No.1325 ≪中小企業は「農夫の心」で開拓し「漁師の技」で深耕する(その3)≫-2024.8.14

先週の木曜日(8月8日)14:43分に発生した宮崎県日南地方の震度6弱の地震、その後の台風5号、7号の豪雨の被害はございませんでしたでしょうか。お見舞い申し上げます。

さて、フジゲンストーリーは今回が最後です。
社長に就任して赤字解消のための再建計画(生産性30%UP)を発表すると社員の猛反発に会い頓挫してしまった。
「勝手にしろ」と言って席を立ったものの、横内社長は原因自分論で反省し、書店でたくさんの本を買い込んで勉強した。読書しながら「社長の私が社員に慕われ、信頼され、尊敬されていなければならない。私が世界一の社長になろう。社長の会社ではなく、自分たちの会社を作ることを皆の目標にしよう」と次第に思うようになっていった。
その時電話が鳴った。深夜の12時である。
「社長、いま計画書が出来上がりました。ぜひ社長に見てもらいたいので会社にいただけませんか。」
私が席をけって会社を飛び出してから、彼らは計画を作っていたというのか、横内社長は胸が熱くなり言葉が出なかった。「あれから、自分たちでいろいろ考えてようやく出来上がったんです」と社員。
翌朝、計画書に目を通して、ここ数日考えていたことを話し「みんなで一緒にやろう。『社長の会社』ではなくみんなが『自分の会社』といえるような会社を作ろうじゃないか」皆の気持ちが一つになった。
そして、3つの目標を掲げた。
「私たちは世界的に価値ある楽器を作る」
「私たちは会社の継続的会発展により生活の向上をはかる」
「私たちは仕事を通じて地域社会と国家に価値ある存在になる」
そして、楽器を除く木工関連の全廃を決めて本道のギターで生きる決断を下したのです。

横内社長はニューヨークの楽器店巡りの時「同じ楽器なのになぜこうも値段が違うのか」疑問だった。アメリカのフェンダー社製は100$、ドイツのカールホフナー社製は150$、フジゲン製は20$、韓国製は10$である。(いずれも1965年時点)
手に取った感じもつま弾いた音も変わらないのに、150$と10$の違いは何なのか。わからないことは現地現場を見ることだ。

横内社長はフェンダー社を訪問して驚いた。工場の中はふかふかのじゅうたんが敷かれ、コーラを飲みながら仕事をしている。ラジオからは大音量の野球放送が聞こえている。社員の服装も髪型もバラバラで笑いながら楽しい雰囲気の中でギターを作っている。これが100$のギターか。

ドイツのカールホフナー社を訪問した。誰もが誇りをもって自信に満ち溢れていた。
「このギターをちょっと弾いてみてください。私が作ったギターです」と自慢げに話してくる。素晴らしいですねと答えると「そうでしょう。私はマイスター、ドイツで一番腕の良い職人です」といってマイスター証明書を出してきた。これが150$のギターか。

韓国の会社も訪問した。皆が真剣に働いており、高い場所に監視台があり、少しでも手を休めると叱責の罵声が飛んでくる。緊張感が漂い、誰一人笑顔がない。皆、お金のために働いているのだ。これが10$のギターか。

旅から帰った横内社長は宣言した。「世界一の会社になろう」
「フェンダー社の上を行こう。カールホフナー社の上を行こう。みんなが喜びと誇りに満ち溢れ、楽しく働けるような世界一の会社で世界一のギターを作ろう」社員は「世界一」とはどんなものかイメージできなかった。
この時から、社員一人一人が世界一になる、ギターを作る前に人間の本質を磨き上げる、世界一の人間作りの会社作りがスタートした。
自分たちの一番身近なところから見直そうと全員参加で24の委員会が組織された。
例えば、世界一の電話の『もしもし』はどんな『もしもし』だろうか、世界一のあいさつはどんな『おはようございます』だろうか、世界一の掃除はどんな掃除の仕方だろうか、世界一の『ハイ』はどんな『ハイ』だろうか、世界一の機械メンテナンスはどんな状態だろうかと皆で互いに話し合ったのである。
いつの間にか、木工会社なのに木屑一つ落ちていない工場になり、汚れ一つない制服、出会う人には笑顔で元気よく『おはようございます』という声かけが当たり前になってきた。来社されるお客様のお褒めの言葉も増えてきた。少しづつではあるが、フェンダー社やカールホフナー社に近づいていることを横内社長は実感していた。

販売面においても直接貿易によるOEM生産ではなく、自社ブランドを商社に委託して販売する間接貿易に切り替えた。輸出は星野楽器に、国内は神田楽器に委託することにした。ブランドも統一し、海外は「イバニーゼ」、国内は「グレコ」と決定した。製品も高品質製品の割合を増やしていった。海外の人気バンドのギターはイバニーゼのロゴが増えてゆき、国内の人気バンドのギターの65%はグレコが普及していった。

海外のトップブランドメーカーが視察に来社し、フジゲンの秘密を知りたがった。その都度横内社長は「人づくりです。この工場は人を作る工場です。立派な人間を作りながらギターを作っています」と答えた。
人づくりのフジゲンには国内外のトップブランドメーカーからJVの提案があり、その中で、シンセサイザーのローランド社、アメリカのフェンダー社との合弁が実現した。
フジゲンはギター製造で世界一の地位を創業後26年で確立したのです。1986年、横内氏49歳の時です。

横内祐一郎著「運を掴む」(学研刊)を参考にして、3週にわたってギター製造世界一の「フジゲン」の横内社長が人づくり経営に目覚める物語をお送りいたしました。
農耕営業の基本は荒れ地の整地から始まります。人力で荒れ地を切り開き、石を取り除き、ひたすら耕し、良い土壌を作る。そして種をまいて育てる。365日24時間労を惜しまず、育てていても災害や獣害に遭遇します。それでもあきらめずに豊作になるよう一からコツコツ続け、ついに豊かな実りを手にする。その成果は関係する多くの人々の心からの協力のおかげで成り立っています。関係する人々が幸せに豊かになれるようにひたすら努力することが農耕営業の基本です。