No.1380 ≪「令和のコメ問題」から企業経営を学ぶ(その3)≫-2025.8.27

2025年5月30日付の当メルマガ「令和の米不足から企業経営を学ぶ(その2)」をお伝えしてから3か月、小泉農水相の農政転換が明確になってきました。減反政策中止と畑地稲作が柱になって、輸入米とのコスト競争力を持てるビジネスモデルに予算をつけると明言されています。ぜひ、実現していただきたいものです。

前回私が提案したのは「多期作が可能な環境整備」「収量増大の種子開発」「生産性を激増させる圃場整備」「農業ビジネス参入への規制緩和」「農産業の構造改革」の5つで大規模農業生産法人が前提です。産業化するには若者が魅力を感じて参加するビジネスモデルが不可欠です。農家の忍耐を前提とする従来のやり方では5~10年後には破綻します。

そこで、今回全面に出てきた畑地稲作(以後畑地と言う)を水田稲作(以降水稲という)と設備と手間と生産性の3つの切り口で比較してみました。
1.設備面でみると、【水稲】は水路、ため池、用水ポンプなどの灌漑設備が必須で、入水・落水・排水という水管理に大きな手間がかかり負担だが、田植え機やコンバインなど稲作用機械が充実している。
一方、【畑地】は基本的に大規模な水管理設備は不要でパイプライン等の畑地灌漑レベルで済む場合が多い。播種は直播きなので播種機を使うことができる。問題は雑草対策が必須でそのための除草機やマルチ資材が必要になる。
2.手間の面でみると、【水稲】は苗代で育苗した後に田植えを行い、田植えの後は常時水管理が必要です。これは水を張ることで雑草抑制するからです。
一方、【畑地】は直播栽培のため種籾をそのまま播くので苗代がいらない。また、水管理の手間がほぼない。反面、雑草対策が大変で除草剤を多用したり機械除草の回数が増える。また、干ばつ時は水やりが必要で労力がかかる。
3. 生産性の面で見ると、【水稲】は日本の気候・土壌に適しており安定した高収量(1haあたり6t前後)で、水で守られているため倒伏・高温障害に比較的強いので品質も安定しやすい。
一方、【畑地】は雨量や灌漑条件に左右されやすく、干ばつや高温で減収リスクも大きい。収量は水稲より低め(1haあたり3t前後)。直播のため省力化できるので労働生産性高い。品質は栽培条件次第でブレやすい。
報道では水稲は大量の水を扱うので手間がかかるが畑作は水は少なくて済むので生産性が高くコスト競争力が高いように言われていますが、実際のところは雑草対策次第で変わる可能性もあります。場所によって水稲にするか畑地にするかを選択することになると思います。

それぞれメリットデメリットはありますが、大規模農業生産法人として経営的にどうなるかシミュレーションしてみました。
前提条件は「耕作面積:100ha、収量は水稲で5.5t/ha、畑地で4.0t/ha 、人件費は430万円/人・年、設備償却は水稲で2,000万円/年、畑地で1,000万円/年、資材費は水稲で6,000万円/年、畑地で4,500万円/年。販管費(金利含む)は水稲で1,500万円/年、畑地で1,100万円/年。税率:25%(農業生産法人特例)。1人当たり耕作面積は7haとし、社員は15人」と設定しました。
収量は水稲で5.5t/ha×100ha=550t。畑地で4t/ha×100ha=400t。生産総原価は水稲で(430万×15人)+2000万円+6000万円+1500万円=15,950万円、畑地で(430万×15人)+1000万円+4500万円+1100万円=13,050万円。
【水稲の場合】生産コストは生産総原価15950万円÷550t=290円/kgです。値入率を25%とみると売渡価格は363円/kg。売上高は550t×363円/kg=19,965万円 経常利益は売上高19,965万円-総原価15,950万円=4,015万円、法人税は3,011万円 一人当たり経常利益は200万円。
【畑地の場合】生産コストは生産総原価13,050万円÷400t=326円/kgです。値入率を25%とみると売渡価格は407円/kg。売上高は400t×407円/kg=16,280万円 経常利益は売上高16,280万円-総原価13,050万円=3,230万円、法人税は2,422万円 一人当たり経常利益は161万円
このモデルは海外輸入米と比較して競争力があるか確認すると、輸入米原価はCalrose米等でkg当たり250-350円と言われていますので、水稲で290円/kg、畑作で326円/kgなのでギリギリです。競争力があると言えません。
競争力をさらに強くするためには単位面積当たりの収量を増やす、一人当たりの耕地面積を増やすことがポイントになります。そういう観点では、私の提案する5つの対策は必要だということになります。

1人農家の場合は耕作面積2haが限界です。採算に乗せるためにはいくら高くても言い値で買うというお客様で売り切るぐらいでないと難しいです。通常のブランド米を通常の収量生産だと、給料は年間80万円~100万円がせいぜいになります。これでは跡を継ぎたい若者はいません。今回の農政でこのあたりがどのように対応するかはわかりませんが、今の平均年齢が68歳以上ですのでいずれ限界が来ることは誰の目から見ても明らかです。
食の安全保障からも、若者の参入を増やして持続性を高める面からも、供給側もユーザー側もともにハッピーになる面からも大規模生産法人にダイナミックにシフトする農政に期待したいと思います。