍の今はスーパーでの試食販売は憚られますが、コロナ前は盛んにおこなわれていました。いかに試食をしていただくかで業績が変わりますので、試食回数を増やす工夫を重ねていました。声で勧誘したり、ポップを書いたり、さくらを準備したり。一向に効果がありませんでした。そこで、2種類の試食を準備して、それぞれにツマヨージを付け、「あなたの好きな味はどちら?」と書いて2つの皿にツマヨージで投票してもらうようにしたのです。試食回数が激増したのは言うまでもありません。

コロナ禍になり、ソーシャルディスタンスを要求されるようになると試食販売ができません。そこで、人形劇団の協力を得て、スタッフは箱の中に入り、操り人形に声掛けをさせたのです。人間だと警戒して近づかないのに人形だと物珍しそうに近寄って頭をなでてゆきます。間髪入れず人形が「買ってください」と言うと買い物かごに入れてゆきました。通常だと1時間に1個程度の販売が、1時間半で20個完売してしまいました。これには後日談あり。人形劇団はコロナ禍で公演キャンセルで仕事がなくて困っていました。人形を使った販売促進が新たなビジネスになったそうです。

エスカレーターに乗る時、大阪では右側に立ち、東京では左側、京都でも左側で、土地土地によって煩わしいことこの上ないものです。反対側は急ぐ人に開けておかないと叱られます。しかし、駅は「エスカレーターは歩かないでください」と言います。どうすればよいのかと思いませんか。そこで松村先生は、反対側に両足の絵をかいておく実験をしました。するとどうでしょう、エスカレーターに2名づつ並んで乗り込みながら、だれも歩くことはなくなりました。一言も注意していないし、張り紙もしないのに。
そこで大阪駅は朝のラッシュ時、混雑するエスカレーターから利用の少ない階段に誘導するために松村先生とコラボして実験をしました。床に「アフター5で行くなら、(左側)天満? (右側)福島?」と問いかけの表示をしました。すると、天満に行こうと思った人は階段の左側を、福島の人は右側を登りました。階段を上り切ると左右の天井に設置したセンサーがカウンター表示され皆が見ることができます。すると、「ああ、今日は天満に行く人が多いんだ」と分かるわけです。

「誰も不利益を被らない」のに「行動が誘われる」、しかも「仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が異なる」ことが仕掛学の要件だそうです。 コロナ禍の真っ最中ですが、このようなちょっとしたひねりで楽しみながら行動が変わってゆくのはとても素晴らしいです。会社の中でもいっぱい仕掛けできることがありそうです。